綺麗系の魔法らしい
「今日は各自、“最も得意な魔法”を披露してもらう」
リゼリア教授の冷たい声が、
訓練場へ静かに響いた。
終わった。
レンは静かに死を確信した。
月詠魔法大学・実践基礎演習。
広い屋外訓練場には、
既に魔法陣が展開されている。
周囲の学生たちも、
どこか緊張した空気。
レンだけ別ベクトルで死にそうだった。
「やばい……」
魔法が使えない。
しかも今日は、
“得意魔法”の披露。
得意どころか、
使えない。
完全終了。
だが授業は容赦なく進む。
「では順番に」
最初の生徒が前へ出る。
「《フレイム》!」
ボッ。
小さな炎。
おぉ、と軽い拍手。
次。
「《ウォーター》!」
ふわりと水球。
次。
「《エアステップ》!」
少し浮く。
みんな普通に魔法を使っている。
レン:
(いや十分すごいだろ……)
でも周囲の反応を見る限り、
これが“普通”らしい。
その時。
後ろの男子生徒が、
木箱を浮かせようとしていた。
「《リフト》……!」
ぷるぷる。
木箱、数センチ浮いて落ちる。
「あっ」
周囲:
「おしい!」
普通。
なんか普通に青春してる。
レンだけ。
魔法以前の問題。
「……どうしよう」
その時。
「じゃあ俺からいくわ!」
モズが軽いノリで前へ出た。
リゼリア教授が腕を組む。
「始めろ」
モズはニヒーッと笑った。
「んじゃ、派手めに」
その瞬間。
空気が変わる。
モズの表情が、
ほんの少し鋭くなった。
そして。
「風走れ、火花散れ、雷鳴け、空裂けろ――」
速い。
詠唱が。
意味分からん速度で口が回ってる。
レン:
「えっ」
次の瞬間。
ドゴォォンッ!!
炎。
風。
雷。
複数の魔法が同時展開。
しかも全部、
綺麗に噛み合っている。
突風が火花を巻き込み、
雷光が空を走る。
周囲の学生たちがどよめいた。
「多重詠唱……!?」
「一年で!?」
「相変わらず速ぇ……!」
レンだけ。
「口どうなってんだあいつ……」
魔法が収まる。
モズはふぅっと息を吐くと、
くるっと振り返った。
そして。
ニヒーッ。
得意げなドヤ顔。
愛嬌全開。
「どうよ!」
周囲から拍手。
モズ、
めちゃくちゃ嬉しそう。
リゼリア教授が静かに口を開く。
「……なるほど」
「高位詠唱魔法型か」
モズは肩をすくめた。
「まあ、喋んの得意なんで!」
「詠唱速度に頼りすぎだ」
「うっ」
一瞬で縮こまる。
レン、ちょっと笑う。
でも。
普通にかっこよかった。
本当に魔法使いなんだ。
モズは戻ってくるなり、
ニヤッと笑った。
「どうよワン公」
「……かっけぇ」
「だろ?」
得意げ。
その横で。
ノンがふわっと手を挙げた。
「次、私いく〜」
ノンが前へ出る。
華奢。
ゆるふわ。
どう見ても戦えなさそう。
でも。
空気が変わる。
ノンは詠唱しない。
ただ。
ふわっと指先を上げた。
その瞬間。
空中へ、
淡い桜色の光が舞った。
「わぁ……」
レンが思わず声を漏らす。
光はゆっくり集まり。
花になる。
蝶になる。
星になる。
まるで春そのものみたいに、
訓練場を優しく彩っていく。
綺麗。
ただ、
それだけなのに。
圧倒される。
周囲も静まり返っていた。
「……無詠唱」
「しかもあの精度……」
ノンはぽやっと笑う。
「終わり〜」
パチパチと拍手が起きる。
レン、
完全に感動していた。
「……すげぇ」
モズが笑う。
「ノンは感覚派だからな〜」
「感覚であれできんの!?」
「できちゃうんだよねぇ〜」
本人もふわふわしてる。
怖い。
その時。
リゼリア教授の視線が、
レンへ向いた。
「では次」
終わった。
「大神レン」
「っ」
周囲の空気が少し変わる。
入学式の件もあり、
レンは既にちょっと有名人だった。
「花火のやつだ」
「桜色の暴走……」
やめてほしい。
レンは恐る恐る前へ出た。
どうする。
炎?
無理。
浮遊?
無理。
終わった。
リゼリア教授が腕を組む。
「見せてもらおう」
見せられるものがない。
レンの脳内で、
警報が鳴り響く。
ちらっとノンを見る。
ノン。
にこにこしてる。
助ける気ゼロ。
絶対面白がってる。
だがその瞬間。
ふと。
鞄の中の小道具が目に入った。
……やるしかない。
レンは小さく息を吸う。
そして。
懐から、
一枚のコインを取り出した。
周囲ざわつく。
「コイン?」
「また無詠唱か……?」
違う。
ただの手品です。
レンは指先でコインを弄ぶ。
カチ、
カチ、
と金属音。
妙に静かな空気。
レン自身も驚くほど、
手は震えていなかった。
最近。
本番で失敗しない。
なんでか分からないけど。
「……っ」
レンはコインを握り込む。
そして。
パッと開いた。
そこには。
小さな、
淡い桜色の花。
一輪。
ふわり。
風に揺れる。
静寂。
レン:
(…………あれ?)
成功した。
普通に成功した。
リゼリア教授も学生たちも固まってる。
レン、
逆に怖い。
数秒後。
ざわっ――!!
「……!?」
「花!?」
「変換魔法か!?」
「いや待て、魔力を感じなかったぞ!?」
「無詠唱どころじゃない……」
「まさか、“現象置換”……!?」
なんか始まった。
レン:
(なにそれ)
知らん単語出てきた。
ノンは口元押さえて笑い堪えてる。
絶対分かってる。
モズは普通に感心してた。
「うお〜〜……」
「え」
「ワン公って、派手じゃないけど綺麗系なんだな」
違う。
マジック用の造花です。
リゼリア教授がゆっくり口を開く。
「……大神レン」
「は、はい!」
「非常に高度な魔力制御だ」
違います。
「最小出力で現象を書き換えるとは……」
違います。
「美しい魔法だな」
レン:
「…………」
否定できない。
周囲も完全に深読みモード。
「やっぱあの花火暴走、実力隠してたのか……?」
「制御型……?」
「いや、“魅せる魔法”か……?」
レン:
(助かったぁぁぁ……)
ノンがふわっと近寄ってきた。
「レンくん〜」
「な、なんだよ」
ノンは楽しそうに、
桜色の花をつつく。
「それ、かわいいねぇ」
「……どうも」
ノンはくすっと笑った。
「入学式の時みたい」
レンは少しだけ目を見開く。
桜色。
花火。
あの日。
ノンは優しく微笑んだ。
「レンくんの魔法ってぇ」
「ん?」
「なんか、“春”って感じするねぇ」
その言葉が。
なぜだか少しだけ、
胸に残った。
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