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Myosotis 〜すべてを忘れるために〜  作者: こんにゃくミ(こんにゃイカ)


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Myosotis ミオソティス

【これまでのあらすじ】


すべての始まりは、二つの一族だった。


傷を驚異的な速さで癒やし、他者の記憶を見る能力を持つ

『不死川家』

老いを遅らせる力と記憶操作の能力を持つ

『常盤家』


異なる両家の力が交わる時、人類の夢である「不老不死」の研究が完成する。


やがてその研究は、核兵器に対抗するための国家機密へと変わり、世界を揺るがす計画へと発展していく。


その研究がもたらす未来を阻止するため、蓮、蓮次、咲、祐希は立ち上がった。


幾多の困難を乗り越え、真実へとたどり着いた彼ら。


しかし、その代償はあまりにも大きかった。


蓮次の死。


その犠牲によって、蓮たちは祐希の父を止めることに成功する。


そして、咲が持つ記憶を改変する能力。


彼女が願ったのは。


「……不老不死に関わる全てを、忘れて。そして争いのない世界を……」


その願いは、やがて世界中へ光となって広がっていった。


すべての始まりとなった研究。

失われた命。

そして、託された願い。


彼らが選んだ未来とは――。


物語は、ついに完結へ。

挿絵(By みてみん)

――五年後。


 刑務所の面会室には、静かな空気が流れていた。


 アクリル板を挟んで向かい合う二つの椅子。


 俺はその片側に腰を下ろし、目の前に現れた男に手を振った。

挿絵(By みてみん)

