鉄の要塞
集落の奥へ進むにつれて、家の数は少なくなっていった。
舗装されていた道も、いつの間にか細い道へと変わっている。
「……こっちで合ってるんですかね?」
咲が不安そうに周囲を見回した。
「足跡は続いてる」
蓮は地面を見ながら答えた。
昨夜の雨で濡れた土の上に、いくつもの足跡が残っている。
誰かが、ついさっきここを歩いたようだった。
「でも……」
咲が前方を見つめる。
「この先、何があるんでしょう?」
「分からない」
蓮はそう答えた。
そのときだった。
木々の隙間から、金属製の柵が見えた。
「……?」
二人は足を止めた。
柵はかなり高く、奥には広い敷地が広がっている。
さらに進むと、その正体がはっきりしてきた。
「……自衛隊?」
咲が呟いた。
柵の向こうには、大きな建物。
その建物の屋上にはアンテナが設置され、敷地内には複数の車両が停まっている。
そして、入口には――。
「防衛省 施設」
そう書かれた看板があった。
「こんなところに……?」
蓮は驚いた。
「私、ここに自衛隊の施設があるなんて知りませんでした」
「俺も知らない」
蓮は柵の向こうを見つめる。
子供の頃、この集落で暮らしていた。
それなのに――。
こんな場所の存在を、今まで一度も聞いたことがない。
「昔からあったのかな……」
「でも、蓮先輩が知らないってことは……」
「うん」
蓮は頷いた。
「最近できたか、意図的に知らされてなかったか」
咲が黙り込む。
そのとき。
柵の奥から、車のエンジン音が聞こえた。
「……誰か来ます」
二人は反射的に道の端へ身を寄せた。
一台の黒い車が、基地の敷地内をゆっくりと走っていく。
運転席の人物の顔までは見えない。
だが――。
後部座席の窓越しに、黒い服を着た人影が見えた。
「……!」
蓮の胸がざわつく。
「蓮先輩?」
「いや……なんでもない」
車はそのまま建物の奥へ消えていった。
蓮はしばらく動けなかった。
どこかで見たような気がする。
だが、思い出せない。
「……戻りましょうか?」
咲が小さく聞いた。
「うん」
蓮は頷いた。
二人は来た道を戻ろうとした。
そのとき――。
「……あれ?」
蓮が足を止めた。
「どうしました?」
「足跡が……」
二人が地面を見る。
さっきまで続いていた足跡が、基地の柵の前で途切れている。
まるで、そこから先は最初から存在しなかったかのように。
「……基地の中に入った?」
咲が呟く。
「分からない」
蓮は柵を見つめた。
教会。
不死川。
常盤。
悟の死。
消えた少女。
そして――この基地。
これまで別々だと思っていたものが、少しずつ一つの線になり始めている気がした。
「咲ちゃん」
「はい」
「今日はもう帰ろう」
「……はい」
二人は基地を後にした。
その姿を――。
基地の建物の二階から、一人の男が静かに見下ろしていた。
黒い服。
窓越しに二人の姿を追う。
男は無言のまま、手元の無線機を握った。
しかし――。
何も話さなかった。
ただ、二人が集落へ戻っていく姿を見届けていた。
そして、男の視線が蓮の首元へ向けられる。
そこには――。
古びた鍵の形をしたペンダントがあった。




