1話 あまい物語のおわりと
長いタイトルの異世界()恋愛が書きたくて。
15話完結、起承転結がハッキリしたハッピーエンドです。
運命の人だと思ったの。
王子様に出会って、恋をして、結ばれる。
そんなキラキラしたストーリーが、わたしに与えられたんだって本気で思ってた。
「ミラー嬢、貴女がそんな人だったなんて」
「エリーシア様を冤罪で晒上げようだなんて…」
「なんて品のない…」
ひそひそと。
ううん。堂々と嘲る人たち。冷たい目。それを向けられているのは…。
「わ、たし…?」
どうして。
頭が真っ白になって、喉の奥がきゅっとしまったみたいに苦しくって声が出せない。
「ユノ・ミラー嬢」
「ぁ…」
苦々し気な顔をした学長先生。その後ろには、ついさっきわたしが声高に非難したエリーシア・グラン公爵令嬢。そんな彼女を支えるように寄り添う王妃様と国王陛下。
かくり。思わず膝の力が抜けてぺたりとその場に崩れ落ちる。
隣で私の肩を抱いてくれていたアレックス様は呆然と立ち尽くすばかり。
「残念だ。君は準男爵家の生まれだが思慮深く思いやりのある令嬢だと聞いていたのだが…、まさかアレックス殿下の婚約者になるグラン公爵令嬢をそんな根も葉もない嘘で罵るような人だったとは。ありもしない罪をでっち上げてまで」
怖い顔。
先生が何か言っている。
「…うそ?」
「まさかこの場に及んで言い逃れをしようと?…見下げ果てた精神だ」
なあに、それ。
わたしは。
わたし。
「アレックス」
「…はい」
「お前には失望した。…聞けば以前よりエリーシア嬢ではない女生徒との親密な仲であったとか。それでもまさか嘘偽りも見抜けずに罪なき女性をこんな公の場で罵った挙句に一方的な婚約破棄の申し立てなど…」
「ですが父上…っ!」
「アレク。貴方の言い訳は後で聞きます。下がりなさい」
「母上。…かしこまりました」
頭の上で交わされる会話も去っていく王子様も、何もかも理解できない。
「陛下、すこし…」
「うむ」
ふわり、目の前に整った美しい顔立ちの女性が屈みこむ。
「ねえ、ミラー様」
きらきら光る金の髪。神秘的な紫の瞳。白い肌、淡く色づく頬、小さな唇。
「わたくし、貴女にひどいことをしたかしら。いえ、責めたいわけではないの。けれど…」
玲瓏な声が、見透かしたような視線が、わたしを通り過ぎていく。
何もわからないまま音だけが過ぎていって、反応のない私にしびれを切らしたように王妃様と陛下が彼女を立たせて連れていく。
ひとり。
取り残されたわたし。
「…」
くすくす嘲笑う声が聞こえた。
王子様とわたしの仲を応援してくれていたはずの、わたしがエリーシア様に嫌がらせを受けているのを教えて庇ってくれていたお友達。わたしの初めてのお友達。
ああ、そっか。
わたし、彼女たちの話を全部鵜吞みにして、全部全部エリーシア様が王子様に近づくわたしをよく思っていないからだって決めつけて。嫌がらせの犯人は彼女だって決めつけて。自分では何にも考えもせず。
わたしはごく一般的な、もしかしたらちょっと裕福な?家に生まれた。
遅くしてできた待望の一人娘。両親に愛されて、大切に育てられた。
「おはよう柚乃」
「気分はどう?」
「おはよう。パパ、ママ。今日は少し気分がいいな」
「良かった」
「無理しちゃ駄目だぞ」
「うん!」
でもわたしは生まれつき病弱で、学校にもほとんど通ったこともない。
特別大きな病気を患っているわけでもなかったから、自宅のベッドであたたかいものに囲まれて過ごしてきた。
ちょっと寂しい時もあるけれど、たくさんの物語がお友達。いつか元気になったらあんなことがしたい、こんなふうに素敵な恋をしたりしたいって夢をみて。
「まあ、なんてかわいいの」
「俺たちの天使だ」
