空戦遊戯2
最大出力で急上昇するZF-A1。
シンノスケの得意戦法の突き上げだ。
旋回するG-28Kとの距離が一気に縮まる。
「真下を取った!」
ヘッドアップディスプレイにG-28Kを捉える。
領空を侵犯されているとはいえ、相手は丸腰(に見える)だ。
いきなり撃墜するわけにもいかないが、戦闘機動中なので警告を発する暇もない。
ロックオンしての牽制を狙ったのだが、G-28Kをロックオンする直前にGヒラリと機体を翻して躱されてしまう。
そのまま高G旋回でシンノスケを振り切ろうとする魂胆のようだが、シンノスケの反応も早かった。
ZF-A1の高い機動性を駆使して急上昇から即座に水平飛行、そして離脱しようとするG-28Kを追って旋回機動に入る。
「よしっ!」
背後を取った。
シンノスケは無線を国際周波に合わせる。
「ルドマン空軍機に警告する!貴機はカイル共和国の領空を不当に侵犯している。我々の誘導に従うと共に、貴機の目的を述べよ!」
シンノスケは警告を実施するが、G-28Kは指示に従う素振りを見せない。
シンノスケを挑発するように右に左に旋回機動を続けている。
シンノスケはG-28Kの前方に機銃の照準を合わせた。
「ルドマン空軍機に重ねて警告する。当方の誘導に従え。従わないならば警告射撃を行う!」
段階的な警告を続ける。
警告射撃に従わなければ次は機体への射撃、つまり撃墜だ。
『警告だなんて回りくどいことをなさらずに当ててみなさいな』
突然の返答。
(えっ、女?・・・つまらん挑発をっ!)
明らかに揶揄われているが、シンノスケに動揺はない。
「警告射撃を実施する!余計な機動をするな!」
シンノスケはトリガーを引いた。
数十発の弾丸がG-28Kの鼻先を掠める。
絶妙な射撃だが、G-28Kの動きに変化はない。
「アロー04からWHQ及びアロー01。目標に向けて警告射撃を行うも効果なし。これより目標に対して実効射撃を行う」
『WHQ了解。目標の撃墜を許可します』
『アロー01了解。こちらのターゲットは領空外に追い払った。これより援護に向かう』
司令部と編隊長への報告も完了した。
もう遠慮は無しだ。
ミサイルを使用するには近過ぎる。
シンノスケは僅かに加速してターゲットとの距離を詰めた。
「最終警告だ。指示に従わないならば撃墜する。返答は如何に?」
全ての手順は完了。
シンノスケは旋回を続けるG-28Kに狙いを定めてトリガーに指を掛けた。
G-28Kの機動が鋭さを増すが、シンノスケも負けてはいない。
射撃位置を取りながら食らいついていく。
もう待ったは無しだ。
そう思った矢先、突然G-28Kが機動旋回を止めて、水平飛行に入るとゆっくりと翼を振り始めた。
『降参ですわ。そちらの誘導に従います。領空外にエスコートしてくださるかしら?』
シンノスケはトリガーから指を離す。
終始遊ばれて、馬鹿にされたようなものだが、冷静を保つ。
相手が誘導に従うというならばこれ以上の戦闘行動は必要ない。
「・・・了解した。それではそのままの進路を維持して我が国の領空外に退避されたし」
『了解ですわ。元々交戦の意思はありませんでしたし、こちらは全くの丸腰ですの。ちょっと遊びに来ただけですので、撃たないでくださいましね』
誘導に従う素振りを見せるG-28K。
シンノスケは何時でも撃てるポジションを保ちながら後を追う。
その間にアッシュも合流してきてシンノスケのカバーに入るが、赤い尾翼のG-28Kはその後はおかしな行動をすることもなく、最後にはシンノスケ達を誂うように翼を振りながら領空外へと離脱していった。
「結局、最後まで増槽を落とさなかったな・・・」
見送りながら呟くシンノスケ。
『こちら側で増槽を落とされたら回収して処分するのはカイルの方だからな。余計なゴミを落としていかれなくて助かったぜ。・・・しかし、シンノスケ、お前あれだけ虚仮にされて、よくクールでいられたな』
「えっ?」
『いや、別にお前を馬鹿にしているわけじゃないぜ。のらりくらりと遊ばれて、あんなふざけた態度を取られたら、血の気の多い奴ならもっと突っかかっていったところだぞ。よく冷静さを失わなかったな』
戦闘機のパイロットには高い倫理観と冷静な判断力が必要不可欠だが、それだけではない。
負けん気が強くないと務まらないという一面もある。
あのルドマン機のパイロットのように、実力差を見せつけられた挙げ句に、あんな態度をされては頭にきて当然だ。
「ああ、そのことですか。別に・・・いや、単にめんどくさいだけですよ。こっちはスクランブルの支援で上がっているんですからね、どんな態度を取られようが、結果的に領空外に追っ払えたなら、それで十分です。いちいち腹を立てても損なだけですよ。余計な損害が無かっただけで御の字じゃないですか」
『そういうところがお前の長所なんだろうな。俺は気に入らないがよ。お前が俺の部下じゃなくてよかったぜ』
「それはなによりですよ」
軽口を叩きながらもアッシュは自分の編隊と、スクランブルで上がっていた機を集合させると、司令部に対して作戦終了を宣言して、基地への帰還を下命した。




