昼休みの勉強会
翌日。
昼休み。
月詠魔法大学中央広場。
大きな噴水を囲むように白いベンチが並び、
周囲には季節の花々や植木が整然と並んでいる。
学生たちが昼食を取ったり、
友人同士で談笑したり。
そんな穏やかな空間。
その一角だけ。
妙に空気が違った。
白いベンチ。
その上に積まれた分厚い参考書。
文字がぎっしり書き込まれたノート。
そして。
向かい合う二人の男子学生。
一人は明るい茶髪のツーブロック。
耳にはピアス。
グレージュのタレ目。キリッとした眉毛。
チャラい。
誰が見ても陽キャ。
モズ・スターリング。
対して。
もう一人。
黒髪。
七三にきっちり分けられた前髪。
瓶底丸メガネ。外したら3の形した目が出てきそう。
額には堂々と、
『必勝』
と書かれた鉢巻。
どう見ても真面目系秀才。
大神レンだった。
周囲の学生たちは思った。
(あぁ……)
(勉強できない陽キャが)
(真面目くんに教えてもらってるんだな)
と。
しかし。
聞こえてきた会話は。
「おいワン公」
モズが真顔で言う。
「なんだよその格好」
レンは当然のように答えた。
「ん?」
「形から入るタイプなんだよこういうのは」
「そんな格好で勉強してるやつ見たことねぇ……」
「これ俺ん家の伝統なんだけどな」
「絶対嘘だろ」
「本当だ」
「寝言は寝て言え」
モズは頭を抱えた。
レンは大真面目な顔で頷いている。
実際、今までの大学受験も全てこの格好で臨んできた。
落ちた理由がなんとなくわかる気がする。
そしてレンの格好を見て集中力が途切れた他の受験生も不合格道連れだったのだろう…。
本当にご愁傷様である。
しかし本人は真面目にこの格好なのだ。
だから余計にタチが悪い。
「ちょっと……」
モズは眉間を押さえる。
「集中できねぇからいつものワン公に戻れ」
「えぇ……」
周囲の学生たちも静かに同意した。
(それはそう)
レンは渋々。
鉢巻を外す。
瓶底丸メガネを外す。
さらに。
七三に分けた前髪をわしゃわしゃと崩す。
黒い癖毛が元の形へ戻る。
ぴょこん。
ぴょこん。
猫耳みたいな寝癖が立った。
いつものレンだった。
不服そうなレンに対し、モズは満足そうに頷く。
「それでよし」
「気合い入るんだけどなぁ」
「知らん」
「そもそも、その瓶底メガネ、前見えんのか?」
「あんま見えない」
「あかんやないか」
レンは肩を竦めた。
そして。
ノートを開く。
ペンを持つ。
背筋を伸ばす。
「よし」
「はい」
「お願いします先生」
ぺこり。
頭を下げるレン。
対するモズは。
教科書を開きながら胸を張る。
「任せろ」
周囲の学生。
(逆だ)
(想像と全部逆だ)
(なんで陽キャが先生なんだよ)
そんな視線が飛び交う。
本人たちは気付いていない。
⸻
「前も言ったけどな」
モズは教科書を指差す。
「魔力核に流れを途切れさせず魔力を流し込むのが大事なわけ」
「ふむふむ」
レンは必死にメモを取る。
「んで」
「魔力核を通して魔力が放たれるから」
「魔法にはその人の色が出る」
「ほぉー」
「俺ならオレンジ」
モズの指先に小さな光が灯る。
暖かい橙色。
「系統的には雷属性に近いな」
「なるほど」
「他に例出すなら」
モズは少し考える。
「ノンなら淡いピンクだな」
レンの手が止まる。
「へぇ」
「アイツは光属性寄りかな、綺麗だよなぁー」
「まぁな」
モズは何気なく頷いた。
そして。
ふと。
何かを思い出したように目を丸くする。
「あ」
「ん?」
「そういやワン公」
「お前も確か…桃色っぽい魔法だったな」
その瞬間。
レンの脳裏に。
ノンの声が蘇る。
⸻
『レンくんの魔法、なんか春って感じするねぇ』
⸻
「あ」
レンの目が見開く。
そういうことか。
瞳が淡い桃色になるのも。
魔法が春みたいな色になるのも。
全部。
ノンの魔力を借りている証拠。
一気に繋がった。
同時に。
冷や汗が流れる。
(待て)
(今の発言)
(結構危なくないか?)
モズは顎に手を当てる。
じーっとレンを見る。
沈黙。
レンの喉が鳴った。
(やばい)
(バレるか?)
(終わったか?)
モズが口を開く。
「ワン公お前……」
ゴクリ。
心臓が跳ねる。
「……」
「……」
数秒。
永遠みたいな沈黙。
そして。
モズは突然。
パチンッ!
両手の指を鳴らした。
「ノンと相性いいんじゃね!?」
レン
「へ?」
「色似てんじゃん!」
モズはニヤニヤ笑う。
「おぉ〜〜?」
「ヒューヒュー!」
「お似合いじゃねぇか〜〜!」
レンは思った。
(よかった)
(こいつ)
(ドが付くほど鈍感だ)
心の底から。
安心した。
そして同時に。
(いや待て)
(なんでそうなるんだよ)
とも思った。
モズは楽しそうに笑い続ける。
レンはため息を吐いた。
やっぱり。
この男は。
色々とズレていた。
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