先輩トリオ、再び
書店通りを後にしたレンとモズは、学生寮へ向かう道を歩いていた。
夕日が石畳を赤く染めている。
買ったばかりの教科書を抱えたレン。
その隣でモズが歩く。
「とりあえず今日は基礎魔法理論な」
「はいはい」
「ちゃんと読むんだぞ?」
「先生か」
「だから褒め言葉だろ?」
「違う」
そんな会話をしていると。
背後から声が飛んできた。
「よぉ」
レンとモズが振り返る。
見覚えのある顔。
聞き覚えのある声。
そして。
見覚えしかない三人組。
「あ」
レンが呟く。
先頭の男がニヤリと笑った。
「俺らのこと忘れたとは言わせねぇぜ?」
レンは少し考えた。
そして。
「あ、負け犬トリオ先輩」
沈黙。
モズが顔を覆う。
「かなり早い再登場だったな……」
深いため息。
三人組は固まった。
数秒後。
「変な名前付けんなぁぁぁ!!」
見事なハモりだった。
「舐めてくれてんなぁ?」
先頭の男が笑う。
前回食堂帰りにカツアゲしてきた先輩トリオ。
だが今回は、前のような余裕はない。
どこか意地になっている。
「そんな態度でいられるのも今のうちだけだぜ?」
夕日に照らされた顔。
口元が吊り上がる。
何か企んでいる顔だった。
レンとモズの表情が引き締まる。
空気が変わった。
モズが一歩前に出る。
「おいおい」
「今度は何だよ」
だが。
その瞬間。
先輩の一人が何かを投げた。
光る縄。
魔法陣が浮かぶ。
「なっ!?」
さすが1学年上。速い。
技が速い。
気付いた時には。
縄がモズの体へ巻き付いていた。
「え?」
次の瞬間。
モズの体が宙を舞う。完全に不意をつかれた。
ぐるん。
ぶらーん。
近くの木へ吊り下げられた。
逆さまに。
沈黙。
レン。
先輩達。
全員見上げる。
そして視界の先。
宙吊りになったモズ。
「……ミノムシみたいにするなぁぁぁああ!!」
空中でぴょんぴょん跳ねた。
ぶらん。
ぶらん。
完全にミノムシ。
三人組は腹を抱えて爆笑する。
「はははは!!」
「傑作だ!!」
「似合ってるぞ!」
レンも思わず吹き出した。
「……ぷふっ」
「おーいお前は笑うなぁぁぁ!!?」
モズの魂のツッコミが響いた。
⸻
「さて、邪魔者が居なくなったところで」
邪魔者てなんだよ、後ろからモズの声。
先輩の一人がレンの肩を掴む。
「本題だ」
「へ?」
「神狼族はな」
男がニヤリと笑う。
レンの耳元で囁いた。
「丸いものを見ると狼になって暴走するらしいな?」
「……へ?」
「人目に付くところで、暴走したら……どうなるだろなぁ?」
レンが固まる。
盛大な勘違いだった。
「あ、いや」
「その」
返答に困る。
説明が難しい。
だが。
その反応を見て。
先輩達は勝利を確信した。
「ふっ」
「図星だな?」
「え?」
「ここで狼にして暴れさせてやる!」
「問題起こしたら即退学!」
「お前の大学生活はここでおしまいだぁぁぁ!!」
⸻
二人がレンを押さえつける。
「!」
もう一人が。
どこからか皿を取り出した。
「まずはこれだ!」
真っ白な丸皿。
レンの目の前へ突き出す。
「やめろぉぉ!!」
モズが逆さまのまま叫ぶ。
しかし。
先輩達は聞かない。
レン。
じー……
皿を見る。
沈黙。
何も起きない。
「……おかしいな」
先輩が首を傾げる。
皿を見る。
そして。
「あ」
端っこが欠けていた。
「ここ欠けてる!!」
本気で悔しがる。
「くっ……完璧な丸じゃないからか!」
「丸ジャッジメント厳しいなおい!」
「サイズ感の問題とかあんのかな?」
そんな先輩たちのやりとりを
レンとモズは冷めた目で見つめる。
「ならこれはどうだ!」
今度は銀貨。
綺麗な丸。
完璧。
レン。
じー……
何も起きない。
「…………」
「…………」
「…………」
「先輩」
レンが言う。
少し哀れむような目。
「何だ」
「もう諦めた方がいいんじゃ……」
「まだだぁぁぁ!!」
その後。
丸い石。
丸いボタン。
丸い果物。
丸い瓶。
全部失敗。
⸻
「これならどうだァァァ!!」
先輩が叫ぶ。
そして。
近くを歩いていたレンの知らない教授を捕まえた。
「えっ!?」
「な、なんだね!?」
頭頂部が輝いている。
「ちょっと手伝ってください先生!」
「何をだね!?」
「いいから!!」
無理やりレンの前へ連れてくる。
ピカーッ。
夕日に照らされる頭頂部。
丸い。
とても丸い。
レン。
じー……
何も起きない。
「な、なんも起きないだと!?」
「いや最後投げやりになってるだろ」
モズが遠くからツッコんだ。
用がすんで返されるツルツル教授。
「?」って頭に浮かんでるがその場を去る。
その時だった。
レンが。
ふと思いついたような顔をする。
「あ」
ニヤリ。
その笑みを見て。
モズだけが察した。
(あ、ワン公また何かやる)
レンは静かに言った。
「俺オオカミになるタイミング」
「コントロールできるんです」
先輩達が固まる。
「は?」
レンは胸を張った。
「1000年に一人の」
少し考える。
「いや」
「1億年に一度の逸材なんで」
ドヤ顔。
年増えすぎだろ。
「な、なんだと……!?」
三人組が青ざめた。
完全に信じている。
レンを押さえていた手が緩む。
ほんの少し。
だが。
それで十分だった。
レンはするりと抜け出す。
まるで手品みたいに。
「100億年に一度の逸材」
レンが言う。
「意味……分かりますよね?」
年また増えてるぞー、とツッコむモズ。
ゴクリ。
先輩達が息を飲む。
⸻
レンは一歩前へ出た。
そして。
ニヤッと笑う。
「今」
「なりましょうか?」
夕日が照らす。
風が吹く。
レンの髪が揺れる。
「オオカミに」
指を鳴らす。
「ひえぇぇぇぇぇぇぇ!!」
両手を上げる三人。
全力疾走。
ものすごい速度で逃げていく。
「待てぇぇぇ!!」
モズが逆さまのまま叫ぶ。
「縄解いてけぇぇぇ!!」
もちろん誰も戻らない。
レンは木を見上げた。
ぶらーん。
ぶらーん。
揺れるモズ。
モズは反対を向きながら叫んだ。
「なんか分からんけどスカッとしたぁぁぁ!!」
レンは苦笑する。
そして。
遠ざかる負け犬トリオを見ながら思った。
また変な噂が広がるな。
間違いなく。
今頃あの三人は。
『神狼族の王が覚醒しかけた』
くらいの話にしているだろう。
レンは深くため息を吐いた。
「……まずはモズ下ろすか」
「それ先に言えぇぇぇ!!」
夕暮れの学生寮前に。
モズの悲鳴が響き渡った。
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