だからその冬に肺炎をこじらせてしまったのはショックだった。苦しくって息が出来なくなって体が痛くって、気がついたら違う世界に生まれていた。
「ユノ。あなたの名前はユノよ」
相変わらず体は丈夫じゃなかったけれど、生まれ変わっても変わらず両親は優しい人たちで。
貴族なんて物語くらいでしか知らないけど、体の弱いわたしはそんなに厳しい躾もなくっていつも通りの日々を過ごしていた。
それが大きく変わったのは16歳の時だった。
4年制の貴族学院への編入。
入学の日。初めての学校生活に浮かれて体調を崩したわたしは少し遅れて登校した。
はじめて見る学校の校舎。色とりどりの花。…遅れちゃった分、急いで向かわなくちゃいけなかったけれど思わず見とれてしまった。
「っごほ。こほこほ…」
「ねえ、大丈夫?」
ちょうど強い風が吹いて思わずせき込んだわたしを、たまたま通りがかって優しく介抱してくれた人。それが、この国の第一王子アレックス殿下だった。
それからは本当に楽しい日々だった。
「ユノは本当に可愛いね。…ユノといると落ち着くんだ。いつもはほら、王太子としての責任とか重圧もあって」
「アレックス殿下…」
「アレクでいいよ」
「で、でもそんな。わたしは下級貴族ですし…」
「僕といる時にはそういう立場の話はなしにして。ね?」
まるで前世に読んだ物語みたいな、甘くてとろけるような素敵な時間。
貴族や立場のことなんて軽く習ったくらいで、彼がそういうならそうなんだって思ったの。
第一王子であるアレクにはもちろん婚約を控えている女性がいて、学園でも飛び切りの美人でとっても有名。だって公爵家のご令嬢。
でもアレクは、そういう話が上がっているだけで正式に婚約しているわけじゃない。本当に好きな人、安心できる人と婚姻したい。出来るならわたしと。…なんて、言ってくれた。
嬉しかった。
それに、アレクが優しくしてくれるからか初めてのお友達も出来て、学校生活は本当に楽しかった。
でもいつからか、少し離れたすきに物がなくなったり汚されたりするようになった。
困惑して怯えるわたしに、少し言いにくいんだけど…とお友達が教えてくれた。…エリーシア様がわたしの物を持っている所を見たって。つい先日なくした、入学祝いに母がくれたお気に入りの髪飾り。
「そんな、何かの間違いでは?ほら、落ちていたのを見つけて下さったとか…」
「いいえ。だって、あのあと壊れた状態で見つかったじゃありませんか」
「そ、そうだけど…」
信じられなかった。
だってエリーシア様はとっても美人だし1つ年上で関わりもないし、正直雲の上の人みたいだったから。
でも彼女達がそんな嘘を吐くわけもないし…と悩んで。そんなことがいくつか重なった結果、抱えきれなくなったわたしはとうとう相談してみることにした。
「アレク、あの、少しいい…?」
「もちろん」
アレクも最初は私と同じでそんなことがあるだろうかと訝しげだったけれど、ある日エリーシア様が破れたノートを持っているのを見たことで確信したと報告してくれた。
そのノートが、わたしが趣味でふちをデコレーションしているものと同じだったから分かったって。
「そんな…」
「最低だ。表立って何も言わず裏でこそこそと…。しかも下級生相手にだ!」
「見間違いってことは、」
「いいや。それにあとで僕が問い詰めたらそんなものは知らないと言ったんだ。信じられないが、これはもう大勢の場で正式に抗議した方が良いかもしれない。言い逃れが出来ないように」
そうして迎えた学園祭。
つつがなくプログラムを終えたあと、後夜祭の立食会でとうとう言うことにした。後夜祭には生徒だけでなく、教師や国王夫妻も臨席されるから流石に知らぬ存ぜぬは出来ないだろうと。
「エリーシア・グラン嬢!話がある!」