「祐希先輩!」


「おう、蓮。久しぶりだな」


 高尾祐希(たかおゆうき)。


 五年前と比べれば、少し大人びた顔つきになった。けれど、俺を見て笑うその表情は、昔と何も変わっていなかった。


「実はですね、祐希先輩。俺たち、子供が生まれたんですよ!」


「……は?」


 祐希先輩は一瞬、目を丸くした。


 そして、次の瞬間には顔いっぱいに笑みを浮かべた。


「マジか! お前、いつの間に!」


「いやぁ、いろいろありまして!」


「いろいろって何だよ!」


 二人で笑う。


 五年前、あれほど多くのものを失いかけた俺たちが、今こうして子供の話をしている。


 あの日のことを思えば、不思議な気持ちになった。


「名前は、蓮と巡るで、蓮巡(れんじゅ)です」


「蓮巡……か。いい名前じゃねえか」


 祐希先輩は、ゆっくりと頷いた。


「そっか。おめでとう、蓮。お前もパパか」


「ありがとうございます!」


「いつか会わせてくれよ。」


「もちろんです! 退所したら、ぜひ!」


 祐希先輩は、少し照れくさそうに笑った。


 その表情を見て、俺も自然と笑みがこぼれた。


 やがて、祐希先輩は少しだけ真剣な顔になった。


「……そういえば、俺もこの前、親父と面会したんだ」


「正樹(まさき)さんと?」


「ああ」


 祐希先輩は、膝の上で両手を組んだ。


「今まで自分がしてきたことを、全部償うって言ってたよ。研究のことも、殺された人たちのことも……。もう言い訳はしないってさ」


 俺は黙って耳を傾けた。


「俺も、これから親父と向き合っていこうと思う。もちろん、自分自身ともな」


「……祐希先輩」


「親父が何を考えていたのか。どうしてあんなことをしたのか。俺は、まだ全部を理解できたわけじゃない」


 祐希先輩は、少しだけ視線を落とした。


「でも、理解できないからって、目を背け続けるのも違うと思うんだ」


 その言葉に、俺は静かに頷いた。


「そうですね」


「……お前も、いろいろあったんだろ?」


「まあ、そうですね」


「これからも、いろいろあるぞ。子育ては大変らしいからな!」


「祐希先輩、まだ俺、何も分かってないんですけど!」


「ははは! 頑張れ、父親!」


 面会時間の終了を知らせる職員の声が響いた。


 俺たちは立ち上がり、最後に向かい合った。


「じゃあな、蓮」


「はい。また来ます、祐希先輩」


「ああ。今度は蓮巡の話を、もっと聞かせてくれよ」


「もちろんです!」


 俺たちは笑顔で挨拶を交わした。


 そして俺は、面会室を後にした。


 *


 病院へ向かう道中、俺は窓の外を眺めていた。


 五年前、世界を包み込んだ光。


 あの日を境に、世界は少しずつ変わり始めた。


 けれど、その変化をすべて理解できたわけではない。


 俺たちの記憶から消えたもの。


 今もなお、胸の奥に残っているもの。


 それらを抱えながら、俺たちは今日まで歩いてきた。


 病院に着くと、俺は急いで病室へ向かった。


 扉を開ける。


 そこには、ベッドの上で赤ん坊を抱いている千咲(ちさき)の姿があった。


 白いシーツに身を預け、柔らかな表情で小さな命を見つめている。


 その隣には、千鶴も座っていた。


「……ただいま」


 俺が声をかけると、千咲が顔を上げた。


「おかえり、蓮くん」


 その笑顔を見た瞬間、胸の奥が温かくなった。


「祐希先輩に会ってきたよ!」


「祐希先輩、元気だった?」


「ああ。相変わらずだったよ」


 俺はベッドのそばまで歩き、千咲の腕の中を覗き込んだ。


 小さな赤ん坊が、静かに眠っている。


 蓮巡。


 俺と千咲の子供。


 この世界で、これから生きていく命。


「正樹さんとも話をしたみたいだよ。今までのことを償うって。それから……蓮巡が生まれたことも報告してきた」


「そっか……」


 千咲は眠っている蓮巡の顔を見つめた。


 千鶴が、穏やかな笑みを浮かべた。


「この子が大きくなる頃には、もっと優しい世界になっているといいね」


「そうですね、お母さん」


 千咲が微笑む。


 それから、俺はふと思い出したように、千鶴へ尋ねた。


「そういえば、千鶴さん。この前隠していた写真って、なんだったんだ?」


 千鶴は少し驚いた表情を浮かべた後、優しく微笑んだ。


「ああ、あれね。千咲と蓮と私、三人で高校生の時に撮った写真じゃよ」


「三人で?」


「そう。懐かしいだろ?」


 千鶴はそう言うと、鞄の中から一枚の写真を取り出した。

挿絵(By みてみん)


「今日、持ってきているよ。ほら」


 差し出された写真を、蓮はそっと受け取った。


 そこには、幼い蓮と千咲、そして千鶴の姿が写っていた。


「……こんな写真があったんだな」


 隣にいた千咲も、興味深そうに写真を覗き込んだ。


「高校生か……懐かしい」


 俺は懐かしそうに写真を見つめた。


 すると千鶴は、もう一度鞄の中に手を伸ばした。


「それから、もう一枚あるんじゃよ。これは幼い頃の千咲の写真」


 蓮と千咲は、その写真を覗き込んだ。


 そこには、一人の少女が写っていた。

挿絵(By みてみん)


 白い髪を後ろで綺麗に結び、穏やかな表情を浮かべている。


 その顔立ちは、千鶴によく似ていた。


「……千咲なのはわかるけど」


 蓮は写真と千鶴を交互に見つめた。


「なんで髪が白いんだ?」


 千咲も不思議そうに首を傾げる。


 千鶴は写真を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。


「私も不思議には思っていたんじゃよ。千咲は幼い頃、私と同じ真っ白な髪をしておったんじゃ」


 千鶴は少し懐かしそうに目を細めた。


「それが、いつの間にか綺麗な真っ黒な髪になっていてね……。私も最初は驚いたものじゃ」


「いつの間にかって……髪の色が変わったってこと?」


 俺は写真を見つめたまま尋ねた。


「そういうことになるね」


 千咲も写真を覗き込みながら、首を傾げた。


「でも、どうしてなんでしょう……?」


 そのとき、病室のテレビからニュースの音声が聞こえてきた。


『続いてのニュースです。世界各国の代表が参加する国際会議が、まもなく開催されます』


 画面には、さまざまな国の代表者たちが会場へ入っていく様子が映し出されていた。


『今回の会議の名称は、「対話」です』


 俺たちは、自然とテレビへ目を向けた。


『世界が光に包まれたあの日から、各国の関係は大きく変化しました。長年対立してきた国々が協力関係を築き、深刻な貧困に苦しむ地域への支援も、国境を越えて進められています』


 画面が切り替わる。


 食料や医療物資を運ぶ人々。


 学校を建設する人々。


 国籍も、肌の色も、言葉も違う人々が、互いに手を取り合っていた。


『また、国家間の対立についても、武力による解決ではなく、対話による合意形成を目指す動きが広がっています。双方が自らの主張を伝え、相手の事情を理解し、互いに譲り合える道を探る。そうした取り組みが、世界各地で進められています』


 ニュースキャスターの声が、病室に響く。


『専門家は、この変化について、次のように述べています』


 画面に映った人物が、静かに語り始めた。


『もちろん、すべての問題が解決したわけではありません。今もなお、意見の対立や深刻な格差は存在しています。しかし、かつてなら武力に頼っていた場面で、まず話し合おうとする。その意識が世界中に広がったことは、大きな変化と言えるでしょう』


