アザリア民国へ
週が明けて月曜日。
セイラはエアベース23の駐機場脇にある事務所に来ていた。
アザリア空軍ヘリオット基地にて行われる合同訓練のための出発手続きのためだ。
国境を越えて他国に入国するのだから、通常であれば旅券と出入国の手続きが必要なのが当然だが、今回は軍の訓練であり、カイル側の参加者はアザリアに入国してもヘリオット基地から出ることはないため、多くの手続きが省略されている。
旅券に代わる身分証として期間限定のIDパスが交付されて携帯するだけ。
セイラが待機しているのもそのIDパスと輸送機の搭乗チケットを受け取るためだ。
とはいえ、参加部隊員のIDは部隊ごとに既に配分されているので、事務所内に待機しているのはセイラの他にレナと数名の事務官のみ。
「あっ、私の座席、レナさんの隣です。よかった」
「まあ、私達の搭乗する機は最終便で席もガラガラだからね。離陸した後は空いてる席を自由に移動していいみたいよ」
「ちょっと楽しみですね。それに、中尉が『せっかくの機会だし、訓練の一環だから』って機長さんに話しを通してくれて、途中でコックピットの中を見学させてもらえることになっているんです」
「へぇ、よかったじゃない」
まるで旅行に行くかのように盛り上がる2人。
それも仕方のないことで、セイラは訓練の見学だけで訓練参加のプレッシャーは無いし、レナも便宜的には参加隊員の健康管理が名目だが、体調不良者が出なければ訓練を見物しているだけだし、万が一の事故等が発生して治療が必要になればヘリオット基地の軍医が治療にあたるので、レナの役目はその治療の補助と、記録をすることのみ。
それ自体は大切な役割だが、滞りなく合同訓練が行われれば基本的にはすることは無い。
そんな気楽?な2人を乗せた輸送機は定刻どおりにエアベース23を離陸し、予定時間から23分遅れでアザリア空軍ヘリオット基地に到着した。
参加部隊の移動に要したこの日は訓練はない。
行事としては、明日からの訓練に備えて交流会が開催されていた。
整備兵達は明日の訓練に向けて機体の整備に当たっており、事務官達も訓練予定の最終確認を行っているので、交流会に参加しているのは基本的に両国のパイロットのみ。
夕方から開催された交流会は立食パーティーの形式がとられており、アルコールも用意されているが、殆どのパイロットが明日からの訓練に備えてアルコールの接種は控え目だ。
アザリア空軍側から訓練に参加する偵察飛行隊のエリス・ステット中尉は明日の訓練予定は無いが、元々アルコールが好きではないのでソフトドリンクを片手にカイル側のパイロットと談笑していた。
その中でカイル空軍のヤン・メイファ大尉と挨拶を交わしたが、聞けば先のスクランブル騒動の際にエリス達をエスコートしたクーロン01だったことが判明し、その際の謝罪と礼を述べたのだが、メイファの方は、あの時のことなどまるで些事であるかのようにカラカラと笑っており、随分とさっぱりとした印象だ。
あの時にメイファの編隊にいたZF-A1を駆る外人部隊のパイロットのことについて聞いてみようとしたのだが、それを尋ねる前に部下に呼ばれたメイファが席を外してしまったため、尋ねることができなかった。
エリスが改めて会場内を見渡すと、会場の隅にポツンと所在なげに立つ1人の少女の姿。
(カイル空軍の制服を着ているし、胸にはウイングマーク。パイロットなのは間違いなさそうだけど、随分と若すぎるわね?)
その少女に興味が湧いたエリスは声を掛けてみることにした。
「こんにちは。ちょっとお話いいかしら?」
「えっ?・・・はっ、はいっ!」
不意に声を掛けられたセイラは反射的に背筋を伸ばしてエリスに対して敬礼する。
エリスも答礼するが、近づいて見てみれば少女の襟には伍長の階級章。
カイル空軍では下士官でも飛行兵になれる筈だ。
(配属されたばかりの新兵?)
「急に声を掛けてごめんなさい。私はアザリア空軍のエリス・ステット中尉よ。よろしくね」
「あっ、あの、私はカイル空軍のセイラ・スタア、伍長です!」
緊張した様子の少女はセイラと名乗った。
エリスはそんなセイラの制服の左肩のエンブレムに目が留まる。
悪魔のイラストと共に『KiIe Air Force Unit Of Foreigner 』の表記。
カイル空軍の外国人部隊の部隊章だ。
「えっ?貴女、外人部隊員なの?えっ、でも制服が・・・」
エリスは少しばかり混乱する。
カイル空軍の外国人部隊の制服は正規軍の紺色の制服とは違い、黒色だし、デザインも違う。
ただ、目の前にいるセイラは部隊章こそ外国人部隊のものだが、着ている制服はカイル空軍正規軍のものだ。
「あっ、私はカイル空軍の飛行研修生です。飛行兵学校を出て、エアベース23で研修を受けているんですが、私の訓練教官を務めてくれているのが外国人部隊の方なんです。このエンブレムは期間限定の準隊員として、在隊記念でいただきました」
セイラは少しだけ誇らしげに笑った。




