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【勘違いコメディ】そのワン公、魔力ゼロにつき。  作者: 小春日和
第2章 ワン公、魔法を知る

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俺が面倒見てやるよ

翌日。


レンは開始五分で絶望していた。


「……わからん」


月詠魔法大学。


基礎魔法理論。


朝一番の講義である。


教室は広かった。


階段状に並んだ机。


大きな黒板。


窓から差し込む柔らかな朝日。


大学っぽい。


すごく大学っぽい。


レンが夢見ていた学生生活そのものだった。


……講義が始まるまでは。


黒板いっぱいに文字が並ぶ。


『魔力核』


『属性循環』


『魔力干渉』


『精神同調』


…知らん。


一つも知らん。


先生は当然のように話を続ける。


「では魔力核を起点とした循環構造について説明します」


レン。


(起点???)


分からない。


何も分からない。


まず魔力核が分からない。


循環も分からない。


構造も怪しい。


なのに先生は黒板へ図を書き始めた。


矢印。


円。


謎の記号。


学生たちは真剣な顔でノートを取っている。


さらさらとペンが走る音。


誰も困っていない。


誰も置いていかれていない。


置いていかれているのは。


レンだけだった。


(やばい)


レンは周囲を見回した。


前の席。


獣耳の男子が頷いている。


後ろの席。


翼の生えた女子が必死にメモしている。


隣。


モズが普通にノートを取っている。


…終わった。


レンだけ。


九九を知らない状態で数学を受けている。


そんな気分だった。


「やばい……」


小さく呟く。


入学して初めて。


本気で焦った。


大学生活を送りたかった。


友達を作って。


学食へ行って。


放課後に遊んで。


青春したかった。


でも。


この世界では。


魔法が常識だ。


知らないだけで浮く。


できないだけで置いていかれる。


レンはペンを握る。


ぎゅっと。


力が入る。


「……まずいな」


そんな時だった。


先生が教室を見回した。


嫌な予感がした。


そして。


予感は当たる。


「では――」


先生の視線が止まる。


レンの方だった。


「大神レン」


「っ」


終わった。


完全に終わった。


教室中の視線が集まる。


レンの背筋が固まる。


先生は当たり前のように質問した。


「魔力循環において重要な点は何ですか?」


知らん。


何一つ。


本当に何一つ。


レンの脳内が真っ白になる。


どうする。


どうする。


どうする。


その瞬間だった。


「流れ止めないこと」


横から小さな声。


モズだった。


頬杖をついたまま。


前を向いたまま。


口だけ動かしている。


完全に職人技だった。


レンは即座に復唱する。


「な、流れを止めないこと……です」


先生は満足そうに頷いた。


「その通りです」


助かった。


本当に助かった。


レンは心の中で崩れ落ちた。


命拾いした気分だった。


モズは何事もなかったようにシャーペンを回している。


かっけぇ。


レンは思った。


こいつ意外と頭良いんだな。


授業終了。


チャイムが鳴る。


学生たちが立ち上がる。


談笑しながら移動していく。


レンは机へ突っ伏した。


「終わった……」


魂が抜けている。


隣から声がした。


「何が?」


モズだった。


レンは力なく顔を上げる。


モズはタレ目を細めながら、じーっとレンを見ていた。


妙に真剣だった。


「……ワン公」


「ん?」


「お前もしかして」


嫌な間。


本当に嫌な間だった。


「基礎できてねぇの?」


図星だった。


レンは固まる。


心臓が跳ねる。


どうする。


誤魔化すか。


適当に笑うか。


いや。


無理だった。


今日だけで痛感した。


無知すぎる。


知らなすぎる。


基礎どころの話じゃない。


レンは観念した。


小さく頷く。


「……できない」


「マジか」


「……マジ」


沈黙。


レンは少し怖かった。


笑われるかもしれない。


呆れられるかもしれない。


変なやつだと思われるかもしれない。


でも。


モズは突然。


白い歯を見せて笑った。


「なんだ、そんなことか!」


「……え?」


あまりにも軽かった。


レンは拍子抜けする。


モズは肩をすくめた。


「そんな顔してたから何かと思った」


そして軽くレンの肩を叩く。


ぽん、と。


「大丈夫だって」


その言葉は不思議と安心した。


「俺が面倒見てやるよ」


あまりにも自然だった。


まるで。


友達が友達を助けるのは当然だと言うみたいに。


レンは少しだけ目を見開く。


この世界へ来てから。


ずっと不安だった。


自分だけ違う。


自分だけ知らない。


いつか置いていかれるんじゃないか。


そう思っていた。


だから。


気付けば。


口から漏れていた。


「……かっこいい……」


モズ。


「えっ」


タレ目がまん丸になる。


レンも固まった。


やばい。


口に出ていた。


「いや違っ――」


モズは数秒固まる。


そして。


吹き出した。


「ははっ!」


肩を震わせながら笑う。


「お前もそんなこと言うんだな」


「忘れてくれ」


「無理」


即答だった。


モズは楽しそうにレンの肩へ腕を回す。


「惚れんなよ?」


「惚れねぇよ!」


レンも即答する。


でも。


ほんの少しだけ思った。


月詠へ来てよかったかもしれない。


もし普通の大学へ行っていたら。


モズとは出会わなかった。


そんなことを考えてしまう。


モズは立ち上がる。


ぐーっと背伸びをした。


「よーし!」


「?」


「まずはワン公の基礎知識叩き込むぞ!」


「うっ」


嫌な予感がする。


するとモズは笑った。


人懐っこく。


いつもみたいに。


「安心しろって」


そして言う。


「魔法、知ると結構おもしれぇぞ?」


レンは少し考える。


昨日のことを思い出した。


空を飛んだこと。


桜色の魔法。


ノンの氷魔法。


魔法で作られた光。


全部。


綺麗だった。


不思議だった。


そして。


少しだけ。


羨ましかった。


「……俺も使えたらな」


ぽつりと漏れる。


モズはニッと笑った。


「その顔」


「え?」


「ちょっと魔法興味出てきたろ」


図星だった。


レンは思わず視線を逸らす。


そんなレンを見て。


モズは楽しそうに笑うのだった。


挿絵(By みてみん)

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