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2話 魔女の森の住人と

異世界行ったって異世界に根を張らない系現代っ子主人公。

神絵師は絵を描く息抜きに、また別の絵を描くって聞いたので。


 俺、立木たつき じゅんは実家暮らしのしがないイラストレーターだ。

 といっても独学かつフリーランスなので実家住みでもなければとっくに筆を折っていただろう。ありがたいことに家族に理解があり、そのおかげか少しずつイラスト依頼も増えてきて何とか絵一本で生計をたてられるようになった。

 そんなある日、最近よくリピートしてくれる依頼者さんから一通のダイレクトメールが届いた。

「期間未定、専属絵師として住み込みで働いてください。先生の絵柄が大好きです。もちろん報酬は弾みます。…いや、さすがに胡散臭すぎないか?いったんナシだな…」

 怪しすぎて、一周回って真剣依頼かもと思う内容。

 とはいえ普通にいろいろ怖いのでお断りをしようとキーボードに向かった時、なんだか焦ったような声がして…。


 気が付いたら、俺は荒野に立っていた。




 ティロン。

 軽快な通知音が鳴って、ポイントが追加されましたと画面に表示される。

「お。よっしゃ。これで久々にステーキ食えるな。てかポイントめっちゃ高っ!…やっぱ神様、ローアングル好きだな~」

 机に向かっていた手を止め、ペンを置く。BGMに垂れ流していたアニメを止め、端に置いていたタブレットを手に立ちあがりキッチンへ。

 ジャージの袖をまくり上げ冷蔵庫を開けば、ついさっきタブレットで注文したばかりの食材がずらり。迷わずその中から肉のパックを取り出す。

「っぱ肉なんだよな~」

 フライパンを取り出し火をつける。ひいた油が温まる間に調味料を準備。今日はシンプルに塩コショウだけ。

「ふんふ~ん」

 ジュウジュウと肉の焼ける音。

 いい匂いにテンションが上がる。

「好きな絵を好きなだけ描けて、しかもこんな快適に過ごせるなんて…神様さまさまだな!」

 焼けた肉をプレートにのせ、朝多めに炊いておいたご飯をよそって席に着く。

「いっただっきまーす!…うまっ!」

 かぶりついた肉のうまみに舌鼓を打ちながら、ふと窓の外を見る。

 うっそうと茂る木々。人気がないどころか生き物の気配もない。

「魔女の森、か」




 ここでいったん時を少し戻そう。

 怪しい依頼メールをお断りしようとしたら荒野に飛ばされるという理不尽かつ不可思議な現象に襲われた俺。

 何回目をパチパチ瞬いても頬を抓ってみても景色は変わらず。

「え、ええ~…」

 寝起きで髪はぼさぼさ、寝巻兼部屋着のジャージに裸足。手には息抜きの落書き用タブレット。その他の持ち物…何もなし。

「詰んだわ、俺」

 まさかこんな異世界転移トラップが実在するとは…。

 見渡す限りの荒野に呆然としながら呟く。言葉にすると猶更今のこのどうしようもない状況が身に染みて泣きそうになる。

「は、はは…」

 どうすんだよ、これ。


 途方に暮れ、しゃがみこんだ時。

 設定した覚えもない軽快な通知音が手元のタブレットから聞こえてきた。

「?…なんだ、これ」

 通知を示す見知らぬアプリのアイコン。

 黄色に白抜きの文字で「神」とだけ書かれたそのアイコンをタップしてみれば、なんだかとても見覚えのあるメッセージアプリが立ち上がる。

「…」

 はじめて触る気がしないそのメッセージアプリにすいすい手を動かす。

 不思議だなー。知らないアプリだし初めて触るのになー。

 なんて。

「うわ」

 1分もしないうちにこちらがメッセージに気づいたことに気づいた相手、「神」から怒涛のように言い訳が送られてきた。

「はあ、なになに…」


 自分はこの世界を管理する神。

 ふとしたきっかけで地球あっちの神と知り合いになり、世界の管理方法などを学ぶうちに二次元にハマった。そのうちにイラストなども見るようになり、自分でも依頼するようになった。

 絵が好みすぎて何度も繰り返し依頼しているうちに、もっといっぱい見たい。依頼も依頼じゃない絵も独占したいと思うように。

 そうだ、自分の管理する世界こっちに呼んで、対価となる報酬を払って描いてもらおう!

