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【勘違いコメディ】そのワン公、魔力ゼロにつき。  作者: 小春日和
第2章 ワン公、魔法を知る

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先輩トリオ、再び


書店通りを後にしたレンとモズは、学生寮へ向かう道を歩いていた。


夕日が石畳を赤く染めている。


買ったばかりの教科書を抱えたレン。


その隣でモズが歩く。


「とりあえず今日は基礎魔法理論な」


「はいはい」


「ちゃんと読むんだぞ?」


「先生か」


「だから褒め言葉だろ?」


「違う」


そんな会話をしていると。


背後から声が飛んできた。


「よぉ」


レンとモズが振り返る。


見覚えのある顔。


聞き覚えのある声。


そして。


見覚えしかない三人組。


「あ」


レンが呟く。


先頭の男がニヤリと笑った。


「俺らのこと忘れたとは言わせねぇぜ?」


レンは少し考えた。


そして。


「あ、負け犬トリオ先輩」


沈黙。


モズが顔を覆う。


「かなり早い再登場だったな……」


深いため息。


三人組は固まった。


数秒後。


「変な名前付けんなぁぁぁ!!」


見事なハモりだった。


「舐めてくれてんなぁ?」


先頭の男が笑う。


前回食堂帰りにカツアゲしてきた先輩トリオ。


だが今回は、前のような余裕はない。


どこか意地になっている。


「そんな態度でいられるのも今のうちだけだぜ?」


夕日に照らされた顔。


口元が吊り上がる。


何か企んでいる顔だった。


レンとモズの表情が引き締まる。


空気が変わった。


モズが一歩前に出る。


「おいおい」

「今度は何だよ」


だが。


その瞬間。


先輩の一人が何かを投げた。


光る縄。


魔法陣が浮かぶ。


「なっ!?」


さすが1学年上。速い。


技が速い。


気付いた時には。


縄がモズの体へ巻き付いていた。


「え?」


次の瞬間。


モズの体が宙を舞う。完全に不意をつかれた。


ぐるん。


ぶらーん。


近くの木へ吊り下げられた。


逆さまに。


沈黙。


レン。


先輩達。


全員見上げる。


そして視界の先。


宙吊りになったモズ。


「……ミノムシみたいにするなぁぁぁああ!!」

空中でぴょんぴょん跳ねた。


ぶらん。


ぶらん。


完全にミノムシ。


三人組は腹を抱えて爆笑する。


「はははは!!」


「傑作だ!!」


「似合ってるぞ!」


レンも思わず吹き出した。


「……ぷふっ」


「おーいお前は笑うなぁぁぁ!!?」


モズの魂のツッコミが響いた。



「さて、邪魔者が居なくなったところで」


邪魔者てなんだよ、後ろからモズの声。


先輩の一人がレンの肩を掴む。


「本題だ」


「へ?」


「神狼族はな」


男がニヤリと笑う。


レンの耳元で囁いた。


「丸いものを見ると狼になって暴走するらしいな?」


「……へ?」


「人目に付くところで、暴走したら……どうなるだろなぁ?」


レンが固まる。


盛大な勘違いだった。


「あ、いや」


「その」


返答に困る。


説明が難しい。


だが。


その反応を見て。


先輩達は勝利を確信した。


「ふっ」


「図星だな?」


「え?」


「ここで狼にして暴れさせてやる!」


「問題起こしたら即退学!」


「お前の大学生活はここでおしまいだぁぁぁ!!」



二人がレンを押さえつける。


「!」


もう一人が。


どこからか皿を取り出した。


「まずはこれだ!」


真っ白な丸皿。


レンの目の前へ突き出す。


「やめろぉぉ!!」


モズが逆さまのまま叫ぶ。


しかし。


先輩達は聞かない。


レン。


じー……


皿を見る。


沈黙。


何も起きない。


「……おかしいな」


先輩が首を傾げる。


皿を見る。


そして。


「あ」


端っこが欠けていた。


「ここ欠けてる!!」


本気で悔しがる。


「くっ……完璧な丸じゃないからか!」


「丸ジャッジメント厳しいなおい!」


「サイズ感の問題とかあんのかな?」


そんな先輩たちのやりとりを

レンとモズは冷めた目で見つめる。


「ならこれはどうだ!」


今度は銀貨。


綺麗な丸。


完璧。


レン。


じー……


何も起きない。



「…………」


「…………」


「…………」



「先輩」


レンが言う。


少し哀れむような目。


「何だ」


「もう諦めた方がいいんじゃ……」


「まだだぁぁぁ!!」



その後。


丸い石。


丸いボタン。


丸い果物。


丸い瓶。


全部失敗。



「これならどうだァァァ!!」


先輩が叫ぶ。


そして。


近くを歩いていたレンの知らない教授を捕まえた。


「えっ!?」


「な、なんだね!?」


頭頂部が輝いている。


「ちょっと手伝ってください先生!」


「何をだね!?」


「いいから!!」


無理やりレンの前へ連れてくる。


ピカーッ。


夕日に照らされる頭頂部。


丸い。


とても丸い。


レン。


じー……


何も起きない。


「な、なんも起きないだと!?」


「いや最後投げやりになってるだろ」


モズが遠くからツッコんだ。


用がすんで返されるツルツル教授。

「?」って頭に浮かんでるがその場を去る。


その時だった。


レンが。


ふと思いついたような顔をする。


「あ」


ニヤリ。


その笑みを見て。


モズだけが察した。


(あ、ワン公また何かやる)


レンは静かに言った。


「俺オオカミになるタイミング」

「コントロールできるんです」


先輩達が固まる。


「は?」


レンは胸を張った。


「1000年に一人の」


少し考える。


「いや」


「1億年に一度の逸材なんで」

ドヤ顔。


年増えすぎだろ。


「な、なんだと……!?」


三人組が青ざめた。


完全に信じている。


レンを押さえていた手が緩む。


ほんの少し。


だが。


それで十分だった。


レンはするりと抜け出す。


まるで手品みたいに。


「100億年に一度の逸材」


レンが言う。


「意味……分かりますよね?」


年また増えてるぞー、とツッコむモズ。


ゴクリ。


先輩達が息を飲む。



レンは一歩前へ出た。


そして。


ニヤッと笑う。


「今」


「なりましょうか?」


夕日が照らす。


風が吹く。


レンの髪が揺れる。


「オオカミに」


指を鳴らす。


「ひえぇぇぇぇぇぇぇ!!」


両手を上げる三人。


全力疾走。


ものすごい速度で逃げていく。


「待てぇぇぇ!!」


モズが逆さまのまま叫ぶ。


「縄解いてけぇぇぇ!!」


もちろん誰も戻らない。


レンは木を見上げた。


ぶらーん。


ぶらーん。


揺れるモズ。


モズは反対を向きながら叫んだ。


「なんか分からんけどスカッとしたぁぁぁ!!」


レンは苦笑する。


そして。


遠ざかる負け犬トリオを見ながら思った。


また変な噂が広がるな。


間違いなく。


今頃あの三人は。


『神狼族の王が覚醒しかけた』


くらいの話にしているだろう。


レンは深くため息を吐いた。


「……まずはモズ下ろすか」


「それ先に言えぇぇぇ!!」


夕暮れの学生寮前に。


モズの悲鳴が響き渡った。

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