再会
「カイル空軍に外人部隊があることは有名だけど、正規軍研修生の訓練も引き受けているのね。それは流石に知らなかったわ」
エリスの言葉にセイラは小首を傾げた。
「えっと、カイル空軍でも初めてのことみたいです」
「えっ?そうなの?」
「はい、訓練担当の中尉が『またババを引かされた』ってボヤいてましたし、詳しくは分からないけど、周りに聞いてみても前例の無いことみたいです」
「そうなんだ・・・。カイル空軍は実務的で、規則はあっても色々と柔軟だとは聞いていたけど、本当にそうなのね」
「そうかもしれません。中尉もババを引かされたって言っていましたけど、私が着任する際に他の方々が中尉に押し付けたってのは本当のことみたいです・・・。押し付けられた私が言うのもおかしなことですけど」
セイラの屈託のない笑顔につられてエリスも笑みを浮かべる。
「その中尉さんは色々と仕事を引き受けて、苦労人なのね」
「はい、いつも周りから面倒事を押し付けられて、ブツブツ文句言ってます。でも、私の訓練を含めて、引き受けた仕事はきっちりとやるんです。中尉本人は自分のことを『並のパイロット』だなんて言ってますけど、私から見たら凄腕のパイロットだと思います。今回の合同訓練の仮想敵役を引き受け?押し付けられて?いて、明日にはここに到着する予定なんですよ。そんな中尉の訓練を受けて、私も僅かな期間でスキルが上がったと実感しています。・・・私の思い上がりかもしれませんけど」
「思い上がりだなんて、そんなことないと思うわよ。私は貴女の実力を直接見たわけじゃないけど、実戦経験が豊富なパイロットの指導を受けて、真摯に訓練に取り組んでいれば間違いなくスキルは上がるわ。そこに天性のセンスがあれば尚更ね」
「天性のセンスは自身がありませんが、訓練はしっかりと頑張っています」
話が盛り上がる2人だが、そうこうしている間に交流会も終了の時間となった。
「ありがとう、とても楽しかったわ」
「こちらこそありがとうございます。明日からの訓練、頑張ってください」
互いに敬礼して別れたセイラとエリス。
(あっ、そういえば彼女の訓練教官の名前を聞かなかったな。優秀なパイロットなら名前くらいは知っておきたかったけど・・・まあ、いいか)
この時のエリスはセイラの訓練教官の外人部隊のパイロットについて、それほど大きな興味は抱いていなかった。
明けて訓練初日の早朝。
夜明け前にエアベース23を離陸したシンノスケ達がアザリア空軍ヘリオット基地に到着した。
『到着したな、ヘリオット基地だ』
「了解。さっさと着陸しよう。訓練開始前に一休みしたい」
編隊を組んでヘリオット基地に接近するダグのRF-102とシンノスケのZF-A1。
国境を越えたとはいえ、それほど長距離飛行でもないので、特に疲れているわけでないが、それでも訓練前に一息つきたいところだ。
『まあ、そう急ぐなよ。着陸の前にド派手なセレモニーといこう。高度80で低空進入、管制塔前で左右にブレイクして、バレルロールからの急上昇でどうだ』
派手好きのダグの悪い?癖だ。
「止めておこう。アザレアに怒られるぞ」
『堅いこと言うなよ。なあ、アニス』
ダグが後席のナビゲーターに問いかける。
『はぁ、面倒くさいわね。・・・・・はい、管制塔の許可を取ったわ。西側から侵入、速度800』
ダグのナビゲーターであるアニスもシンノスケと同意見のようだが、ダグは止めたところで聞き入れないだろうことも知っている。
ならば、さっさと済ませてしまおうということらしい。
『そうこなくっちゃ!ほら、シンノスケ、もっと寄せろ。距離は5メートル以内だ』
「・・・了解」
ここまできてはシンノスケも諦めた。
RF-102の右側に翼が触れる程の距離にピタリとつけると速度を合わせる。
『管制塔インサイト。カウント5、4、3、2、1、今!』
2機は翼端から雲を引きながら左右に散開した。
『ロール、2、1、今!続けてクライム、2、1、今!』
左右に別れた2機は同時にバレルロールの後に急上昇する。
特性の違う異機種間でもタイミングはピッタリだ。
予想外のアクロバットと、カイル空軍の最新鋭機のRF-102と、何よりシンノスケのZF-A1を目の当たりにしたカイル空軍の隊員達が驚きの声を上げる。
シンノスケの到着を心待ちにしていたセイラも目を輝かせながら空を見上げていた。
予定外のアクロバットを終えたシンノスケ達は再び編隊を組み直す。
「ほら、気が済んだろう。さっさと着陸しよう」
呆れ声のシンノスケにダグが笑う。
『ハハハッ!そうだな、俺達の機を見てカイル空軍の連中も度肝を抜かれただろう。じゃあ、着陸するか。・・・って、ここの滑走路は幅があるな。よし、仕上げにフォーメーションランディングと行こうぜ!』
「面倒くさい・・・」
『そう言うな、付き合えよ。なあ、アニス』
『・・・許可はおりたわ。好きにしなさい』
2機は編隊を組んだままヘリオット基地に着陸した。
カイル空軍の仮想敵機の到着を他の隊員同様に驚きをもって見上げていたエリス。
(ZF-A1・・・あの時の・・・)
かつての領空侵犯騒ぎの際にエリス達を救ってエスコートしたスクランブル機のうちの1機だ。
軍事大国であるストーラで開発中の試作機がそう何機もカイル空軍に配備されている筈もない。
1機だけでも異様なことだが、元々ストーラは開発中の兵器を友好国に提供して実戦データを収集することがあるので、そのような経緯の機体なのだろう。
「間違いない、あの時の人だ・・・」
エリスはタキシングするZF-A1に向かって歩きだす。
訓練規則でアザレア空軍の隊員が仮想敵機に近づくことが禁じられているが、規制線のギリギリまで近付けばパイロットの姿位は見える筈だ。
尤も、この後のブリーフィングで仮想敵機のパイロットの紹介があるだろうが、どうしても気になってしまう。
「中尉ーっ!」
ふと見れば、キャノピーを開けて近づいてくるZF-A1に向かってセイラが手を振っている。
(彼女の教官があの人なんだ・・・)
「中尉ーっ!こっちです、カシムラ中尉ーっ!」
エリスは足を止めた。
セイラは確かにその名を呼んだ。
「カシムラ?・・・えっ?まさかっ!」
冷水を浴びせられたような感覚がエリスを襲った。




