ボイド先生ビビり克服大作戦(前編)
月詠魔法大学・職員室。
昼休み。
ボイド先生は今日も震えていた。
「…………」
ぷるぷる。
書類持つ手が震えてる。
理由。
さっき廊下で、
大神レンとすれ違ったから。
しかも。
「ボイド先生、こんにちは」
って普通に挨拶された。
怖かった。
普通に。
怖かった。
「なんであんな自然に話しかけてくるんだあの子……」
ボソッと呟く。
すると。
近くで書類を整理していたリゼリア教授が、
冷めた目を向けてきた。
「教師だろお前」
「いやだってぇ!!」
ボイド先生、
机をバンッと叩く。
「入学式で大講堂吹き飛ばした子ですよ?!?」
「一部だ」
「一部じゃないよ!!」
半壊してた。
ボイド先生は頭抱える。
「この前なんて廊下で目合っただけで心臓止まるかと思った……」
「死んでるだろお前」
「そういう話じゃないです!!」
職員室の隅で、
グレイガルド学長が肩を震わせていた。
明らかに笑っている。
だが。
ふと誰かの気配を感じた瞬間。
スンッ。
真顔。
背筋ピシッ。
完璧な威厳。
廊下を通りかかった学生たちが、
職員室をチラッと見る。
学長、
静かに頷く。
「励みたまえ」
めちゃくちゃ偉そう。
学生たち:
「はい!!」
去る。
扉閉まる。
数秒沈黙。
学長:
「ブッッ……ふぉっふぉっふぉっ!!」
耐えきれなかった。
「学長ぉ!!!」
ボイド先生悲鳴。
学長、
涙浮かべながら笑ってる。
「いやすまんすまん!!お前がおもしろすぎてのぉ!!」
「笑い事じゃないですってぇ!!」
しかし。
学長は咳払いすると、
またスッと真顔へ戻った。
切り替えが異常。
「……まあしかし」
威厳モード。
「担任として、多少は慣れねばなるまい」
さっきまで笑ってた人と同一人物と思えない。
ボイド先生、
ちょっとムカつく。
すると。
リゼリア教授がふと口を開いた。
「なら克服すればいい」
ボイド:
「……へ?」
数分後。
なぜか職員室の中央に、
ボイド先生が立たされていた。
「よし」
リゼリア教授、
腕組み。
「ビビり克服訓練を始める」
「なんで???」
「今後において必要だからだ。」
グレイガルド学長の前で、ポットとティーカップがカタカタと動く。
紅茶を注ぎ始めるティーポット。
まるで誰かが注いでいるかのようだ。
実際はグレイガルド学長の魔法である。
既に茶菓子まで準備済み。
完全に観戦モードである。
そんな学長の様子を見て、
「他人事だと思って完全に面白がってる…」
と呆れ顔のボイド先生。
「だって実際他人事じゃし〜〜」
「ほれ、励みたまえ励みたまえ〜」
魔法で注いだ紅茶を美味しそうに啜りながら、
もう片方の手をひらひらと動かす学長。
「学生に向けた励みたまえの百倍軽いんですが?」
ボイド先生が即ツッコミを入れる。
そんな様子を全く気にする事もなく
リゼリア教授が、
スッと魔法陣を展開した。
ボイド:
「えっ」
突然始まる訓練に反応が遅れるボイド先生。
空中に、
レンの幻影が現れる。
しかも妙にリアル。
「こんにちは、ボイド先生」
「ひぇっ!!」
ボイド先生、
椅子ごと後退。
ガシャーン!!
学長、
紅茶を吹きかける。
でも。
職員室の外から足音。
スンッ。
学長、
瞬時に真顔。
学生が扉を開ける。
「失礼します」
「……どうした」
重厚。
威厳の塊。
さっきまで笑い転げてたとは思えない。
学生、
ちょっと震えてる。
「書類提出に……」
「置いていけ」
「はい!!」
学生退室。
扉閉まる。
学長:
「カッッッカッカッカ!!!」
「器用すぎません!?!?」
ボイド先生、
ツッコミが追いつかない。
リゼリア教授は淡々と続ける。
「第二段階だ」
「まだやるんですか!?」
今度は。
幻影レンが、
じっとこちらを見るだけ。
何もしない。
ただ。
目が合う。
ボイド:
「…………」
ぷるぷる。
「…………」
ぷるぷるぷる。
「…………」
「なんで見てくるのぉ!?」
限界だった。
両手で顔を覆う。
その時。
ガチャ。
職員室の扉が開く。
「失礼しまーす」
本物のレンだった。
ボイド:
「ひぇっ!!!!また?!」
職員室中に響く悲鳴。
レン、
ビクッ。
「えっ!?…今日初めて職員室きましたけど…」
ボイド先生、
反射的にリゼリア教授の後ろへ隠れる。
完全に小動物。
レン困惑。
「え、俺なんかした……?」
リゼリア教授、
ため息。
「お前のクラスの学生だぞ」
「知ってるけど怖いもんは怖い!!」
「子供か」
学長、
肩震わせてる。
でも。
レンが学長に視線向けた瞬間。
スンッ。
「大神レン」
低く威厳ある声。
「学校生活には慣れたか?」
さっきまで笑ってたのに。
レン、
ちょっと背筋伸びる。
「あ、はい!」
「うむ。励め」
「はい!」
レンがプリントを置き、
去っていく。
扉閉まる。
沈黙。
三秒後。
学長:
「おぬし本当に怖がりすぎじゃ!!!」
「だから笑わないでくださいってぇ!!!」
ボイド先生がレンを怖がらなくなる日は来るのだろうか。
続くーーー
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