 さっそく依頼メールを送ったものの、まさかの文面が怪しすぎて断られそうになったので焦って引き込んでしまった。

 お詫びに望めばいつでも帰れる権利を渡すので、どうかしばらく付き合って欲しい。

 ちなみに、描いた絵をアプリで送信してもらえれば都度ポイントを付与。付与されたポイントはギフト購入に使用でき、食料品から消耗品、娯楽までなんでも対応。

 たまに依頼もしたいので、依頼絵の際はコインを付与。コイン専用ギフトには家やパソコン、ネットなどの高額かつ地球あっちと繋がった特別なものを提供。


「もちろん最初は急に連れてきたお詫びとしてポイントとコインをある程度つけてます…」

 なるほどな。

 それならいっか。

「ってなるかッ!!!俺は帰る!」

 吠えればすかさず通知。

『どうかお願いします…!ちなみに世界間移動には最低でも半年ほどかかります』

「…いや、じゃあそれ選択肢ないも同然だろ…」

 はあ。

 仕方ないかとため息を吐く。

「じゃあとりあえずここから移動しないと。どっか街とか…」

 ティロン。

『ありがとうございます!ちなみに移動大変だと思うのであと少ししたらちょうど街までの馬車が通りかかるようにしますね』

 …。

「どうもありがとうございます、と」

『いえいえとんでもない!あ、なので服装とか持ち物だけ変えましょう。最初なので旅人セットをお勧めします』

 メッセージ一覧の横、ギフトタブに移動すれば、トップに「これがおすすめ!旅人セット」の文字。

 どうやら一般的な服装一式とリュックがセットになっている。リュックの中には水と食料、少量のお金が入っているようだ。

 5000ポイントという多いんだか少ないんだか分からないポイントのうち50ポイントを使って購入。目の前に現れた荷物を解いて着替える。


 手配通り、通りがかった街行きの乗合馬車に乗って街へ。

 事情を聞かれて少し焦ったものの、見聞を広めるべく旅を始めたと言えばそれほど疑われもしなかった。

「じゃあ、これで」

「はい。ありがとうございました」

 馬車の主人に礼を言って別れる。

 さて、旅人ならまず街で一番大きな建物へ行けって言っていたけど…。

「お、あれだな」


 流石に剣と魔法のファンタジーとまではいかないようで、謎の建物はよくある冒険者ギルドなどではなくお役所だった。

「では、こちらにしばらく滞在されるとのことですね。お名前は…ジュンさん、ですか」

「はい」

「ではこちらに滞在中の身元証明書代をお納めください」

「はい」

「はい、たしかに。では、こちらの証を必ずお持ちください。また旅に出られる際、こちらで回収いたしますので」

「はい。ありがとうございました」

「いえ。よい旅を」

「ありがとうございます」

 役所を出れば、次は寝床。しばらくの滞在先を確保しなくては。

 紹介してもらった料理屋と民家の中間のような建物に行き、証を見せ代金を先払いすれば難なく宿を借りることが出来た。

「さて、この世界の把握…よりもまず最初に」

 あてがわれた部屋のベッドに腰かける。

 机や椅子なんて上等なものはないから、まずはそこからだな。



 それから数週間が経った。

 旅の絵描きであることを伝え、掃除も自分でするので部屋には極力立ち入らないようにしてほしいとはじめにお願いしたおかげで、部屋の中が時代どころか世界感すら異なる内装になっているのはバレていない。

