↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Myosotis 〜すべてを忘れるために〜  作者: こんにゃくミ(こんにゃイカ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/68

燃え上がる山

挿絵(By みてみん)

――ここからが、本当の戦いだった。


 その言葉どおり、四人の前に立ちはだかる敵は、一人や二人ではなかった。


「止まれ! 武器を捨てろ!」


 通路の向こうから、数名の自衛隊員が銃を構えて駆け寄ってくる。


「うわぁ、また来たよ♪ 正樹ちゃんのところって、ずいぶん人手が余ってるんだねぇ」


 風見蓮次は、楽しそうに笑った。


「感心してる場合か!」


 蓮は床を蹴り、一気に距離を詰める。


 銃口がこちらを向くよりも早く、白銀の刃が閃いた。


 銃を持つ手を弾き、鳩尾に拳を叩き込む。崩れ落ちる隊員を避け、そのまま次の相手へと踏み込んだ。


 隣では蓮次が、残った左腕一本で敵を翻弄していた。


「はい、一人目ぇ♪」


 振り下ろされた警棒を紙一重でかわし、相手の懐へ潜り込む。足を払って転倒させると、別の隊員の銃を蹴り飛ばし、その勢いのまま相手の顎に一撃を叩き込んだ。


「二人目ぇ♪ あれ、もう終わり?」


 蓮と蓮次。


 二人が前に出るたび、隊員たちは次々と床に沈んでいく。


 銃声が響くこともあったが、蓮は弾道を見極めて身をかわし、銀白色の刃で相手の武器を弾き落とした。


 やがて、通路にはうめき声だけが残った。


「……相変わらず、すごいな」


 後方で見守っていた祐希が、思わず呟く。


「祐希先輩、咲。大丈夫ですか?」


「ええ、私は大丈夫です」


「ああ。問題ない」


 蓮は二人の無事を確認すると、再び通路の奥へと視線を向けた。


 まだ、正樹のもとにはたどり着いていない。


 警報は鳴り続け、基地の中は混乱していた。何が起きているのか分からないまま、隊員たちは四人を見つけるたびに襲いかかってくる。


 そのたびに蓮と蓮次が迎え撃ち、道を切り開いていった。


 何度目かの戦闘を終えたときだった。


「……なあ」


 祐希が、ぽつりと口を開いた。


「俺、いらなくないか?」


 その声に、蓮が振り返る。


「祐希先輩?」


「だってそうだろ。俺には能力がない。戦闘だってできない。お前らみたいに敵を倒せるわけでもない」


 祐希は自分の手を見下ろした。


「それどころか、俺は最悪の研究を進めている自衛隊幹部の息子だ。親父が何をしているのか、全部を知っていたわけじゃない。でも、知らなかったからって何も変わらない」


 握り締めた拳が、小さく震える。


「俺がここにいる意味なんて……あるのか?」


 誰も、すぐには答えなかった。


 蓮は口を開きかけたが、言葉が出てこなかった。


 祐希の気持ちは分かる。


 自分たちは特殊な力を持ち、戦うための力も手に入れた。だが、祐希にはそれがない。


 それでも、祐希がいなければここまで来られなかった。


 そう伝えたかった。


 けれど、今の祐希が求めているのは、ただの慰めではないのだろう。


 咲もまた、何も言えずに俯いていた。


 重苦しい沈黙が、四人の間に流れる。


 ――その空気を、あっさりとぶち壊したのは蓮次だった。


「なら、死ぬ?」


「……は?」


 祐希が顔を上げる。


 蓮次は、まるで世間話でもするかのような気軽さで続けた。


「能力もない、戦闘もできない、自分の存在意義も分からない。だったら、もう死んじゃえばいいんじゃない?」


「おい、蓮次!」


 蓮が思わず声を荒らげる。


 しかし、蓮次はまったく気にする様子もなかった。


「だってさぁ、祐希ちゃんの存在意義って、高尾ちゃんを止めることでしょ?」


「……!」


「親父が何をしてるか知って、止めたいと思った。だからここまで来た。それだけで十分じゃない?」


 蓮次は祐希の顔を覗き込むように、ずいっと距離を詰めた。


