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友情相関図  作者: えんびあゆ


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13/38

第13話 「その二人は互いを友達だと思っていない」

瀬戸真琴。


文化祭の裏方。

昨日はほとんど喋らなかった男子。

未央にライトを運んだことを感謝されて、ほんの一瞬だけ顔を上げていた生徒。


教室の後ろで、瀬戸は固まっていた。

自分の名前が出たことに、すぐには反応できないようだった。

画面には詳細が表示される。


> 瀬戸真琴 → 橘未央

> 親切 21%

> 信頼 18%

> 好意 42%

> 依存 71%

> 執着 94%

> 友情値 94%


教室中の視線が、瀬戸に向かう。

瀬戸の顔がみるみる白くなる。


「……違う」


小さな声だった。

誰かが聞き返す。


「何が?」

「違う。俺は、未央さんを……そんな」


瀬戸の声はかすれていた。

黒川が立ち上がる。


「おい、瀬戸。お前、未央に何かしたのか」

「してない」

「執着九十四って出てんだぞ」

「知らない!」


瀬戸が初めて声を荒げた。

その声は、普段の彼からは想像できないほど鋭かった。


教室が静まる。

瀬戸自身も驚いたように口を閉じた。

理沙が慎重に言う。


「瀬戸くん。未央と、何かあった?」

「何もない」

「本当に?」

「未央さんは……」


瀬戸は言いかけて、止まった。

その止まり方が、不自然だった。

透真は立ち上がった。


「続けろ」


瀬戸が透真を見る。

その目には、怯えと敵意が混じっていた。


「雨宮には関係ない」

「未央が消えてる。関係ある」

「お前に何がわかるんだよ」

瀬戸の声が低くなる。


「未央さんに声かけられても、平気で無視できるようなやつに」


教室の空気がわずかに揺れた。

理沙が透真を見る。

凛も、少しだけ目を細めた。

透真は瀬戸を見たまま動かなかった。


「見てたのか」

「見てたよ」


瀬戸は言った。


「昨日だけじゃない。前から。未央さんが雨宮に話しかけても、雨宮はいつも嫌そうな顔してた。未央さんはそれでも普通に笑ってた」

瀬戸の声には、怒りがあった。


「なんでだよ」

「何が」

「なんで、そんなふうにできるんだよ」

瀬戸は拳を握りしめる。


「未央さんに優しくされて、なんでそんな顔できるんだよ」

その言葉で、透真は理解した。


瀬戸にとって、未央の優しさは特別なものだった。

だから、それを拒む透真が許せない。

自分が欲しくて仕方なかったものを、いらないものみたいに扱う人間が許せない。


「瀬戸くん」

理沙が言う。


「未央は、あなたに何をしたの」

「何もしてない」

瀬戸は即座に答える。


しかし、それは否定ではなく、むしろ肯定に近かった。


何もしていない。


未央にとっては、たぶん本当に何もしていないのだ。


ライトを運んだ礼を言った。

目が合ったときに笑った。

困っていそうなときに声をかけた。

それだけ。


未央にとっては、日常の一部。

だが、瀬戸にとっては違った。


「未央さんは、俺の名前を呼んだ」

瀬戸が言った。


「文化祭の準備で、誰も俺に直接頼まなかった。みんな、そこに置いといてとか、誰か運んでとか、そういう言い方だった。でも未央さんは、瀬戸くんって言った」

教室が静まり返る。


「それが嬉しかった?」

透真が聞く。


瀬戸は透真を睨む。


「悪いかよ」

「悪くはない」

「じゃあ何だよ」

「それを友情値九十四にしたのは、お前じゃなくて相関図だ」


瀬戸が黙る。

透真は続けた。


「でも、その数値が完全に嘘なら、お前はそんなに怒らない」

瀬戸の顔が歪む。


「違う」

「何が違う」

「俺は未央さんを困らせたいわけじゃない」

「誰もまだそうは言ってない」


瀬戸は言葉を詰まらせた。


失言。


黒川がすぐに反応する。


「お前、やっぱり未央に何かしたんじゃないのか」

「してない!」

「じゃあなんで困らせたいわけじゃないなんて言うんだよ」

「それは……」


瀬戸は後ずさった。

理沙が机に手をついて立ち上がる。


「瀬戸くん。未央の居場所について、何か知ってる?」

「知らない」

「本当に?」

「知らない!」


叫びに近かった。

しかし、透真には瀬戸が嘘をついているようには見えなかった。

少なくとも、未央の現在地については知らない。

ただし、未央に対する感情を隠していた。

それが相関図によって暴かれた。


「第四問は、友情値が最も高い二人を答えよ、だ」


葛西が言った。

葛西はまだ顔色が悪いが、委員長として場を整理しようとしている。


「瀬戸から未央への友情値が一位なら、答えは瀬戸と未央でいいのか?」

「ただし、その二人は互いを友達だと思っていない」


羽田が文面を読み上げる。


「未央ちゃんは瀬戸くんを友達だと思ってた?」

その問いに、瀬戸が息を呑んだ。


誰も答えない。

