空戦遊戯1
支援に向かうシンノスケ達に現場の状況が送られてくる。
たった2機の目標にスクランブルで上がった6機の戦闘機が翻弄されている。
空戦になっていながら、どちらにも損害が出ていないどころか、双方が機銃の1発も発砲していない状況らしい。
ルドマン機の意図は分からないが、スクランブルの6機は発砲する機会すら得られていないようだ。
レーダーを見れば、ルドマン機はスクランブル機の追撃を躱しながら挑発するようにカイルの領空への侵犯を始めた。
領空に侵入したかと思えば、直ぐに離脱し、再び領空に侵入する。
アッシュが言ったとおり、完全に遊ばれているような状況だ。
『チッ!ナメられたもんだな』
アッシュが舌打ちする。
確かに、既に取り囲んでいるスクランブル機6機に加え、シンノスケを含むアッシュの編隊4機が接近しているのに2機のルドマン機は離脱する様子も見られない。
それどころか、増援が来たと見るや、こちらに向かってくる始末だ。
『真正面、来るぞっ!各機、進路そのままだっ!』
シンノスケ達の真正面からルドマン機が突っ込んで来る。
鼻先に向かって衝突する勢いだったが、その直前にルドマン機がバレルロールをしながら回避してゆく。
双方がすれ違う瞬間、シンノスケは赤い尾翼が特徴のG-28Kを見た。
(あの機は・・・)
つい先日、訓練中のシンノスケとセイラに突っかかってきた機体と特徴が一致する。
『巫山戯やがって!ジョーカー、見たか?』
「こちらでも確認しました。目標は非武装です」
ルドマン空軍の最新鋭制空戦闘機であるG-28Kは高性能のミサイルを搭載し、超高速で目標に接近して目標を撃墜するという設計思考の元に開発された戦闘機だ。
機動性よりも速度に重点を置いた機体で、ミサイルキャリアとして一撃離脱を得意とする機がミサイルを搭載していない。
『しかも、直線番長のG-28Kに増槽を抱えたままだ!』
強行偵察なのか、示威行為が目的なのか不明だが、ミサイルも搭載せず、スクランブル機に囲まれ、ドックファイトを繰り広げながらも増槽タンクを投棄することなく、悠々と飛び回っている。
シンノスケ達が到着しても逃げる素振りもない。
そうとうな手練れだ。
『あの赤い尾翼、ジョーカーが報告した例の機体だな?』
「そのようです」
アッシュは判断を下す。
『乱戦を避ける。奴等の対処はアロー01と04、俺とジョーカーの2機で当たる。ジョーカー、いいな?』
「了解!」
『他の連中は目標から10キロ以上距離を取れ!』
相手が手練れのパイロットならば、なまじ乱戦になるとそれこそ相手の思う壺だ。
少数対少数の対決に持ち込んだ方がいい。
アッシュの隊は皆腕のいいパイロットだが、シンノスケの搭乗するのは開発国ですら配備されていない試作戦闘機のZF-A1だ。
ルドマン機が目を付けてくるのは間違いない。
友軍機が散開していく中、アッシュとシンノスケはルドマン機に対峙する。
案の定、赤い尾翼のG-28KはシンノスケのZF-A1に向かってきた。
『敵にデータを取られるのは癪だが、仕方ない。ジョーカー、そっちは任せたぞ』
「了解しました」
アッシュはもう1機のG-28Kに向かう。
赤い尾翼のG-28Kのコックピットでルドマン空軍のアリア・リングルンド少佐は妖艶な笑みを浮かべていた。
アリアが所属するのは第102実験飛行隊。
表向きはあらゆる飛行試験を行うテストパイロット部隊だが、実際はルドマン空軍において特殊任務を請け負う特務飛行隊だ。
「退屈しのぎに領空を突っついてみたけど、面白そうな子が出てきましたわね。ZF-A1・・・カイル空軍、外国人部隊に本当に配備されていたのね」
新しいおもちゃを見つけたように笑うアリアは接近してくるZF-A1に狙いを定めた。
「会うのは初めてだけど、中々腕のいい操縦士だと聞いていますわ。・・・でも、私を楽しませてくれる程の腕前かしら?だとしたら嬉しいのですけど」
背後に付こうとしているZF-A1を十分に引き付けたアリアはタイミングを見計らって操縦桿を引いた。
蛇が鎌首を上げるように強引に機首が持ち上げられたことにより機速が急激に落ちる。
後方のZF-A1との距離が一気に縮まる。
突然機首を上げて急減速するG-28K。
「くっ!」
シンノスケは咄嗟に機体を反転させ、一気に高度を落とす。
G-28Kを追い抜いてしまったが、相手が機首を戻す前に低空に逃れて、背後を取られる前に急旋回に入った。
旋回しながら敵機を見れば、素直に追撃してくる気は無いらしく、シンノスケとは逆方向に急旋回しながら有利な位置を取ろうとしている。
上空を取った方が有利なのは空中戦のセオリーだ。
しかし、シンノスケは違う。
「良い位置を取った!」
スロットルレバーを一杯にまで押し込むと、操縦桿を引いて一気に高度を上げる。
狙いは敵機の腹だ。




