切り取られた真実
悟の部屋に入った三人は、しばらく何も言わずに部屋を見回していた。
机。
本棚。
ベッド。
子どもの頃、何度も遊びに来た部屋。
けれど今は、悟がいないというだけで、まるで知らない場所のように感じる。
「……これだな」
祐希が机の上に置かれていた古いノートを手に取った。
表紙には何も書かれていない。
蓮が隣から覗き込む。
「開いてみましょう」
ページいっぱいに、細かな線が引かれている。
「……図面?」
蓮が呟いた。
そこには、建物の内部が描かれていた。
壁。
通路。
椅子が並んだ礼拝堂。
そして正面には――
『主祭壇』
と書かれている。
その周囲には、『控室』『礼拝堂』『倉庫』などの文字。
「……教会だ」
蓮はすぐに気づいた。
「この前の……あの教会」
祐希も図面を覗き込む。
「間違いなさそうだな」
蓮はページをめくった。
そこには、さらに細かな書き込みがあった。
教会の内部を何度も調べたような跡。
寸法。
部屋の位置。
通路の長さ。
そして、いくつかの場所には丸印まで付けられている。
「悟……こんなに調べてたのか」
蓮の声が低くなる。
ページをめくる。
しかし――
突然、図面が途切れた。
「……?」
紙の右半分が、なくなっている。
何ページも同じだった。
図面の途中から、紙そのものが引き裂かれている。
「これ……誰かが破ったんだな」
祐希が言った。
蓮は破れた部分を見る。
「……なんで半分だけ」
残された図面を見る限り、悟は教会の内部をかなり詳しく調べていた。
そして、ある場所へ向かうように図面の線が続いている。
だが――
その先だけが、ない。
「重要なところで切れてるな」
祐希が呟いた。
蓮は黙って頷いた。
「ここから先に、何かあったんだと思う」
咲は何も言わず、図面を見つめていた。
その表情からは、何を考えているのか分からない。
祐希が机の上を見回す。
「悟のスマホは?」
「スマホ?」
「ああ。写真とか検索履歴とか残ってるかもしれねえだろ」
祐希がスマホを探そうとした、その時だった。
「……やめましょう」
咲が口を挟んだ。
二人が振り返る。
「え?」
「スマホを見るのは……」
咲は少し間を置いた。
「プライベートまで覗くのは、よくないと思います」
祐希は納得していない様子だった。
「でもよ、悟が何を調べてたのか分かるかもしれねえぞ」
「それでも……」
咲はそれ以上、強く言わなかった。
「まずは、ここに残っているものだけで調べたほうがいいと思います」
蓮は少し考えてから頷いた。
「……そうだね」
「分かったよ」
祐希もスマホを探すのをやめた。
蓮は再びノートへ目を戻す。
残された図面。
その先には、確かに何かがあった。
だが、その部分だけが切り取られている。
「悟は……ここまで調べてたんだ」
蓮は呟いた。
「でも、どうして誰かが図面を?」
祐希が尋ねる。
「分からない」
蓮は首を横に振った。
「ただ、偶然破れたとは思えない」
三人は黙り込んだ。
悟が調べていた教会。
途中からなくなった図面。
そして、その図面を誰かが持ち去ったという事実。
蓮は、破れた紙の端を見つめた。
その横で、咲は静かに視線を落としていた。
誰にも気づかれないように。
自分の鞄へ手を添える。
その中には――
このノートから切り取られた紙が入っていた。
教会の、残された図面の続き。
悟が辿り着いた、重要な場所。
そして、その場所について書かれた記録。
咲はそれを知っていた。
悟が何を調べていたのかも。
どこまで真実に近づいていたのかも。
そして――
悟が、その先へ進めなかったことも。
しかし、それを蓮たちに話すつもりはなかった。
「……帰りましょうか」
咲が静かに言った。
「うん」
蓮が頷く。
三人は悟の部屋を後にした。
机の上には、半分になった図面だけが残された。