答えられない。


未央は、瀬戸をクラスメイトとして見ていた。

親切にする相手として見ていた。

困っていたら声をかける相手として見ていた。


だが、友達かと聞かれると――おそらく違う。


瀬戸自身も、それをどこかでわかっている。

だからこそ、傷ついている。


「未央さんは……」

瀬戸が小さく言った。

「未央さんは、誰にでも優しいから」

その言葉は、昨日から何度も出てきた。


誰にでも優しい。


褒め言葉のはずだった。

けれど今は、呪いみたいに聞こえる。


「送るしかない」

葛西が言った。


「時間は?」

羽田が確認する。


第四問の制限時間は、一時間。


> 00:18:06


すでにかなり減っていた。

理沙は瀬戸を見る。


「いい?」

瀬戸は答えない。

「あなたを犯人だと決めつけるわけじゃない。でも、この問題の答えはたぶん……」

「送ればいいだろ」

瀬戸は吐き捨てるように言った。


「どうせそうなんだろ。未央さんにとって、俺なんてただのクラスメイトで。俺が勝手に大事にしてただけなんだろ」

「瀬戸くん」

「送れよ!」


瀬戸の声が教室に響く。

理沙は唇を噛み、回答欄に文字を打った。


> 瀬戸真琴、橘未央


送信。


数秒の沈黙。


画面が黒くなる。


> 正解。


誰も喜ばなかった。

瀬戸は俯いたまま、両手を握りしめている。

続けて、メッセージが表示された。


> 友情値とは、友情の美しさを示すものではない。

> その人が、どれだけ相手に縛られているかを示すものだ。


教室の全員が、その言葉を見る。

さらに相関図が更新される。


> 第五問は、正午に提示する。

> それまでに、橘未央が最後に誰を守ろうとしていたのか考えなさい。


正午。


また時間が区切られた。

カウントダウンは進み続ける。


> 残り時間

> 59:52:48


未央はまだ見つからない。


第四問には正解した。

けれど、また新しい線が露わになっただけだった。


瀬戸真琴から橘未央へ。


> 執着 94%


透真は瀬戸を見た。

瀬戸は椅子に座ったまま、机の一点を見つめている。


彼は犯人かもしれない。

犯人ではないかもしれない。


だが一つだけ確かなことがある。


未央の優しさは、また誰かを縛っていた。


「雨宮くん」

理沙が低く呼んだ。

透真は彼女を見る。


「次は、未央が守ろうとしていた人」

「そうだな」

「芽衣さんじゃないの?」

「違うだろうな」

「どうして」

「芽衣はもういない。未央が今、守ろうとしている相手が別にいる」


理沙の顔が強張る。


「誰?」


透真はすぐには答えなかった。

教室を見渡す。


凛。

理沙。

瀬戸。

咲良。

葛西。

羽田。

黒川。


未央が最後に守ろうとしていた人物。

それを知るには、未央がなぜ自分から消えたのかを考えなければならない。


昨日まで透真は、未央が被害者だと思っていた。

少なくとも、そういう形でゲームは始まった。


だが、問題が進むほど、別の可能性が浮かぶ。


未央は、ただ連れ去られたのではない。

自分の意思でどこかへ向かった。


誰かに謝るために。

誰かを守るために。


ならば未央は、このゲームの外側にいたわけではない。

透真は静かに言った。


「未央自身に聞くしかない」

「聞けないから困ってるの」

「なら、聞けるものを探す」

「何を」

「未央が残したもの」


その時だった。

理沙のスマホが震えた。


個別通知。


理沙は画面を見る。

目を見開く。


「未央……?」

教室中が反応した。


理沙のスマホに、音声ファイルが届いていた。

差出人は、橘未央のアカウント。


再生時間は、十二秒。

理沙の指が震える。

透真が言った。


「再生しろ」


理沙は唇を噛み、再生ボタンを押した。


雑音。

かすかな息遣い。

そして、未央の声。


『ごめん、理沙』


教室の時間が止まった。


『私、やっぱり……あの子を一人にしたくない』


音声はそこで途切れた。

たった十二秒。

しかし、その中に新しい謎が落とされた。

あの子。


未央が守ろうとしていた相手。


相沢芽衣ではない。

今、生きている誰か。


理沙はスマホを握りしめたまま、震えていた。


「未央……」

瀬戸が顔を上げる。


凛が窓際で目を細める。

透真は、音声の最後に混じっていた小さな音を思い出していた。

金属が擦れるような音。


扉か。

鍵か。

倉庫か。


未央は、どこか閉じられた場所にいる。

そして、誰かを一人にしたくないと言った。

教室の中で、友情相関図がまた静かに更新された。

未央の名前から、空白へ向かって一本の薄い線が伸びる。


> 橘未央 → ???

> 保護 87%


透真はその線を見つめた。


ここからが正念場だ。

過去の相沢芽衣ではなく、今この教室にいる誰か。

未央が最後に守ろうとしている人物を探さなければならない。

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