立食会が始まってすぐ、アレクはそう言ってエリーシア様を呼び止めた。
よく通る声に離れた場所にいたエリーシア様が振り返る。
「わたしの友人、いや、愛しい人。ユノ・ミラー嬢への数々の嫌がらせ、ここで正式に謝罪してほしい」
「…わたくしが?」
「ああ。言い逃れは許さない。…あの日、僕が見たように君はユノの持ち物を汚したり勝手に持ち出して壊したりと悪行三昧。そうでなくとも下級生への嫌がらせ。…当然見過ごせない」
「わたくしはそんなことしていません」
「この期に及んで嘘を吐くのか…?」
「真実です」
突然の問答に周囲もざわめき、異変を察した先生方や国王夫妻が奥から姿を見せる。
けれどエリーシア様は凛とした態度を崩さず、あくまで自分ではないと主張した。わたしはその姿を見て…。
「ひどい。どうして、わたしにそんな嫌がらせをするのですか…?!」
震えるわたしをあたたかなものが包む。
力強くわたしを抱き寄せたアレクが口を開く。
「君には失望した。君との内々の婚約話も破談にしていただく。…僕の最愛の人は彼女だからな」
「…」
きっぱりと言い切ってくれたアレクに涙がこぼれそうになった。
ああ、もう、エリーシア様がわたしへの嫌がらせを認めてくれなかったとしても構わない。アレクと2人、幸せになろう。
そう思った時だった。
「どういうつもりだ?アレックス」
「父上」
事態の把握にやってきた陛下に、アレクが経緯を説明する。
「ですので、そんな女性との婚約はお断りさせていただきたく。僕には愛する人が…」
「なにを言っている!」
「そ、そうよアレックス。あなたいったい何を…」
困惑する国王夫妻に対立するアレクとエリーシア様。
そこへ割って入ったのは、エリーシア様のご友人らしき女生徒だった。
「国王陛下、並びに王妃陛下。無礼を承知で申し上げます…」
その女性の口からは、信じられない話が次々と出てきた。
…以前より度々見知らぬ物がエリーシア様の近辺に届けるように置かれていたこと。不審に思い持ち上げたら壊れるように仕組まれていたこと。それがどうやらわたしの物らしいこと。
教師に相談し見回っていたところ、とある生徒がこっそりと物を置くそぶりを見せたこと。その場で問い詰め…それがわたしの指示だと言われたこと。
「ですので、全てエリーシアの仕業に見せかけたものだったのです。こうして冤罪でエリーシアを糾弾するために」
状況は一変。
「ユノ…?まさか、そんなはず…」
「ち、違います。わたし、そんなこと…っ」
何だか寒い。
…そばにあったはずのアレクの熱が遠い。
「ミラー嬢、貴女がそんな人だったなんて」
「エリーシア様を冤罪で晒上げようだなんて…」
「なんて品のない…」
ひそひそと。
ううん。堂々と嘲る人たち。冷たい目。それを向けられているのは…。
「わ、たし…?」
どうして。
頭が真っ白になって、喉の奥がきゅっとしまったみたいに苦しくって声が出せない。
「ユノ・ミラー嬢」
「ぁ…」
苦々し気な顔をした学長先生。その後ろには、ついさっきわたしが声高に非難したエリーシア・グラン公爵令嬢。そんな彼女を支えるように寄り添う王妃様と国王陛下。
かくり。思わず膝の力が抜けてぺたりとその場に崩れ落ちる。
隣で私の肩を抱いてくれていたアレックス様は呆然と立ち尽くすばかり。
「残念だ。君は準男爵家の生まれだが思慮深く思いやりのある令嬢だと聞いていたのだが…、まさかアレックス殿下の婚約者になるグラン公爵令嬢をそんな根も葉もない嘘で罵るような人だったとは。ありもしない罪をでっち上げてまで」
怖い顔。
先生が何か言っている。
「…うそ?」
「まさかこの場に及んで言い逃れをしようと?…見下げ果てた精神だ」
なあに、それ。
わたしは。
わたし。
「わたし、なにもしてないのに…」




