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Myosotis 〜すべてを忘れるために〜  作者: こんにゃくミ


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24/47

白い地下室

教会の中は、外から見ていた以上に広かった。


蓮と祐希は、慎重に足を進めていた。


床板を踏むたび、古い木材が小さく軋む。


礼拝堂へ続く廊下。


使われていない部屋。


崩れかけた壁。


どこを見ても、長い年月を経た建物にしか見えない。


――だが。


「……やっぱり、おかしいな」


祐希が足を止めた。


「何がですか?」


「ここだよ」


祐希が指差したのは、廊下の床だった。


周囲には薄く埃が積もっている。


なのに、そこだけ埃が途切れていた。


まるで、最近誰かが歩いたように。


「誰か……ここを使ってるんでしょうか」


「かもしれねぇな」


蓮は周囲を見回した。


教会は静まり返っている。


それなのに、誰かがここにいたような痕跡だけが残っている。


二人は警戒しながら、さらに奥へ進んだ。


やがて、礼拝堂に出る。


長い木製の長椅子が並び、正面には古びた祭壇。


その手前に、教壇があった。


蓮は、悟の家で見つけた図面を思い出した。


「……ここだ」


図面に描かれていた礼拝堂と、目の前の景色を見比べる。


「ほとんど同じだな」


祐希が呟いた。


「でも……」


蓮は教壇へ近づいた。


何かがおかしい。


教壇の周囲だけ、床の埃が少ない。


そして――


床板の一枚だけが、周囲とわずかに高さが違っていた。


「……これ」


蓮がしゃがみ込む。


指先で床板の端をなぞった。


「動くかもしれません」


「俺がやる」


祐希がすぐに手を伸ばした。


「祐希先輩、気をつけてください」


「任せろ」


祐希が力を込める。


ギッ……。


古い木材が嫌な音を立てた。


そして――


床板が、わずかに浮いた。


「……蓮」


「はい」


二人が覗き込む。


そこには、暗闇へと続く階段があった。


「地下……か」


蓮は息を呑んだ。


教会の下に、こんな場所がある。


そんな話は、誰からも聞いたことがなかった。


二人は顔を見合わせた。


「行きますか?」


「ここまで来たんだ。行くしかねぇだろ」


祐希が先に階段へ足をかけた。


蓮もその後に続く。


階段は思ったより長かった。


下へ進むほど、空気が冷たくなる。


やがて、階段の先に扉が見えた。


祐希がゆっくりと扉を押す。


ギィィィ……。


その先に広がっていたのは――


真っ白な部屋だった。


壁も。


床も。


天井も。


すべてが白い。


古びた教会の地下にあるとは思えないほど、異質な空間だった。


「……何だよ、ここ」


祐希の声が低くなる。


部屋の中には、いくつもの透明なケースが並んでいた。


そして、その中には――


動物の死骸が入っていた。

兎。


犬。


猫。


鳥。


見たことのない動物までいる。


だが、蓮が最も恐怖を感じたのは、その死骸ではなかった。


「……目……」


すべての動物の目が、


紫色に変色していた。


ケースの横には、それぞれ日付が書かれている。


そして、その下には同じ言葉が記されていた。


――失敗。


――失敗。


――失敗。


「……これ、全部……実験だったのか?」


蓮の声が掠れる。


誰が。


何のために。


ここで何をしていたのか。


その答えは、どこにも書かれていなかった。


ただ、紫色に変色した目だけが、二人を見つめているように見えた。


「……蓮」


祐希が奥を指差した。


白い廊下が、さらに先へ続いている。


「まだ奥があるぞ」


蓮は頷いた。


二人は警戒しながら、さらに進んだ。


その先に、また一つ部屋があった。


扉は開いている。


蓮が中を覗き込む。


「……人がいる」


だが――


それは生きている人間ではなかった。


床に、人間の死体が横たわっている。


服装。


顔。


どこかで見たことがある。


「……こいつ」


祐希が眉をひそめる。


「俺たち……こいつ、どこかで見たことねぇか?」


蓮も死体の顔をじっと見つめた。


確かに、見覚えがある気がする。


だが、どこで見たのかは思い出せない。


「……誰だ?」


蓮が呟いた。


そのとき、死体の手首に目が止まった。


両手首には、赤黒く変色した痕が残っている。


まるで――


長い間、手錠で拘束されていたような痕だった。


「……手錠の跡?」


祐希が低く呟く。


二人は顔を見合わせた。


この男が何者なのか。


なぜ、こんな場所で死んでいるのか。


何も分からない。


ただ、その手首に残された痕だけが、この男がここへ来る前に何者かに拘束されていたことを物語っていた。


そして、その先にもまだ道が続いていた。


「……蓮」


祐希が低い声で言う。


「行くのか?」


蓮は答えなかった。


怖い。


ここから先に何があるのか。


それを考えるだけで、足が震える。


それでも――


二人は先へ進んだ。


白い廊下の先。


一つの部屋があった。


扉は半開きになっている。


蓮がゆっくりと手を伸ばす。


ギィ……。


扉が開く。


その瞬間。


蓮の呼吸が止まった。


部屋の中央に、一人の男が座っていた。


俯いている。


動かない。


「……誰だ?」


祐希が呟く。


蓮が一歩、近づく。


そして――


その顔が見えた。


「……嘘だろ」


見間違えるはずがない。


何度も見てきた顔。


子供の頃から、一緒に笑って。


一緒に遊んで。


そして――


もう二度と会えないはずだった。


「……悟……?」


椅子に座っていたのは、


死んだはずの竹中悟だった。

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― 新着の感想 ―
えっ、悟、生きてたんですね。 良かったような、怖いような、、 続きが気になります
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