ラルフ様の日常
王宮の朝は早い。
朝陽が差し込む中、目を覚ました。
目を開けると隣にラルフ様の姿はなく、俺が起きるより早く起きて、すでに着替えて本を読んでいた。
俺が起きたのを確認すると、鏡を見ながら青い髪を優雅に梳かしていた。
ドレスはシンプルだが、王女らしい気品が漂う。
俺は急いで起きて、慌てて準備を始める。
流石に疲労が溜まっていたのだろう。
かなりぐっすりと眠ってしまっていた。
「す、すみません…ぐっすり寝過ぎました」
「お疲れでしたでしょうし、起こすのも悪いと思ってそのままにしていたのは私の方ですから。それに可愛い寝顔でしたよ?」と、またしても朝から揶揄われる。
俺の中での仕事はラルフ様の護衛役であり、客人として招かれているわけではない。
こんなところを他の人に見られたら…と、明後日準備をする。
そうして、用意された執事の服に袖を通したところで、部屋のドアをノックされる。
分身はまだあそこに居るが…人は居ないようだし、誰かが来た形跡もないな…よし…。と、分身を解除する。
すると、昨日俺をあのボロ部屋に案内したメイドさんがそこに立っていた。
俺は執事らしくビシッと立った。
すると、メイドさんがこちらを睨みつけながら呟く。
「…来ていたのですね。もし、この段階でここに居ないようなら、護衛としての仕事が果たせないと判断し、即座にこの屋敷を追い出しますので」
「も、もちろんです」
「…その髪はセットですか?」
横にある鏡を見るとめちゃくちゃ寝癖がついていた。
「あっ…これは…」
「さっさと直してください。そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はこの屋敷でラルフ様の専属メイドであり、メイド長のルビル=アルシアと申します。あなたが男爵家の息子であることは知っておりますが、この城の中では私の部下となること肝に銘じてください」と言われた。
黒髪ロングヘアで黒い目、目つきはかなり悪く、こちらに嫌悪感をバシバシ飛ばしてくる。
おっかねー人が上司になったーと思いながら、なんとか笑みを浮かべる。
「よ、よろしくお願いします…」
すると、ラルフ様が割って入ってくる。
「そのあなたも私のメイドですから、そのことはお忘れずに」と、にっこりと笑顔を浮かべながらそう言った。
女社会こえー。
「では、リグゼ様」というと、「執事に様は不要です」と、さらに割り込むルビルさん。
「そうね…リグゼ、今日は城下町へ散策に行きましょう…じゃなくて、行くわ。私のの日常を見せておくわね。護衛のあなたにも、街の様子を知っておいてもらわないといけないから」
「わかりました。では、危険がないよう警戒します」
「では、そういうことですので。部屋の掃除をお願いするわ、ルビル」
「…かしこまりました」
そうして、二人で王宮を出るのだった。
◇
城下町には馬車ではなく、歩きで行くことに。
ラルフ様は時折、俺の腕を取って歩く。
護衛とはいえ、思わずドキドキしてしまう。
城下町は活気にあふれていた。
石畳の通りを歩く商人たち、市場の賑わい、魔法の灯りが街を彩る。
ラルフ様が歩くと、すぐに人々が気づく。
「ラルフ様! おはようございます!」
パン屋の店主が手を振り、ラルフ様は笑顔で応える。
「今日は良い天気ですね。いつものパンを一つください」
彼女は財布を取り出し、パンを買う。
店主は恐縮しながら、「王女様に買っていただくなんて光栄です」と頭を下げる。
「ここのパンはすごく美味しいんですよ?」と、その買ったパンを席に座って2人で食べる。
確かにめちゃくちゃ美味しかった。
「確かに…これはなかなかにうまいですね」
「ですよね。ここはおすすめです」と話していると、店主が「そっちのあんちゃんは何者ですか?」と、聞かれる。
「この方は私の新しい護衛の方になります」
