やっぱお前、ワン公だわ
放課後の中庭。
ノンが去っていったあとも、
レンはしばらく噴水の前で固まっていた。
「……情報量多すぎるだろ……」
魔力。
消滅。
桜色。
大学ってなんだっけ。
レンが頭を抱えていると――。
「ワン公ーーー!!!」
遠くから声。
振り向いた瞬間。
モズがすごい勢いで駆け寄ってきた。
「探したんだぞお前!」
「うおっ!?」
肩を掴まれる。
近い。
人懐っこそうなタレ目が、
じーーーっとレンを見つめてくる。
「どこ行ってたんだよ〜」
「えっ、いや、その……」
レン、焦る。
ノンとの話を聞かれてたらまずい。
頭フル回転。
そして咄嗟に出た言葉。
「……用足してた」
沈黙。
モズ:
「え?」
レン:
「え」
モズは首を傾げる。
「トイレ、真逆のとこにあるぞ?」
終わった。
レン、固まる。
どうする。
どうする。
数秒の沈黙の後。
レン:
「…………ここで」
「ん?」
レンは震える指で、
噴水を指差した。
「ここでしてた」
モズ:
「えっ」
噴水。
風、そよそよ。
最悪。
レン、自分で言ってて終わったと思った。
だが。
モズは数秒固まったあと、
感心したように頷いた。
「……すげぇワイルドだなぁ」
通った。
「えっ」
「さすがワン公」
「いや待っ――」
「自然派なんだな」
何が。
レン、もう訂正する気力がない。
モズはケラケラ笑いながら、
レンの背中をバシバシ叩いた。
「よっしゃ!約束通り飯行くぞぉ!!」
「あぁ……」
そうだった。
入学式のあと、
飯に行く約束をしていたんだ。
モズはふと思い出したように言う。
「あ、せっかくだしノンも誘おうぜ!」
「えっ」
「仲良くなりたいし!」
レンは少しだけ気まずくなる。
ついさっき、
秘密みたいな話をしたばかりだ。
でも。
「……まあ、うん」
仲良くなりたい。
それは本音だった。
モズはすぐノンを見つけた。
「ノーーーン!!飯行かね!?」
遠くでノンが振り返る。
ふわっと桜色の髪が揺れた。
「ごはん〜?」
「そ!」
ノンは自分のお腹をさすりながら、
嬉しそうに笑った。
「ちょーどお腹空いてたんだぁ」
三人で歩き出す。
夕方の大学。
空飛ぶ学生たち。
騒がしい声。
レンはなんだか、
夢みたいだと思った。
――――――
「ここ俺の行きつけ!」
モズが案内した店は、
木造の賑やかな食堂だった。
入った瞬間。
「モズくーん!」
「久しぶりじゃない!」
「新入生連れてるじゃん!」
めちゃくちゃ話しかけられてる。
「顔広すぎだろお前……」
「コミュ力は生きる力!」
すると奥から、
おばあちゃん店員が出てきた。
「あらモズちゃん!」
「おばちゃーん!入れ歯調子どう!?」
「聞いてよぉ、昨日ズレちゃってねぇ」
「それ絶対噛み合わせっすよ!」
なんで会話成立してるの。
レン、困惑。
モズ、
誰とでも喋れる。
年齢関係ない。
怖い。
席へ座ると、
ノンがメニューを開いた。
「ん〜」
ぺらっ。
ぺらっ。
ぺらっ。
まだめくる。
「……ノン?」
「決まったぁ」
数分後。
店員が、
とんでもないものを運んできた。
ドンッ。
巨大な肉塊。
いや岩。
テーブル揺れた。
レン:
「誰が頼んだ!?」
ノン:
「私だよぉ」
すっ、と手を挙げる。
華奢なのに。
その細腕のどこに入るんだ。
ノンは真顔で言った。
「今日は本気出して食べる〜」
そう言って、
長い桜色の髪を後ろでまとめ始める。
ポニーテール。
レンとモズ、
ちょっと見惚れる。
ノン:
「よしっ」
戦闘態勢みたいに言うな。
そして。
食う。
めちゃくちゃ食う。
「えっ」
「待って」
「消える速度おかしくね!?」
肉が消えていく。
ノン:
「ん〜♪」
幸せそう。
モズが引いてる。
「ノンってそんな食うの!?」
「魔力いっぱい使ったからねぇ」
怖い。
その時。
レンがスープを飲んで顔をしかめた。
「あっつ!!」
ノンが首を傾げる。
「熱い?」
「猫舌なんだよ」
「ん〜」
ノンはそっと指先をスープへ向ける。
ふわっ。
淡い氷の魔力。
次の瞬間。
スープがちょうど良い温度になった。
完璧な温度調整。
レン:
「……すげぇ」
ノン:
「えへへ〜」
モズ:
「便利すぎるだろその魔法」
そんなこんなで、
気づけば三人で笑っていた。
レンも。
自然に。
――――――
帰り道。
三人は近くの売店へ寄った。
モズが大きなクッキーを三つ買う。
「はい、これ月詠で流行ってるやつ」
レンは受け取って固まった。
「……なんで骨型?」
でかい。
しかも妙にリアル。
「かわいいだろ?」
「感性どうなってんだこの世界」
ノンは楽しそうに笑ってる。
レンは何の躊躇いもなく、
ガブッと真ん中へかぶりついた。
数秒。
モズとノンが吹き出した。
「ぶはっ!!」
「ふふっ、だめぇ……!」
「な、なんだよ!?」
レンは骨の中央を咥えた状態で固まる。
モズは腹抱えて笑ってる。
「普通端から食べるだろ!!」
「え?」
「真ん中て!!」
ノン、肩震わせながら笑う。
「完全にこれは犬にしか見えん〜!」
黒い癖っ毛。
ぴょんっと跳ねた猫耳みたいな寝癖。
少し猫背。
骨型クッキーを咥えてる。
どう見ても犬。
いや狼。
モズが大爆笑しながら言う。
「やっぱお前ワン公だわ!!」
「不本意すぎる……」
でも。
そんなくだらないことで、
みんな笑ってるのが。
レンは少し嬉しかった。
モズはケラケラ笑いながら、
レンの肩を組んだ。
「いや〜、大学楽しくなりそうだな!」
レンは少しだけ空を見上げた。
笑い声。
夕暮れ。
友達。
なんかもう。
「……大学生してるな」
胸が、
少しだけ高鳴った。
これから始まる大学生活に。
レンは確かに、
期待していた。
第1章 ワン公、入学
[完]
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