 俺は、その言葉を黙って聞いていた。


 世界から戦争が完全に消えたわけではない。


 争いがなくなったわけでもない。


 それでも、人々は少しずつ変わり始めていた。


 相手を敵と決めつける前に、話を聞く。


 自分の正しさを押しつける前に、相手の事情を考える。


 そして、どちらか一方を犠牲にするのではなく、双方が納得できる道を探す。


 それは、決して簡単なことではないだろう。


 時には、何度話し合っても分かり合えないことだってある。


 それでも、人々は対話を続けようとしていた。


 俺は、ふと病室の窓へ目を向けた。


 窓の外には、穏やかな街の景色が広がっている。


 その景色を見つめながら、俺は胸の中で、もう会えない二人に語りかけた。


「悟、すっかり世界は変わっちまったよ。この世界をお前と過ごせたらと思うよ」


 返事はない。


 それでも、風に揺れる木々の音が、まるで悟の声のように聞こえた気がした。


「蓮次、この世界を見たらお前はどう思うかな? 面白いって笑ってくれるか? お前にとってつまらない未来じゃなかったらいいな」


「……変わったな、世界」


 俺が呟くと、千咲がこちらを見た。


「うん」


 千咲は、蓮巡の小さな手にそっと指を添えた。


「この子が大きくなる頃には、もっとたくさんの人が、誰かを傷つける前に話し合えるようになっているといいね」


「……そうだね」


 俺は、眠っている蓮巡の顔を見つめた。


 この子が生きていく未来。


 俺たちが守りたかった未来。


 それは、誰かが犠牲になることで成り立つ世界ではない。


 誰かを支配することで、平和を保つ世界でもない。


 違う考えを持つ人間同士が、時にはぶつかりながらも、互いを理解しようとする世界。


 きっと、それが本当の意味で平和な世界なのだろう。


 俺は、千咲の肩にそっと手を置いた。


「千咲」


「はい?」


「俺たちも、この子に恥ずかしくない生き方をしよう」


 千咲は微笑んだ。


「はい、蓮くん」


 病室の窓から、柔らかな光が差し込んでいた。


 その光の中で、蓮巡が小さく身じろぎをした。


 そして、何かを確かめるように、俺の指をぎゅっと握った。


 俺は思わず笑った。


「……よろしくな、蓮巡」

挿絵(By みてみん)


 小さな手は、決して強くはなかった。


 けれど、その手の温もりは確かにそこにあった。


 俺は、蓮巡の頭を優しく撫でる、頭に触れた瞬間電(・)流(・)の(・)如(・)く(・)幾(・)千(・)の(・)記(・)憶(・)が(・)流(・)れ(・)込(・)む(・)。

挿絵(By みてみん)

「なんだ?!今の?」


 俺はそれが一体何なのか理解できなかった・・・・







 *








 二二X X年。


 時は流れた。


 かつて緑に覆われていた島は、焼け野原と化していた。


 黒く焦げた大地。


 崩れ落ちた建物。


 風が吹くたび、灰が舞い上がる。


 その光景を、富士川蓮巡はただ呆然と見つめていた。


 かつてここには、人々の暮らしがあった。


 笑い声があり、希望があり、未来を語る声があった。


 しかし今、島に残っているのは、焼け焦げた大地と、静寂だけだった。


 蓮巡の足元には、ひび割れた研究施設の端末が転がっていた。


 画面には、最後に記録された文が表示されている。


ブンショウ イチブ カイセキ カンリョウ トキワ ト シナズガワ ハ マジワッテ ハ ナラナイ....フロウフシ....ス(・)ベ(・)テ(・) (・)ヲ(・) (・)シ(・)ッ(・)テ(・) (・)ス(・)ベ(・)テ(・) (・)ヲ(・) (・)ワ(・)ス(・)レ(・)ル(・) (・)タ(・)メ(・)ニ(・)...


そして一輪の華が燃え盛る炎とは対照的に、青々と輝いていた。

挿絵(By みてみん)




Myosotis ~すべてを忘れるために~完





最後までお読みいただきありがとうございました。

この『Myosotis』〜すべてを忘れるために〜という作品では、過去の過ちや、悲惨な過去を忘れない、未来で同じ事を繰り返してはならないそう言った思いも込めています。

世界にはいろいろな人が存在して、いろいろな個性があります。時に対立するか事もあるかもしれません。けれど人間には他の動物にない「言葉」を持っています。

そんな素晴らしい「言葉」という「能力」を使える唯一の生き物として、平和な世界を。お互いがお互いに支え合えるそんな世界であってほしいと願っています。

 人は、過ちを犯す生き物です。

 けれど、過去から学び、誰かの痛みを知り、同じ過ちを繰り返さないように努力することもできるはずです。

 どれだけ時代が変わっても、どれだけ技術が進歩しても、人の心までもが置き去りになってしまってはいけない。

 過去に何があったのか。

 何を失い、何を守れなかったのか。

 それを忘れず、次の世代へと伝えていくことに意味があるのだと思います。

 『Myosotis』という物語が、そんな過去と未来について、ほんの少しでも考えるきっかけになれば嬉しいです。

 こんにゃくミ

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― 新着の感想 ―
完結おめでとうございます! いやぁ、最後に見たものはなんだったんでしょう...! 全てを忘れることがいいことなのかはわかりませんが、自分はそれでも過去を背負って言葉を紡いでいきたいと思いました!
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