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【勘違いコメディ】そのワン公、魔力ゼロにつき。  作者: 小春日和
第1章 ワン公、入学

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やっぱお前、ワン公だわ

放課後の中庭。


ノンが去っていったあとも、

レンはしばらく噴水の前で固まっていた。


「……情報量多すぎるだろ……」


魔力。

消滅。

桜色。


大学ってなんだっけ。


レンが頭を抱えていると――。


「ワン公ーーー!!!」


遠くから声。


振り向いた瞬間。


モズがすごい勢いで駆け寄ってきた。


「探したんだぞお前!」


「うおっ!?」


肩を掴まれる。


近い。


人懐っこそうなタレ目が、

じーーーっとレンを見つめてくる。


「どこ行ってたんだよ〜」


「えっ、いや、その……」


レン、焦る。


ノンとの話を聞かれてたらまずい。


頭フル回転。


そして咄嗟に出た言葉。


「……用足してた」


沈黙。


モズ:

「え?」


レン:

「え」


モズは首を傾げる。


「トイレ、真逆のとこにあるぞ?」


終わった。


レン、固まる。


どうする。


どうする。


数秒の沈黙の後。


レン:

「…………ここで」


「ん?」


レンは震える指で、

噴水を指差した。


「ここでしてた」


モズ:

「えっ」


噴水。


風、そよそよ。


最悪。


レン、自分で言ってて終わったと思った。


だが。


モズは数秒固まったあと、

感心したように頷いた。


「……すげぇワイルドだなぁ」


通った。


「えっ」


「さすがワン公」


「いや待っ――」


「自然派なんだな」


何が。


レン、もう訂正する気力がない。


モズはケラケラ笑いながら、

レンの背中をバシバシ叩いた。


「よっしゃ!約束通り飯行くぞぉ!!」


「あぁ……」


そうだった。


入学式のあと、

飯に行く約束をしていたんだ。


モズはふと思い出したように言う。


「あ、せっかくだしノンも誘おうぜ!」


「えっ」


「仲良くなりたいし!」


レンは少しだけ気まずくなる。


ついさっき、

秘密みたいな話をしたばかりだ。


でも。


「……まあ、うん」


仲良くなりたい。


それは本音だった。


モズはすぐノンを見つけた。


「ノーーーン!!飯行かね!?」


遠くでノンが振り返る。


ふわっと桜色の髪が揺れた。


「ごはん〜?」


「そ!」


ノンは自分のお腹をさすりながら、

嬉しそうに笑った。


「ちょーどお腹空いてたんだぁ」


三人で歩き出す。


夕方の大学。


空飛ぶ学生たち。


騒がしい声。


レンはなんだか、

夢みたいだと思った。


――――――


「ここ俺の行きつけ!」


モズが案内した店は、

木造の賑やかな食堂だった。


入った瞬間。


「モズくーん!」

「久しぶりじゃない!」

「新入生連れてるじゃん!」


めちゃくちゃ話しかけられてる。


「顔広すぎだろお前……」


「コミュ力は生きる力!」


すると奥から、

おばあちゃん店員が出てきた。


「あらモズちゃん!」


「おばちゃーん!入れ歯調子どう!?」


「聞いてよぉ、昨日ズレちゃってねぇ」


「それ絶対噛み合わせっすよ!」


なんで会話成立してるの。


レン、困惑。


モズ、

誰とでも喋れる。


年齢関係ない。


怖い。


席へ座ると、

ノンがメニューを開いた。


「ん〜」


ぺらっ。


ぺらっ。


ぺらっ。


まだめくる。


「……ノン?」


「決まったぁ」


数分後。


店員が、

とんでもないものを運んできた。


ドンッ。


巨大な肉塊。


いや岩。


テーブル揺れた。


レン:

「誰が頼んだ!?」


ノン:

「私だよぉ」


すっ、と手を挙げる。


華奢なのに。


その細腕のどこに入るんだ。


ノンは真顔で言った。


「今日は本気出して食べる〜」


そう言って、

長い桜色の髪を後ろでまとめ始める。


ポニーテール。


レンとモズ、

ちょっと見惚れる。


ノン:

「よしっ」


戦闘態勢みたいに言うな。


そして。


食う。


めちゃくちゃ食う。


「えっ」

「待って」

「消える速度おかしくね!?」


肉が消えていく。


ノン:

「ん〜♪」


幸せそう。


モズが引いてる。


「ノンってそんな食うの!?」


「魔力いっぱい使ったからねぇ」


怖い。


その時。


レンがスープを飲んで顔をしかめた。


「あっつ!!」


ノンが首を傾げる。


「熱い?」


「猫舌なんだよ」


「ん〜」


ノンはそっと指先をスープへ向ける。


ふわっ。


淡い氷の魔力。


次の瞬間。


スープがちょうど良い温度になった。


完璧な温度調整。


レン:

「……すげぇ」


ノン:

「えへへ〜」


モズ:

「便利すぎるだろその魔法」


そんなこんなで、

気づけば三人で笑っていた。


レンも。


自然に。


――――――


帰り道。


三人は近くの売店へ寄った。


モズが大きなクッキーを三つ買う。


「はい、これ月詠で流行ってるやつ」


レンは受け取って固まった。


「……なんで骨型?」


でかい。


しかも妙にリアル。


「かわいいだろ?」


「感性どうなってんだこの世界」


ノンは楽しそうに笑ってる。


レンは何の躊躇いもなく、

ガブッと真ん中へかぶりついた。


数秒。


モズとノンが吹き出した。


「ぶはっ!!」

「ふふっ、だめぇ……!」


「な、なんだよ!?」


レンは骨の中央を咥えた状態で固まる。


モズは腹抱えて笑ってる。


「普通端から食べるだろ!!」


「え?」


「真ん中て!!」


ノン、肩震わせながら笑う。


「完全にこれは犬にしか見えん〜!」


黒い癖っ毛。


ぴょんっと跳ねた猫耳みたいな寝癖。


少し猫背。


骨型クッキーを咥えてる。


どう見ても犬。


いや狼。


モズが大爆笑しながら言う。


「やっぱお前ワン公だわ!!」


「不本意すぎる……」


でも。


そんなくだらないことで、

みんな笑ってるのが。


レンは少し嬉しかった。


モズはケラケラ笑いながら、

レンの肩を組んだ。


「いや〜、大学楽しくなりそうだな!」


レンは少しだけ空を見上げた。


笑い声。


夕暮れ。


友達。


なんかもう。


「……大学生してるな」


胸が、

少しだけ高鳴った。


これから始まる大学生活に。


レンは確かに、

期待していた。



第1章 ワン公、入学


[完]

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