夜の月詠
「夜の月詠、見たことねぇだろ?ちょっくら散歩しよぜ!」
放課後の教室。
突然そんな提案をしだしたのは、
モズだった。
ニヒッと笑う。
「……夜の月詠?」
レンは首を傾げる。
「なんか変わった所でもあんの?」
「すげえの見したる」
ちょっと得意げにモズは言う。
その話を、
近くで聞いていたノンもふわっと近寄ってきた。
「あー楽しそ〜」
「私もいきたいなー」
「おけおけ、んじゃ今日の夜決行な!」
そんなこんなで今。
黒いローブを羽織った、
怪しい三人組。
夜の月詠魔法大学探検が、
開始していた。
「…………うんうん、夜だもんな」
「誰かに気づかれるとまずいもんな……」
レン、
少し考える。
「……ってなるかぁぁぁあ!!」
レンは、
真っ黒なフード付きローブを着せられていた。
「なんでこんな格好すんの!?」
「潜入だから」
モズ、
めちゃくちゃノリノリ。
しかも。
頭には黒いゴーグル。
無駄装備。
レン:
「いや待て」
その横で。
ノンまで、
黒マントを羽織っていた。
しかも。
何故か口元に黒布。
「ふふっ、怪盗っぽい〜」
「お前もやるんかぁい!!」
レン、
即ツッコミ。
しかもノン。
額に手を当て、
無駄にポーズ決めてる。
「月夜の怪盗ノンです」
「誰だよ!?」
モズ、
腹抱えて笑う。
「ワン公もポーズしろよ!」
「……そうだな」
レンはポケットから、
手品用のトランプと薔薇を取り出した。
そして。
目を閉じながら、
それっぽくポーズ。
「こんなのどうすか?」
「「…………」」
「引くんかい!!振っといて引くんかい!!」
レンは恥ずかしそうに、
手品グッズをポケットへ戻した。
モズ、
まだ笑ってる。
「いや絶妙にダサくてよぉ……!」
「なんだよその感想!!」
そんな騒がしいまま。
三人は、
特別編入生区画の窓からこっそり外へ抜け出した。
夜。
月詠魔法大学は、
昼とはまるで別の場所みたいだった。
レンは思わず足を止める。
「……うわ」
空。
夜空一面に。
無数の光が浮かんでいた。
星じゃない。
小さな魔法灯。
淡く光る魔力の粒が、
空をゆっくり漂っている。
まるで、
夜空そのものが生きてるみたいだった。
「綺麗……」
レンがぽつりと呟く。
ノンも空を見上げる。
「夜の月詠好きなんだぁ」
モズは得意げだった。
「だろ?」
風が吹く。
黒ローブが揺れる。
静かな夜。
昼間の賑やかな学園とは、
まるで別世界だった。
三人は夜の校内を巡った。
浮いてる街灯。
勝手に動く掃除道具。
夜だけ開く温室。
喋る本。
レン、
いちいち感動する。
「うお!?!?本喋った!!」
「お前反応おもしれぇなぁ」
「普通驚くだろ!!」
騒ぎすぎた。
その時。
「…………」
空気が止まる。
暗い廊下の奥。
黒い影。
レン:
「…………」
モズ:
「…………」
ノン:
「…………」
影が動く。
ボイド先生だった。
数秒沈黙。
そして。
「ひゃあっ!!?」
「うわぁっ!!?」
「わっ」
全員びっくりした。
ボイド先生、
ガタガタ震えてる。
レンたちもびっくりしてる。
モズ:
「び、びびったぁ!!」
ボイド:
「こっちのセリフだよぉ!!」
ボイド先生、
半透明になりかけてる。
そして。
三人の格好を見て固まった。
「えっ」
「……な、なんだその格好!?」
「え、怪盗!?!?」
めちゃくちゃ戸惑ってる。
黒ローブ三人組。
完全に不審者。
ノン、
スッと前へ出る。
真顔。
「怪盗ノンです」
「「名乗んな」」
レンとモズ、
同時ツッコミ。
ボイド先生、
ハッとする。
「……って白羽ノンさん!?!?」
「あ」
「おおお大神レンくん!?それにモズ・スターリング君!?」
「バレた!!」
モズ、
即座に方向転換。
だが。
ボイド先生、
今度は教師スイッチが入る。
「……って違う!!」
「夜間の校内巡回は禁止だからね!?」
「やっべ」
モズ、
笑ってる。
ボイド先生、
黒いメモ帳取り出す。
「だ、だから補導します!!」
「逃げろワン公!!」
モズ、
即座に箒召喚。
ヒュンッ!!
