ボイド先生ビビり克服大作戦(後編)
月詠魔法大学。
昼下がり。
ボイド先生は、
一人で廊下を歩いていた。
「……平常心、平常心……」
ブツブツ。
自分に言い聞かせる。
あの克服訓練以降。
若干。
ほんの若干だけ。
レン耐性がついた気がする。
気がするだけ。
その時だった。
「あー違う違う!そこ!」
「えぇ!?!?」
聞こえた。
レンとモズの声。
ボイド:
「ヒッ」
反射で物陰へ隠れる。
スッ。
壁にぴったり張り付く。
でも。
全然隠れきれてない。
マントはみ出てる。
しかも何故か、
その辺に落ちてた木の枝を持っている。
「…………」
本人は隠密のつもり。
なお幽霊なので、
少し透ければ済む話。
でも。
テンパりすぎて、
そんな余裕ない。
通りかかった学生が、
不思議そうに見る。
「あれボイド先生……?」
「何してるんだ?」
「さ、さぁ……」
ボイド先生、
枝持ったまま固まる。
「…………」
学生たち、
気まずそうに去っていった。
ボイド:
「……違うんだ」
何が。
恐る恐る、
声のする方を見る。
大学の中庭。
ベンチ。
そこに。
レンとモズがいた。
モズがベンチへ座り、
教科書を広げている。
レンはその横で、
めちゃくちゃ真面目な顔してノートを書いていた。
「だから火属性は水属性に弱い」
「うん」
「でもそこに風属性が加わると話変わんの」
「え、なんで?」
「風で火力増すだろ?」
「あー!」
レン、
めちゃくちゃ納得顔。
モズはペンをクルクル回しながら続ける。
「逆に水も、土属性と組むと泥化できるし」
「属性って単純な相性だけじゃねぇんだな……」
「そうそう!」
モズ、
楽しそう。
「あと雷属性は単体だと暴れやすいけど、水通すと範囲エグくなる」
「こっわ」
「だから戦闘は組み合わせ大事なんだよ」
レン、
ノートへ必死に書き込む。
《風+火=火力上昇》
《水+雷=危険》
字がちょっと汚い。
「うわ覚えること多……」
「まだ基礎だけどな」
「嘘だろ」
レン、
頭抱える。
でも。
ちゃんと聞いてる。
ノートもびっしり。
モズは笑いながら、
魔法式を書いて見せていた。
「あと属性相性だけ覚えてもダメ」
「えぇ!?」
「術者との相性もあるから」
「難しすぎるって!」
「頑張れワン公」
「うぅ……」
めちゃくちゃ勉強してた。
ボイド先生、
拍子抜けする。
「…………」
入学式で講堂半壊させた子。
謎の超常魔法を使う子。
怖い子。
そう思ってた。
でも。
今見えているのは。
ただ。
必死に頑張ってる学生だった。
「…………」
レン、
教科書と睨めっこしながら唸っている。
「属性相性って、結局暗記か?」
「いや感覚もいる」
「また感覚!?」
モズはケラケラ笑う。
でも。
教え方は丁寧だった。
ボイド先生は、
少しだけ目を丸くした。
そして。
ふっと肩の力が抜ける。
「……そんな一面もあるんだ」
ぽつり。
思わず呟く。
影でコツコツ努力するやつに、
悪いやつはいない。
ボイド先生は、
なんとなくそう思っていた。
その時。
「何してるんですか」
「ひゃあっ!!?」
真後ろ。
リゼリア教授。
ボイド先生、
飛び上がる。
「り、リゼリア教授!?!?」
「その枝はなんですか」
「いやこれはその……」
説明不能。
リゼリア教授は、
中庭へ視線を向ける。
レンとモズ。
まだ気づいてない。
「勉強会ですか」
「……みたいですねぇ」
ボイド先生も、
そっと視線を向ける。
レンは真剣な顔で、
ノートへ何度も何度も術式を書いていた。
消して。
また書いて。
消して。
また書く。
その横で、
モズが普通に付き合っている。
リゼリア教授は静かに言った。
「悪いやつじゃないですね」
そして。
ほんの少しだけ。
フッと笑った。
珍しい。
ボイド先生、
ちょっとびっくりする。
でも。
なんだか安心した。
「……はい」
自然と頷いていた。
その後。
数日経って。
廊下。
レンと鉢合わせる。
「あ、ボイド先生」
ボイド:
「ひっ……あ、いや」
危うくいつもの悲鳴出かけた。
踏みとどまる。
レン、
ちょっと不安そう。
「……?」
ボイド先生は、
ぎこちなく目を逸らしながら言った。
「ま、まあ……」
「勉強、頑張ってるみたいだね」
レン、
目を丸くする。
「……見てたんですか?」
「いや!?違っ、たまたま!!」
めちゃくちゃ怪しい。
レンは少し笑った。
「ははっ」
その笑顔見て。
ボイド先生も、
少しだけ笑う。
「あんまり無理しすぎないように」
「……はい!」
レンが嬉しそうに頷く。
去っていく背中を見ながら。
ボイド先生は、
ぽつりと呟いた。
「……なんだ」
「ちゃんと学生してるじゃないか」




