王女様の生活
俺は割り当てられた部屋——というか、物置小屋のようなボロボロの空間を、ため息をつきながら掃除していた。
埃が積もった棚、蜘蛛の巣が張った天井、ベッドは古びてカビ臭い。
ま、こういうことになるのはなんとなく予想通りだったけどな。
招かれざる客だもんな。
そうして、箒で床を払っていると、突然ドアがノックされた。
誰だ?と思っていると、そこに立っていたのはパジャマ姿のラルフ様だった。
青い髪を緩く結び、薄い生地の寝間着が彼女の豊かな体型を柔らかく包んでいる。
足元はスリッパで、頰が少し赤らんでいるように見える。
「リグゼ様……あの、やっぱりあなたをこんなところには置いておけません……。その……私の部屋に行きましょう」
彼女の言葉に、俺は目を丸くした。
王女の部屋に?
それはまずいだろ。
「え、でも……護衛とはいえ、部屋に男を連れ込むのは……」
「大丈夫です。誰も知らないようにしますから」
ラルフ様の青い瞳が、真剣に俺を見つめる。拒否しにくい雰囲気だ。
仕方ない……。
「わかりました。でも、念のため、分身を一体ここに置いておきます。あと、透明化魔法も使って、誰にも気づかれないように」
俺は分身魔法を発動させ、偽の自分をベッドに寝かせた。
さらに、透明化の魔法を二人にかけ、王宮の廊下を抜けて彼女の部屋へ向かった。
そうして入ったラルフ様の部屋は、豪華だった。
絨毯が敷かれ、大きなベッド、天井から吊るされたシャンデリア。
窓からは王都の夜景が見渡せ、優雅な香りが漂う。
「ここなら、ゆっくり休めますよ。……部屋にお風呂もありますので、良かったらどうぞ」
確かに連日の移動でかなり体が汚れていた。
道中で軽く水浴びをした程度だったし、ゆっくり浸かりたい気持ちもある。
というか、部屋の中にお風呂までついてるとは……王女の生活レベル、恐るべし。
「では、お言葉に甘えます」
俺はバスルームに入る。
それから、とりあえずと思って頭を洗っていると、泡だらけの状態で、突然扉が開く音がした。
チラッと横を見ると、タオルを体に巻いたラルフ様が入ってきていた。
白い肌が露わで、青い髪が湿気で少し湿っている。
「ちょっ!?//」
俺は慌ててあそこを隠す。
しかし、ラルフ様は頰を赤らめながら、俺の股間の場所をガン見してくる。
「お、お背中……流します……//」
「あの、大丈夫っす! ベッドで待っててください!」
「べべべベッドですか!?// そそそそ、そうですよね……// わ、分かりました……//」
口から出た言葉が、なんか含みがあるような言い方になってしまった。
後悔する俺を残して、ラルフ様は慌てて出て行った。
……はぁ。
ゆっくり浸かりながら、今後のことを考える。ラルフ様の護衛として、この王宮で生き抜く…か。
これまでとは比べ物にならないほどのハードモードな人生だな。
そんなことを考えながら、子供のように湯船に顔まで浸かり、ブクブクさせた。
それから風呂を上がると、ベッドの上でラルフ様がソワソワしている。
「あーえっと……誤解させてしまったらすみません。そういうことはしないですよ?」と、ひとまず俺は謝った。
俺の言葉に、ラルフ様は目を丸くする。
「……つ、つまり…き、キッスは……しないということでしょうか?」
「……え?キッス?」
「はい……// 子供はその……キッスしたら……コウノトリさんが運んできてくれるんですよね……?//」
うわー、ピュア〜。
大国の性の教育はどうなってんだよ……。
いや、ここは異世界……もしかして、本当にコウノトリが運んで……いやいや、俺普通にシコったら精子出てたし。
「えっとー、違いますね」
「え!? で、でも……絵本だとそうだって……」
「あれはおとぎ話ですから……」
「じゃ、じゃあ……! どうするんですか!?」と、顔を近づけてくる。
それから、子供ができる仕組みについて、なるべくオブラートに包んで解説する。
だけど、ラルフ様は「?」という表情を浮かべる。
「えっとー、わかった。その俺のこれとラルフ様のそれをがっちゃんこするんです//」
照れながらスーパーストレートに言い放ってみた。
すると、ラルフ様は少し悪い笑みを浮かべてから、「知ってますよ?セックスですよね?ちょっとからかってみたくて……」とそんなことを言ってきた。
「…勘弁してくださいよ…//」
「それでしないんですか?セックス」と、揶揄うような、煽るような顔をしてきた。
なので、そのままベッドに押し倒して、両手を押さえる。
「…!!//」と、目を閉じるラルフ様。
「…冗談ですよ?」と、俺がパッと手を離すと「…意地悪ですね…//」と、髪をいじりながらそんなことを言ってくるのだった。
◇
王宮の食堂。
夜の帳が下りた頃、国王ヘンリック=クラムと、長女エルザ、次女ミリアの三人が、食事を囲んでいた。
テーブルにはローストビーフや新鮮な野菜のサラダ、ワインが並び、燭台の炎が部屋を柔らかく照らす。
重厚な雰囲気の部屋で、三人は静かにフォークを動かしていたが、話題は自然と軍事の話から始まった。
「父上、周辺国の小国制圧についてですが……そろそろ本腰を入れるべきですわ。クラム王国の軍事力が優位な今、躊躇する理由はありません。他国が協力しあって対抗される前に属国にするべきかと」
エルザが、金髪を優雅に払いながら言った。冷たく赤い瞳が、国王を見つめる。
国王は髭を撫で、頷いた。
「うむ。確かに大国戦争が近づいているのは間違いない。それまでにまずは周辺の小国を併合し、資源と兵力を増強せねばならん。まずはヴァルドの騎士団を動員し、まずは東の小国、ベルド領から攻め落とす。魔法師団も投入し、迅速に決着をつけろ」
ミリアは赤髪を弄びながら、ワインを一口飲んでから、言葉を挟む。
「ベルド領のマナ鉱山は魅力的ですよね。制圧すれば、魔法兵器の生産が倍増するでしょうし、抵抗勢力は根絶やしにできる。それと平民の反乱を防ぐため、事前の工作も忘れずに」
国王は満足げに笑った。
「そうだな、今回の戦争はお前らに任せることにする。ヴァルドも自由に使っていい。これからのためにお前らも実践を積むといい」
それから、作戦のタイムラインや兵力配分を議論した。
ローストビーフが冷めていく中、部屋に緊張感が漂う。
食事が終わりかけた頃、国王が話題を変えた。
「さて……ラルフとあの護衛の処分についてだが。あの三男坊、リグゼとかいう男。ヴァルドと互角に渡り合ったというが色々と匂うからな。小細工はあのラルフには通用せんし、さてどうしたものか…」
すると、エルザがフォークを置き、ニヤッと笑った。
「あの男は、私が色仕掛けで堕としますわ。心を掴んで、こちら側に引き込めば、ラルフの弱点にもなる。父上、ご心配なく」
ミリアがくすりと笑い、国王は頷いた。
部屋に陰謀の影が濃くなる中、夜は更けていった。