 今日も今日とて好きに寝て起き、好きに描く。

「よし、完成。神に送信して、っと」

 充電のなくならないタブレットはかなり便利だ。

 出来上がったイラストをファン兼クライアント…というかスポンサー?に送ってポイントをもらう。今回の絵は1200ポイントか。

 正直、愛用のパソコンと液タブも欲しいがそうなるともう借宿ではなくちゃんとした拠点が欲しいのでもう少し我慢しようと決めている。

 ぐう、と鳴ったお腹。そろそろお昼時か。

 ご飯でもと宿から階下の食堂に降りようとしたとき、ふと聞こえてきた話し声。


「上の階の、たしか絵描きだっけ?どうなんだい、様子は」

「ああ、いい子だよ。ほとんど部屋に籠って描いているみたいだけどね、たまに見かけても愛想はいいし」

「へえ。そりゃあ良かった」

「ただねえ」

「うん?」

「部屋から滅多に出ずに描いてる割には絵の具だの紙だのを持っているそぶりもなくってねえ。ほら、画材っていうの?必要だろう」

「ああ、必要だろうね。なんだい?じゃあ、絵描きってのは嘘だって?」

「それがそうでもなさそうなんだよ。試しにちょっと描いてもらったら描きなれているようだったし上手さ。でも、それだけ」

「宿賃は払えてるんだろう?どこかのパトロンにでも持ってってるんじゃ」

「そうかねえ」

「悪い子じゃあないんだろう?いいじゃないか」

「そうだねえ」


 思わず部屋に戻ってベッドに突っ伏す。

「ああ~。そうだよなあ~!バカか俺は~!?!」

 ばっと跳び上がり、部屋を見回す。

 そう広くもない1室。白いデスクにゲーミングチェア、スタンドライトにタブレット。小型冷蔵庫に缶ジュース。

「…いったんやばいか、これ」

 神アプリの所持品タブを開き、目につく荷物を回収。来た時と変わらないさっぱりとした木造スタイルに戻して一息。

「よし。…引っ越そう!」


 善は急げとばかりに秒でチャージ、エネルギーを腹に入れたら久しぶりの役所へ。

「なるほど。かしこまりました」

 職員さんに軽く近辺の情報を聞き、簡易な地図をもらう。

「次はこの辺りがおすすめでしょうか。直通馬車も良いですが、乗り継ぎでこの辺りなど散策してもいいかもしれませんね。景色がいいと評判ですし」

「へえ、そうなんですね」

「ええ。ああでも、魔女の森には立ち入らないようにお気をつけて。まあもちろん大丈夫だと思いますが」

「…はい。ありがとうございます」

「では、よい旅を。また機会があれば立ち寄って下さい」

「ええ。ありがとうございました」



 宿にも声をかけ、感謝と別れを告げて街を出る。

 もちろん馬車…には乗らなかった。気になることがあるからだ。

 てくてくと道を歩き、街から遠ざかったあたりで足を止めタブレットを取り出す。開くのはもちろん神アプリ。

 メッセージ、ギフト、所持品、のあとにある最後のタブ。「検索」をタップ。

「魔女の森について教えてください、と」

 ぽこんと打ち込んだメッセージが表示され、直ぐに回答が送られてくる。

『魔女の森とはこの世界にいくつかある不可侵領域のひとつ。入るものを惑わせる、鬱蒼とした深く広い森林地帯。内部の調査や伐採も出来ず、長らくどの国にも属さない領域』

「なるほど。…そこへ拠点を構えるのは可能ですか?」

『可能か不可能かで回答するならば可能です。ただし、踏み入る際には別途販売の「一時抗体」を必ず購入し使用して下さい』

 …つまり、その「一時抗体」を使って森へ入り、いい感じのところで拠点を構えれば。

「誰にも怪しまれず、かつ迷惑もかけない自由で快適な生活が出来るってことか…!」


 ギフト一覧を見る。

 一時抗体はポイントではなくコインで3000枚。依頼絵では1枚だいたい1000~2000コインだから、2~3枚分。

 一時抗体に効果期間は1回12時間で消耗品。

「購入、っと」

 通るだけならまだしも定住。普通に考えれば次第に割に合わなくなる可能性が高い。

 でも。

 一時抗体の横、永久抗体と書かれたアイテム。人ではなく空間に作用する要設置アイテムでサイズもそれなり、なにより必要コインは10万。最初にもらった詫びコインは5万で不足は5万。とても手が届かない…わけでもない。

 街で引きこもって描いていた間、神がドはまりして布教してきたアニメ作品にまんまと沼って描きまくったおかげで、コインもポイントもざっくざくなのだ。布教感謝コインとかいってご褒美もあったし。

「所持コイン約15万。永久抗体に10万、初期家風呂トイレなしで5万」

 …しばらく体拭きシートとか簡易トイレで我慢するとして。

「イケる…!」






「ごちそうさまでした」

 という経緯があって、今に至る。

「あれから2か月…。なかなか充実してきたな」

 自画自賛気味にうなずく。

 神もこちらの状況を把握しているのか、少し密度の高いが報酬も多い依頼を定期的にくれるようになった。そうやってこつこつ依頼をこなしているうちにどんどん家もアップグレードしていき…。

「広めの湯船付きのお風呂。個室トイレ。冷蔵庫にキッチンに電子レンジに炊飯器。何よりパソコンと液タブをさっさと購入したのが良かったな。幅が広がった」

 いま狙っているのは地下拡張だ。

 シアタールーム、いや、地下プラントか?

「快適スローライフと言えば農地だよな。神仕様だからゲームみたいで手もかからないし、自家製の美味しくて新鮮な野菜…アリだな!」

 好きなことして快適に暮らせて、…まあ実家でもわりと自由で快適ではあったけど。生活のために依頼絵描くのは今もそうだし。

 でもそれよりなにより、実家暮らしだからって何かあれば足だの荷物持ちだのに駆り出されることがない!姉貴や妹の干渉がない生活!


「異世界、サイコー!」



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