↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Myosotis 〜すべてを忘れるために〜  作者: こんにゃくミ(こんにゃイカ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/68

最悪の再会

挿絵(By みてみん)

正樹は、廊下を進みかけたところで足を止めた。


 そして、背後から聞こえた声に振り返る。


「蓮次! 何で戻ってきている!」


 そこにいたのは、赤と白の髪を揺らしながら、三人の肩に腕を回している風見蓮次だった。


 蓮次は悪びれる様子もなく、ひらひらと片手を振った。


「高尾っち、お疲れっす! いやー、お腹空いちゃってさ、ちょっと休憩♪ 腹が減ってはゲームはできぬってね♪」


「ふざけるな!」


 正樹の怒声が廊下に響いた。


「何のためにお前を拾ってやったと思っている! さっさと働け! 泳がせれば、必ず家に戻るという読みはよかったが……逃がしやがって!」


「僕を、出来損ないの息子さんの代わりに育てるってやつ?♪」


 蓮次は祐希を横目で見た。


 そして、心底おかしそうに笑った。


「いやぁ、期待に応えられなくて申し訳ないっすねぇ♪」


「……貴様」


 祐希の表情が険しくなる。


 だが、蓮次はそんな視線など気にも留めず、さらに笑みを深めた。


「さっさと飯を食って、あいつらを探しに出ろ!」


「はいはい♪」


 蓮次は軽い調子で返事をした。


「ちゃんと働きますって。僕、真面目なんで♪」


「口だけは達者だな……!」


 正樹は吐き捨てるように言うと、三人には目もくれず、反対方向へ歩き始めた。


 その背中が廊下の角に消えていく。


 蓮は、ようやく詰めていた息を吐いた。


 助かった……のか?


 いや、違う。


 肩に回された腕から伝わってくる力も、耳元で聞こえる楽しげな笑い声も、何一つ安心できるものではなかった。


「……何のつもりだ?」


 蓮は口元だけを動かし、小さく問いかけた。


「ん? 何が?♪」


 蓮次はわざとらしく首を傾げた。


「とぼけるな。お前、俺たちが誰なのかわかってるんだろ」


「もちろん♪ 赤髪の蓮ちゃんに、筋肉自慢の祐希くん、それから可愛い咲ちゃん♪ 忘れるわけないじゃん♪」


 蓮次は三人の顔を順番に眺めた。


 その視線が咲に向いた瞬間、彼女の表情がわずかに変わった。


 咲は蓮次の腕に触れようと、そっと手を伸ばす。


 記憶を操作するつもりだった。


 この男の記憶さえ書き換えられれば、ここから逃げ出せるかもしれない。


 しかし――。


「おっと♪」


 蓮次の身体が、瞬時に反応した。


 伸ばされた咲の手首をつかみ、引き寄せる。その勢いを利用して彼女の体勢を崩すと、流れるような動きで背後へ回り込んだ。


「っ……!」


 咲が抵抗する間もなく、腕を取られ、身動きを封じられる。


 まるで、相手の動きを最初から知っていたかのような速さだった。


「咲!」


 祐希が即座に飛び出した。


 鍛え上げられた身体から繰り出される一撃。


 だが、蓮次は正面から受け止めようともしなかった。


 攻撃の軌道をわずかに外し、祐希の腕をつかむ。そのまま身体を密着させ、祐希の力と勢いを利用して体勢を崩した。


「なっ……!」


 次の瞬間、祐希の身体が床へと引き倒されていた。


 蓮次は間髪入れずに背後を取り、腕を押さえ込む。


 力任せの喧嘩とは違う。


 相手の力を利用し、急所を押さえ、最小限の動きで抵抗を奪う。


 軍隊仕込みを思わせる、洗練された近接格闘術だった。


「……お前、何なんだよ!」


 祐希が歯を食いしばる。


「えー? ただの遊び好きな自衛官だよ♪」


 蓮次は楽しそうに笑った。


 咲は拘束されたまま、何とか蓮次の腕に触れようとする。


 だが、蓮次は彼女の動きを察知すると、さらに腕を押さえ、指先すら自由に動かせないようにした。


「残念♪ 能力を使いたいなら、まず僕に触らなきゃね?」


 その言葉に、咲の表情が凍りついた。


 能力の条件を知られている。


 それだけではない。


 この男は、咲が何をしようとしているのか、最初から見抜いていたのだ。


「おい、二人を離せ!」


 蓮が動こうとした瞬間、蓮次は祐希を押さえたまま顔を上げた。


「焦らない、焦らない♪ 順番ってものがあるでしょ?」


 笑顔は崩れない。


 その余裕が、蓮には何よりも恐ろしかった。


 蓮次は二人を立たせると、廊下の奥へと歩き始めた。


「ちょっと二人には、そこで待っててもらおうかな♪」


「蓮先輩!」


 咲が叫ぶ。


「蓮! お前、何をするつもりだ!」


 祐希も抵抗したが、蓮次の力は尋常ではなかった。


 蓮は二人を追おうとした。


 その瞬間、蓮次が振り返る。


「蓮ちゃんは、こっち♪」


 笑顔のまま、蓮次は蓮の腕をつかんだ。


 その手を振りほどこうとしたが、まるで鉄の輪に捕まったかのように動かない。


「くそっ……離せ!」


「やだ♪」


 蓮次は即答した。


「せっかく会えたんだもん。一人くらい、僕と遊んでくれなきゃ寂しいじゃん♪」


 蓮次は二人を連れたまま、廊下の脇にある重い扉を開けた。


 その先には、薄暗い倉庫が広がっていた。


 壁際には無数の木箱や金属製の棚が並び、天井の照明は半分ほどしか点灯していない。


 奥には、外から中が見えない小さな部屋があった。


「はい、到着♪」


 蓮次は二人をその部屋へ押し込んだ。


「おい! 待て!」


 祐希が扉に手を伸ばす。


 だが、蓮次は容赦なく扉を閉めた。


 直後、外から鍵をかける音が響いた。


「蓮先輩! 祐希先輩!」


 咲の声が扉越しに聞こえる。


 蓮は歯を食いしばった。


「蓮次! 二人を出せ!」


 蓮次は返事をせず、扉の前に立ったまま、しばらく耳を澄ませていた。


 中からは、祐希が扉を叩く音が聞こえてくる。


「おい! 開けろ! 蓮をどこへ連れていく気だ!」


「うるさいなぁ♪」


 蓮次は楽しげに笑った。


「君たち、あんまり面白くない♪」


 そして、ゆっくりと蓮へ顔を向ける。


「僕が遊びたいのは、蓮ちゃんなんだよね♪」


 その笑顔を見た瞬間、蓮の背筋に悪寒が走った。


 こいつは、最初から自分たちを助けるつもりなどなかった。


 正樹の前で何食わぬ顔をしていたのも、三人を拘束する機会をうかがっていたからなのか。


「……何をするつもりだ」


 蓮が睨みつける。


 蓮次は答えず、蓮の肩に腕を回した。


「まあまあ♪ そんな怖い顔しないでよ」


 そして、耳元で囁く。


「蓮ちゃん。一緒に遊ぼうよ♪」


 蓮次は、まるで友人を誘うかのように笑っていた。


 その目の奥には、底知れない狂気が潜んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。