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Myosotis 〜すべてを忘れるために〜  作者: こんにゃくミ(こんにゃイカ)


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一ノ瀬の告白

挿絵(By みてみん)

蓮は、封筒から一枚の紙を取り出した。


 紙には、文字が綴られている。


 三人は、静かに読み始めた。


『私の祖先は、研究のために多くの人間を殺しました』


『不老不死という、人の命を超える研究のために』


『戦争が終わった後、祖先は自らの罪を償うため、亡くなった人々が眠る墓の近くに教会を建てたそうです』


『しかし、どれだけ祈りを捧げても、奪った命が戻ることはありません』


『そして、私自身も国の命令によって、不老不死の研究を続けざるを得ませんでした』


 蓮の表情が険しくなる。


『現代では、戦時中のように人間を公然と研究材料にすることはできません』


『戦時中は、戦死や餓死など、人が亡くなることも珍しくなかった』


『しかし、今の時代に同じことをすれば、すぐに問題になる』


『だから現在では、余命宣告を受けた人間に薬を投与し、治療薬として扱いながら研究を行っていました』


『私は、この研究は成功してはならないものだと認識していました』


『だから、国の指示に従っているふりをしながら、研究が進まないように仕向けていました』


『薬を投与した者が亡くなれば、失敗したと報告する』


『それを繰り返してきました』


『私にできる、唯一の抵抗でした』


 蓮は、ゆっくりとページをめくった。


 そこから先の文字は、少し震えていた。


『しかし、もう私も長くはないでしょう』


『多分、私はこれから拷問を受けることになる』


『それでも、この事実だけは決して答えるつもりはありません』


『そして――』


『悟くんを殺したのは、私です』


「……!」


 蓮の手が止まった。


 隣にいた祐希も、息を呑む。


『悟くんは、教会と繋がる研究室を見つけてしまいました』


『そして、そこで正樹さんと私が、人間に薬を投与しているところを目撃してしまった』


『悟は、見てはいけないものを見てしまったのです』


『その後、私は悟を殺すように命じられました』


『私は悟の家に侵入し、悟に薬を投与しました』


『そして、悟を殺害しました』


 蓮の手が震える。


「……先生が、悟を……」


 祐希は拳を握りしめていた。


 だが、書記には続きがある。


『しかし、その後――』


『鷹宮咲くんが癌の診断を受けました』


『私は彼女に内緒で治療薬として、例の薬を投与しました』


『すると、彼女は死ななかった。そう薬に適合してしまった』


 咲が目を見開いた。


『私は、この事実を隠蔽しました』


『咲には、治療によって癌が完治したと伝えました』


『そして国には、これまで通り失敗が続いていると報告しました』


『ですが、どうしても辻褄が合わなくなってきた』


『国から私に渡されている薬は六個』


『この島で薬を投与され、死亡した人数は五人』


『一つ、薬が余っている』


『国はそのことに気づき、私を追及し始めています』


 咲は、自分の手を見つめた。


 今まで自分の中にあった記憶が、少しずつ形を変えていく。


 癌が治った。


 そう思っていた。


 だが、その裏には――


 この薬があった。


『多分、私はこれから拷問を受けることになるでしょう』


『それでも、この事実を答える気はありません』


『このまま、私は殺されるでしょう』


 そこで一度、文章が途切れていた。


 そして、再び文字が続いていた。


『私は、父から祖先が残した一枚の写真を見せられました』


『そこに写っていたのは、三人の男女でした』


『一ノ瀬学』


『不死川洋文』


『常盤千代』


 蓮の目が見開かれる。


「……洋文さんと、千代さん」


 咲も写真を想像するように目を伏せた。


『私は、その写真に写る一人の女性から目を離すことができませんでした』


『常盤千代の顔が、現在の田中千鶴さんと瓜二つだったからです』


 三人の間に、沈黙が落ちた。


『私は、何故か千鶴さんにこの書記を託す事が正しいそう思いました。そして蓮くん、君にこの書記を届ける事が自分の使命だとそう思いました。』


『最後に、どうしても伝えておきたいことがあります』


『悟くんのことは……本当にすまなかった』


 蓮の喉が詰まった。


『私は、悟くんを殺した』


『言い訳をするつもりはありません』


『それでも、あのときの私には、そうするしかなかった』


『あの葬式の日、私は君が悟の目を見ているのを見ました』


『あの目を見れば、君たちは必ず何かがおかしいと気づく』


『だから私は、君たちをこの件に関わらせないようにしたかった』


『教会に来た君たちを止めたのも、そのためです』


『君たちを守りたかった』


 蓮の目に、涙が浮かんだ。


『しかし、私の思いとは反対に、君たちは教会へ向かった』


『そして、そこで何かを見つけてしまった。多分君たちは止まらないんだろうね。』


『私は、この真実を残すことで君たちの力になれたらと思う、それが最後の償いだと思う』


『許してくれとは言わないどうか、無事に生き延びてくれ』


 そこで、記録は終わっていた。


 蓮は、しばらく紙を見つめていた。


「……先生……」


 その声は、かすれていた。


 祐希も何も言えなかった。


 悟を殺した。


 それは変わらない。


 だが、一ノ瀬は最後まで、蓮たちを守ろうとしていた。


 そのために、自ら罪を背負った。


 そして――


 正樹は、今も三人を追っている。


 葬式の日。


 悟の目が紫色になった瞬間。


 それを正樹も見ていた。


 そして三人が教会へ向かったことで、正樹は確信した。


 ――こいつらは、何かを知っている。


 だから追っている。


 蓮は記録を強く握りしめた。


「……先生は、俺たちを守ろうとしてた」


「ああ」


 祐希が頷く。


「でも、親父は違う」


 咲が、静かに口を開いた。


「研究室と地下牢を見てしまった私たちを生かしておくわけないですよね...」


 三人は顔を見合わせた。


 もう、逃げるだけでは終わらない。


 悟の死。


 教会。


 不老不死の研究。


 すべての真実が、一本の線で繋がり始めていた。


 蓮が立ち上がった。


「研究を俺たちの手で止めよう」


 悟を殺した人物。


 咲に薬を投与した人物。


 そして今――


 その本人は、正樹によって地下施設に拘束されている。

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