「そんなことで、ずうずうしい図体して、いつまでもくよくよしないでよ。気持ち悪い(笑)」


「てめぇ……!」


 祐希の眉間に、深い皺が刻まれた。


「ふざけんな! 誰がくよくよしてるって!?」


「えー、してるじゃん♪」


「うるさい!」


 祐希は蓮次の胸ぐらを掴みかねない勢いで詰め寄った。


「お前に言われなくても、そのつもりだ! 親父は俺が止める! あいつが何を考えていようが、どんなことをしていようが、俺が直接確かめて、間違っているなら止めてやる!」


 怒鳴り声が通路に響き渡る。


 蓮次は一瞬きょとんとしたあと、にやりと笑った。


「そうそう。その意気、その意気♪」


「……っ、この野郎!」


「いやぁ、よかったよかった。さっきまで今にも死にそうな顔してたからさぁ。ボク、そういう湿っぽいの苦手なんだよねぇ」


「誰のせいだと思ってんだ!」


「祐希ちゃんのせい?」


「お前だよ!!」


 蓮次は腹を抱えて笑い出した。


 祐希は怒りに肩を震わせていたが、先ほどまでの沈んだ表情は、もうどこにもなかった。


 蓮は呆れたように息を吐く。


「……本当に、どういう神経してるんだよ」


「褒め言葉として受け取っておくね、蓮ちゃん♪」


「褒めてない」


 咲も、思わず小さく笑った。


 もちろん、祐希の抱えている問題が解決したわけではない。


 自分の父親が、この基地で何をしているのか。


 なぜ、こんな非道な研究を続けているのか。


 そして、自分は本当に父親を止められるのか。


 答えは、まだ何一つ出ていない。


 それでも。


 立ち止まっていた足は、再び前へと進み始めていた。


 蓮次が加わってからというもの、重苦しい空気に沈み込む時間は、明らかに減っていた。


 言葉は乱暴で、態度は最悪。


 人の心を抉るようなことを、平然と口にする。


 それなのに、不思議と立ち止まることだけは許してくれない。


 ――悪魔のような男だった。


「さてと。そろそろ出口かな?」


 蓮次が前方を指差す。


 通路の先には、大きな鉄製の扉があった。


 祐希が周囲を警戒しながら近づき、扉の横に設置された操作盤を確認する。


「ロックは……解除されてるな」


「警報の影響かもしれませんね」


 蓮が答え、扉に手をかける。


 重い金属音とともに、扉がゆっくりと開いていった。


 その向こうから、冷たい山の空気が流れ込んでくる。


 四人は、ようやく基地の外へと足を踏み出した。


「……出られた」


 咲が、ほっと息を吐く。


 しかし、その安堵は長く続かなかった。


「……え?」


 蓮が、山の向こうを見つめたまま立ち尽くす。


 祐希も、咲も。


 そして、普段はどんな状況でも笑っている蓮次でさえ、言葉を失った。


 山が、燃えていた。


 視界の先に広がる山肌は、赤々とした炎に覆われていた。


 木々の隙間から火柱が立ち上り、黒煙が夜空を覆い尽くしている。風に煽られた炎は山の斜面を這うように広がり、遠く離れたこの場所にまで、熱気と焦げ臭い匂いが届いていた。


 まるで、山そのものが地獄へと変わってしまったかのようだった。


「なんだよ……これ」


 祐希の声が、震える。


 蓮は燃え盛る山を見つめたまま、拳を握り締めた。


 警報の原因は、まだ分からない。


 基地の中で何が起きているのかも、誰がこの火を放ったのかも。


 何一つ、分かっていない。


 だが、ひとつだけ確かなことがあった。


 この島で、何かが始まっている。


 そして、それは四人が想像していたよりも、ずっと大きな事態なのかもしれなかった。


「……急ごう」


 蓮は、燃え盛る山から目を離さずに言った。


「正樹さんのところへ」


 誰も反対しなかった。


 四人は再び歩き出す。


 赤く染まる夜空の下、彼らを待ち受ける真実は、もうすぐそこまで迫っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。