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【勘違いコメディ】そのワン公、魔力ゼロにつき。  作者: 小春日和
第2章 ワン公、魔法を知る

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大型犬を散歩する小型犬


放課後。


「よし!まずは基礎固めだな!」


モズはそう言って、自信満々に胸を張った。


まるで自分が教師にでもなったような顔だ。


レンは思わず苦笑する。


「なんか先生みたいな顔してんな」


「だろ?」


「褒めてない」


「ひでぇ」


そんなやり取りをしながら歩いている場所は、大学街の書店通りだった。


月詠魔法大学のすぐ近くにある商店街。


学生向けの店がずらりと並び、放課後ともなれば多くの生徒で賑わう。


その中でも書店通りは特に有名だった。


魔法関係の専門書が揃う場所らしい。


だが。


レンからすれば。


「なんだこれ……」


異世界だった。


店先に並ぶ本のタイトルが既におかしい。


『初心者でもできる召喚術』


『三日で学ぶ浮遊魔法』


『失敗しない魔獣契約』


『絶対怒られない禁術入門』


絶対怒られる。


むしろ怒られない方がおかしい。


レンは思わず二度見した。


「売っていいのかそれ……」


「人気だぞ?」


「怖ぇよ」


モズはケラケラ笑う。


背の高いレン。


小柄なモズ。


しかもモズはずんずん前を歩いていく。


その後ろをレンが追いかける形になる。


はたから見れば。


大型犬を散歩させる小型犬だった。


「ワン公ー!」


モズが手を振る。


「こっちこっち!」


「引っ張るなって!」


「早くしろよー」


「お前が早すぎるんだよ!」


レンは半ば引きずられるように店へ入った。


店内には本棚が所狭しと並んでいる。


紙の匂い。


インクの匂い。


そして不思議な香草の匂い。


普通の本屋なのに、どこか魔法薬店みたいだった。


モズは迷いなく奥へ進む。


店員がすぐに気付いた。


「あれー?モズくん」


「うっす!」


「また参考書?」


「今日は友達用っす!」


「へぇ〜」


完全に顔見知りだった。


店員のおばさんも慣れた様子で笑っている。


レンはそのやり取りを見て少し驚いた。


(結構来てるんだな)


モズって勉強するタイプだったっけ。


そんな疑問が浮かぶ。


その間にもモズは本棚を見て回っていた。


レンは近くの棚を眺める。


魔法陣理論。


属性論。


精霊学。


高等詠唱学。


タイトルは読める。


だが内容はさっぱり分からない。


本を開いてみる。


数ページで閉じた。


「うわぁ……」


文字は読めるのに意味が理解できない。


まるで外国語だった。


そんなレンの前に、一冊の本が差し出される。


「これ」


モズだった。


レンは本を受け取る。


表紙には大きく文字が書かれていた。


『はじめての基礎魔法理論』


「おぉ」


思わず声が漏れる。


初心者向けだ。


しかもかなり初心者向け。


挿絵も多い。


図解もある。


これならレンでも理解できそうだった。


モズは得意げに笑う。


「これが一番分かりやすい」


「1年生前期は基礎的なこと中心に授業進むし」


「それぞれの魔法属性に合わせた実践も後期以降だしな」


「詳しいな」


感心するレン。


モズは、そのまま本を持ってレジへ向かった。


レンは慌てて後を追う。


「いやいや!自分で払うって!」


「いーって」


「入学祝い」


モズは軽く言った。


あまりにも自然に。


まるで当たり前みたいに。


「友達困ってんの放っとけねぇし」


レンは言葉に詰まった。


そういう言葉を、こいつは本当に自然に言う。


計算じゃない。


見返りも求めてない。


ただ助けたいから助ける。


そんな感じだった。


「……ありがとう」


レンは素直に頭を下げた。


モズは白い歯を見せて笑う。


「おう!」


やっぱり。


太陽みたいなやつだ。


店を出たあと。


夕方の風が吹く。


空は少しずつ茜色に染まり始めていた。


レンは買ってもらった本を抱えながら、ふと思う。


「……ていうか」


「ん?」


「なんでそんな詳しいんだ?」


モズは立ち止まる。


「何が?」


「教えるの」


レンは正直に言った。


今日だってそうだ。


授業中も。


本選びも。


説明も。


全部分かりやすかった。


おちゃらけている印象ばかりだったから意外だった。


モズは頭を掻く。


「あー」


少し考えるような顔。


「まあ昔は結構真面目に勉強してたしな」


「えっ」


レンの顔に全部出ていたらしい。


モズは吹き出した。


「なんだよその顔」


「いや……」


「もっとアホだと思ってた?」


「ちょっと」


「ひでぇな!?」


モズは大笑いした。


でもどこか懐かしそうだった。


「俺、昔は成績かなり良かったんだぜ?」


「マジで?」


「マジマジ」


「じゃあなんで今そんな感じなんだよ」


その瞬間だった。


モズの視線が少しだけ泳いだ。


「あー……」


嫌な予感がする。


「……気づいてるかもだけど、実は一回留年してる」


レン。


「えっ」


思考停止。


数秒後。


「えぇぇぇぇ!?」


「だから声でけぇって!」


通行人が振り向いた。


モズは慌ててレンの口を塞ぐ。


「いや留年!?」


「まあな〜」


「軽いな!?」


軽すぎる。


もっと重い話じゃないのか。


「なんで!?」


「単位ちょっと足りなくて」


「なんで足りなくなるんだよ!?」


モズは気まずそうに笑う。


そして。


ぽりぽりと頬を掻いた。


「……大事な試験の日、すっぽかした」


レン。


「は????」


衝撃だった。


「いや俺も終わったと思った」


「終わってるだろ!!」


「先生にも同じこと言われた」


「だろうな!!」


レンは本気で混乱した。


あんなに詳しいのに。


教えるの上手いのに。


成績も良かったのに。


なぜそんな理由で留年するのか。


モズは苦笑した。


「まあ色々あったんだよ」


珍しく詳しく話さない。


いつもならベラベラ喋るくせに。


その顔は少しだけ優しかった。


どこか遠くを見るような顔。


誰かを思い出しているような顔。


レンは何も聞かなかった。


なんとなく分かったからだ。


きっと。


ただのサボりじゃない。


モズは。


こう見えて。


困ってる人を放っておけない。


それはもう十分知っていた。


レンは少し笑う。


「……モズってさ」


「ん?」


「思ってたよりちゃんとしてんだな」


「失礼だなお前!?」


「でも留年はしてる」


「うるせぇ!」


二人で笑った。


夕暮れの街に笑い声が響く。


レンは腕の中の本を見る。


昨日までは。


大学生活を楽しみたい。


それだけだった。


友達を作って。


青春して。


普通の学生になりたかった。


でも今は違う。


少しだけ。


本当に少しだけ。


「……魔法、分かるようになりたいな」


そんな気持ちが芽生え始めていた。


空を飛ぶ魔法。


氷の魔法。


光の魔法。


自分の知らない世界。


知ってみたいと思った。


モズはそんなレンを見て、ニヤリと笑う。


「その顔」


「ん?」


「もう半分ハマってる」


「まだハマってねぇよ」


「いや絶対ハマる」


「決めつけるな」


「賭けてもいい」


「何をだよ」


「購買のパン」


「安いな」


二人は笑いながら、夕暮れの大学街を歩いていく。


レンの腕の中には、一冊の教科書。


そして胸の中には。


新しい世界への、小さな好奇心が生まれ始めていた。

ご覧頂きありがとうございます!


次回、カツアゲトリオが再登場します。

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