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Myosotis 〜すべてを忘れるために〜  作者: こんにゃくミ


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再び教会へ

そして――


資料室の前で、足音が止まった。


「……誰か来る」


祐希が小声で言った。


蓮は慌てて資料を閉じた。


二人は棚の陰へ身を隠す。


足音が、少しずつ近づいてくる。


そして――


ガチャッ。


資料室の扉が開いた。


「……あれ?」


聞き覚えのない女性の声。


蓮と祐希は息を潜めた。


足音の主は、資料室の中へ入ってくる。


白衣ではない。


病院の制服を着た、若い女性だった。


「……誰だ?」


祐希が小声で呟く。


女性は棚の前まで歩いていき、何かを探している。


「あった……」


手に取ったのは、小さなファイルだった。


「よかった。ここに置きっぱなしだったんだ」


どうやら、何かを取りに来ただけらしい。


女性はそのまま資料室を出ていこうとした。


その時――


「……ん?」


女性が足を止めた。


蓮の心臓が跳ねる。


「誰かいるのかな?」


二人は身を固くする。


だが、女性はすぐに首を傾げた。


「気のせいか……」


そう呟くと、そのまま部屋を出ていった。


廊下から足音が遠ざかっていく。


しばらくして。


「……行ったな」


祐希が小さく息を吐いた。


「はい……」


蓮もようやく肩の力を抜いた。


「たぶん、病院の看護師ですよ」


「休診日なのに来るんだな」


「忘れ物を取りに来たんでしょうね」


蓮は、先ほどまで見ていた資料を振り返った。


本当なら、もっと調べたかった。


悟が何を調べていたのか。


一ノ瀬が何を知っているのか。


そして、この病院に残された資料が何を意味するのか。


だが、今はもう長居できない。


「……もう出ましょう」


「だな」


二人は資料を元の場所へ戻した。


そして、看護師に見つからないように資料室を出る。


廊下を進み、階段を下りる。


受付の近くまで戻ったところで、二人は一度足を止めた。


誰もいない。


「今です」


「ああ」


二人は素早く病院の外へ出た。


扉が閉まる。


蓮は大きく息を吐いた。


「……危なかった」


「何も盗んでねえのに、なんか悪いことしてる気分だな」


「実際、勝手に資料室に入ってますからね」


「それもそうか」


二人は顔を見合わせた。


そして、蓮が口を開く。


「でも……」


「ん?」


「病院でこれ以上調べても、たぶん限界があります」


蓮は、病院の建物を見上げた。


「先生本人が話してくれない以上、資料だけじゃ分からないことが多すぎる」


「じゃあ、どうする?」


蓮は少し考えた。


頭の中に浮かんだのは、あの古い教会だった。


「……教会です。一ノ瀬先生は俺たちが教会に入るのを止めたがっていましたし。」


「やっぱりか」


祐希は苦笑した。


「結局、そこに戻るんだな」


「悟も、そこを調べていたんですよね。あの図面は間違いなくあそこの教会です。」


「だったら、悟が何を探していたのか……教会に行けば分かるかもしれません。」


祐希は腕を組んだ。


しばらく考えたあと、突然顔を上げる。


「よし」


「?」


「俺、家に戻って甲冑取ってくるわ」


「……はい?」


「教会行くんだろ?」


「行きますけど……」


「だったら、装備は必要だろ」


祐希は真顔だった。


「いや、必要ないです」


「でも、前にあれ着ていったら結構――」


「必要ないです」


蓮は即答した。


「普通に行きましょう」


「いやいや、教会だぞ? 何が出てくるか分からねえだろ。ゾンビとか出てくるかも。。」


「そんなまさか。必要ないですよ。」


「じゃあ、盾だけでも――」


「祐希先輩」


「……はい」


「甲冑は置いてきてください」


祐希は少し不満そうな顔をした。


「……分かったよ」


蓮は呆れながらも、少し笑った。


「ただ、さっきの資料を考えるとゾンビだったり、吸血鬼想像しちゃいますね.....」


二人は、顔を見合わせた。


「もしかして、吸血鬼の住処?研究に失敗してゾンビを閉じ込めてるとか?やっぱり、甲冑持ってこうぜ......」


「冗談ですよ、そんなの迷信です。先輩いいから行きますよ。」


「はい....」


祐希は渋々甲冑を諦めた。


蓮は笑っている。


少し重い空気が軽くなった。


そして、二人は歩き始める。


向かう先は――


あの古い教会。


悟が最後まで追い続けていた場所だった。


そして二人はまだ知らなかった。


その教会の中に、自分たちが探している答えだけではなく――


過去が眠っていることを。

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