不死川という家名
蓮は、この記録に書かれている内容が一瞬にして頭に入った。
まるで自分の記憶かと思えるほどに。
蓮は、そのまま咲に書記を渡した。
「俺はもういい。」
咲と祐希は不思議そうにしていたが、蓮に聞こえるように書記を読み始める。
咲が呟く。
「……一ノ瀬先生の祖先が……」
書記に記されていた名前。
――一ノ瀬学。
現在の一ノ瀬透と同じ姓。
偶然とは思えなかった。
祐希も難しい顔をしている。
「じゃあ、あの医者の家は……ずっと昔から、この研究に関わってたってことか」
「……たぶん」
そして書記の中には、蓮に関わる名前があった。
――不死川。富士川へ。
祐希の声が震える。
「本当はお前の性は、富士川じゃ……ないじゃないか?」
祐希が蓮を見る。
「ここ……不死川蓮蔵って書いてあるよな。」
そこには、洋文と千代が二人の子供を別々の家へ託したことが記されていた。
常盤千鶴は、田中家へ。
そして――。
不死川蓮蔵は、富士川家へ。
「……蓮蔵」
蓮が小さく呟く。
「富士川家に引き取られて……富士川蓮蔵として育てられたんだ」
つまり。
不死川という血筋が消えたわけではない。
不死川蓮蔵が、富士川家の人間として生きることになった。
そして、その子孫が――。
「……俺」
蓮は、自分の胸に手を当てた。
「俺は……不死川蓮蔵の子孫なんだ」
祐希は言葉を失っていた。
咲も、ただ蓮を見つめている。
今まで自分が名乗ってきた「富士川」という姓。
その始まりに、こんな秘密が隠されていた。
「だから……あの鍵も」
蓮が呟く。
洋文は、書記を入れた箱を開けるための鍵を富士川家へ送った。
それは偶然ではなかった。
自分の子供を託した家。
不死川の血を受け継ぐ者が生きている家。
その家に、箱を開けるための鍵を残したのだ。
「……最初から、俺に繋がってたんだ」
蓮は書記を閉じた。
しかし――。
新たな疑問が生まれた。
「……千鶴さんは?」
咲と祐希が蓮を見る。
「この書記に書かれていることが本当なら……」
蓮はゆっくり顔を上げた。
「千鶴さんって……一体、何年生きてるんだ?」
書記に記された、百年以上前の出来事。
そこには、常盤千鶴という名前が残されていた。
そして田中家へ。
自分を育ててくれた千鶴。
蓮が子供の頃から、彼女はほとんど姿を変えていない。
いや――。
この書記が記された時代から考えれば。
「……まさか」
蓮の顔から血の気が引いていく。
「千鶴さんは……」
その先の言葉を、誰も口にできなかった。
咲は黙っていた。
祐希も答えられない。
ただ、三人の頭の中に同じ疑問が浮かんでいた。
――田中千鶴は、一体何歳なのか。
そして。
なぜ彼女は――。
百年以上前のこの記録に、名前を残しているのか。
蓮は、閉じた書記に手を置いた。
新たな謎が、三人の前に立ちはだかっていた。