そのまま空へ。
黒ローブがバサッと翻る。
「うおっ!?」
レンは普通に走った。
全力疾走。
黒ローブ、
めちゃくちゃ走りづらい。
ノンは。
「待ってぇ〜」
黒マント姿のまま、
ふわふわ浮きながら付いてくる。
速い。
怖い。
ボイド先生、
慌てて追いかける。
「待ちなさぁぁい!!」
廊下を駆け抜ける。
曲がる。
飛ぶ。
レンだけ徒歩。
「ワン公なんで箒出さねぇんだよ!?」
モズが上から叫ぶ。
レン、
反射で。
「出せないんだよ!」
危ない。
「……っ、ま、まだ買ってないんだよ!!」
モズ:
「あ、そだったそだった!」
普通に納得した。
危なかった。
その時。
ノンがふわっとレンへ手を向ける。
「ん〜」
次の瞬間。
レンの身体が浮いた。
「うわぁっ!?」
「運んであげる〜」
「うおぉぉぉ怖ぇぇぇ!!」
レン、
黒ローブ姿で空中バタバタ。
完全に怪しい。
でも。
ノンの浮遊魔法、
絶妙に雑。
曲がり角。
ギュンッ!!
「ちょっ、速っ――!?」
後ろでは。
ボイド先生が必死。
「待っ、待ってぇぇ!!」
完全に追いかけっこだった。
そして。
なんとか。
ボイド先生を撒いた。
「はぁっ……はぁっ……」
レン、
息切れ。
モズはケラケラ笑ってる。
ノンは全然疲れてない。
「撒いたかぁ?」
「た、たぶんな……」
レン、
安心しかける。
だが。
ノンの浮遊魔法、
まだ続いていた。
「え、ちょ、待っ――」
ブレーキない。
止まれない。
そのまま。
ドォォォンッ!!!!
レン、
壁へ激突。
「ぐぇっ!!」
壁、
ちょっと壊れた。
静寂。
三人:
「…………」
レン:
「やべ」
ヒビ入ってる。
モズ、
笑い堪えてる。
「ワン公お前……」
「笑ってる場合じゃねぇだろ!?」
だが。
後ろからボイド先生は来ない。
どうやら本当に撒けたらしい。
三人、
ホッと息を吐く。
「明日怒られるだろうなぁ……」
「壁壊したしねぇ」
「絶対俺のせいになるやつじゃん……」
その時だった。
「騒がしい」
低い男の声。
空気が変わる。
三人、
同時に振り返る。
そこには。
白衣を羽織った男が立っていた。
月明かり。
逆光。
顔はよく見えない。
黒縁メガネだけが、
わずかに光る。
静かな声だった。
でも。
妙に冷たい。
「研究に支障が出る」
レン、
ゾクッとする。
理由は分からない。
でも。
本能的に。
“嫌な感じ”がした。
男の視線が。
ゆっくりと。
レンを捉える。
じっ――。
まるで、
何かを観察するみたいに。
「…………」
レン、
背筋が冷える。
すると男が。
小さく呟いた。
「……ほう」
何かに気づいた顔。
その瞬間。
モズの表情が変わる。
反射だった。
「行くぞ」
モズが、
レンとノンの手を掴む。
そのまま走る。
レン:
「えっ」
ノンも、
珍しく何も言わなかった。
三人はその場を去る。
男は追わない。
ただ。
去っていく背中を、
静かに見つめていた。
そして。
右手の中指で、
眼鏡の位置を整える。
口元が、
ゆっくり歪む。
「……魔力核のない者」
静かな声。
不気味な笑み。
「興味深い」
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