「ほぉー、護衛ですか。この前の一件もありますし、あんちゃんには頑張ってもらわないと…」と、パンをサービスされる。
「ありがとうございます」
「いいってことよ!」
そんな会話をしていると、子供たちが駆け寄ってきた。
「ラルフ様だ!遊んでー!」と、やってくる。
ラルフ様はしゃがみ込み、子供たちの頭を撫でる。
「あー、ミクくんにユリアくん。はい、これパンあげるー」
「ありがとうございます!」と、無邪気に笑う。
そして、ジーと俺を見つめる。
「あっ、今日は護衛のお兄さんがいるの。みんな、この人がリグゼ様。私の大切な護衛さんだから、よろしくね」
子供たちは俺を見て、目を輝かせる。
「ラルフ様を守ってくださいね!!」
俺は苦笑しながら、頷く。
ラルフ様は国民から本当に愛されている。
彼女の自由気ままな性格が、民の生活に溶け込んでいるんだろう。
それからまた歩いていると、次に、花屋の前で止まる。
老婆がラルフ様に花を差し出す。
「王女様、いつも街を明るくしてくださってありがとうございます。この花をどうぞ」
ラルフ様は受け取り、「こちらこそありがとうございます」とお礼をする。
そう言いながら、悪戯っぽくウィンクしてくる。
「今度はリグゼ様も花をくださいね?」と言われた。
城下町を歩いてて分かった。
彼女は王女なのに、街のアイドルみたいな存在だであることを。
散策を続け、市場の中心部へ。
果物屋や服屋を回り、ラルフ様はあちこちで声をかけられる。
すると、ふとある気配に気づいた。
ラルフ様の後ろに、怪しい影。
小柄な少年が、こそこそと近づいていることに。
刺客?
子供を使って油断させるつもりなのか。
すると、その子供は一気に距離を詰めてくると、ラルフ様に手を伸ばす。
目的は…財布?
てことはスリか。
俺は素早く動き、少年の腕を掴んだ。
「ぐっ! 離せよ!」
少年は抵抗するが、ガッチリ掴んでいるため離れない。
すると、ラルフ様が振り向き、驚いた顔をする。
「リグゼ様? あ、この子……」
少年は10歳前後くらい。
ボロボロの服を着て、顔も煤で汚れている。
てっきり刺客かと思ったが、ただのスリの少年のようだった。
「ラルフ様の財布を狙ってました。どうしますか?」
ラルフ様は少年を見て、ため息をつく。
「またあなたね……前に注意したのに」
どうやら知り合い? 少年は観念したように頭を下げた。
「…ごめんなさい…」
ラルフ様は優しく微笑み、財布から小銭を出して少年に渡す。
「これでパンを買いなさい。でも、次は働いて稼ぐのよ?」
「…うん」
まったく…甘いな。
きっとこの子は次も同じ事をするだろう。
まぁ、ラルフ様の優しさが、国民に愛される理由なんだろうが。
その後、ラルフ様は俺の腕に寄りかかり、耳元で囁く。
「リグゼ様、かっこよかったですよ……。あとでご褒美にキスしてあげますね//」
彼女の青い瞳が悪戯っぽく輝く。
「…楽しみにしておきます」
「…はい」と、ラルフ様はくすくす笑い、キス寸前まで顔を近づけてから離れるのであった。
それから一日中散策をしてから王宮に戻るのであった。
◇
王宮に戻った夕方、俺はラルフ様に城の中を案内してもらっていた。
その道中、王がラルフ様を呼び、俺は不要と言われてしまったため、1人で城の中を散策していた。
すると、後ろから声がした。
「リグゼ様、でしたわね?」
振り向くと、そこに長女のエルザが立っていた。
金髪を優雅に揺らし、赤いドレスが彼女のスタイルを強調する。
冷たい赤い瞳が、俺を値踏みするように見つめる。
「少しお話してもいいかしら?」
彼女の微笑みは妖艶で、甘い香りが漂う。
色仕掛け…か?
俺は警戒を強め、丁寧に答える。
「エルザ様、何かご用件でしょうか?」
エルザは近づき、俺の肩に軽く触れる。
「ふふ、緊張しないで。この前の戦いをみてあなたに興味を持ったの。私の部屋で話をしましょう?」
その言葉に、背筋が寒くなる。
陰謀の影が、すぐそこに迫っていた。




