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17年間実力を隠してスローライフを謳歌してたが、うっかり王女様を助けてから勝手に成り上がり人生が始まった  作者: 田中 又雄


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敵襲

 授業が終わった。


 実践訓練場に残っていたざわめきも、徐々に引いていく。

生徒たちはそれぞれの仲間と談笑しながら、あるいは疲れたように肩を回しながら、その場を後にしていく。


 俺は一人、軽く息を吐いた。


「……やっと終わったな」


 教師としての初仕事、と言っていいのかは分からないが、とりあえず大きな問題もなく終わった。


 ……いや、“問題がなかった”は嘘か。


「……」


 背中に、視線を感じる。

振り返らなくても分かる。


『いるな』

「……いるな」


 ラプラスと意見が一致するのも、なんか癪だが…こればかりは疑いようもない。

ゆっくりと振り返る。


 ——やっぱりいた。


 少し離れた位置。

訓練場の出口付近。


 壁に寄りかかるようにして立っている少女。

シュナだ。


 視線は、完全にこっち。

逸らす気も、隠す気も一切ない。


「……何してるんだ」


 思わず呟く。


『いや、あれは完全にお前を待ってるだろw』

「……だよな」


 面倒な予感しかしない。

とりあえず無視して帰ることにした。


 俺はそのまま出口へ向かって歩き出す。

シュナの横を通り過ぎる。


「……」


 無言。

何も言ってこない。


 …予想外だな。

そのまま廊下に出る。


 石造りの長い廊下。

夕方の光が差し込み、床に長い影を落としていた。


 コツ、コツ、と自分の足音だけが響く——

……いや。

もう一つ、ある。

一定の距離を保ったまま、ついてくる足音。


「……」


『ほら来た』

「……そうきたか」


 俺は立ち止まった。

足音も、止まる。


 振り返る。


「……」


 無言で、じっと見ている。


「……何してるんだ」

「……」

「…護衛です。ついてきています」

「いや、そりゃストーカーだろ」


 思わず即答した。


「なんの用だ?」

「……弟子なので」

「弟子なら師匠の言葉を聞けよ。今日は帰れ」

「嫌です」


 即座に否定する。

だが、シュナは一切引かない。


「……師匠の行動を把握するのは、弟子として当然かと」


『慕われてんなぁw』

「黙れ」


 小さく呟くと、シュナの目がわずかに細くなる。


「……また、誰かと話してますか」

「…気にするな。そういう病気だ。とにかくだな、ついてこなくていい。帰れ」

「……嫌です」


 迷いがなさすぎる。

清々しいレベルに。


「……師匠」

「なんだ」

「……私ともう一度戦っていただけませんか?」

「嫌だね」


 食い気味で拒否した。

すると、シュナは、ほんの一瞬だけ視線を下げた。


 そして——


「…分かりました。では、弟子としてついていきます」

「俺が何言おうとついてくるくせに、断ったからついてくる的な言い方すんなよ」


 俺は額に手を当てて、深くため息をついた。


「…まぁ、俺も力は把握しておきたいし、そばにいてもらうに越したことはないが…」

「……はい」


 素直に頷く。

……本当に素直なんだよな、変なところで。


 俺は再び歩き出す。

後ろから、やはり一定の距離でついてくる気配。


 そもそも俺は護衛なのに、護衛を護衛するとか意味わからんのよな。


 そのまま廊下を抜け、中庭へ出る。


 夕焼けに染まる庭園。

魔法で育てられた花々が、淡く光を放っている。


  夕焼けに染まる庭園。

 魔法で育てられた花々が、淡く光を放っている。


 風が吹くたびに、色とりどりの花弁が揺れ、微かな魔力の粒子が空気中に舞い上がる。

昼間の喧騒が嘘のように静かで、どこか現実感が薄れる空間だった。


 ……そのはずだった。


「……」


 違和感。


 肌にまとわりつくような、冷たい気配。

さっきまで感じていた穏やかな魔力の流れが、どこか歪んでいる。


『……おい』

「……あぁ」


 ラプラスと、同時に気づいた。

——これは、普通じゃない。


 視線をゆっくりと周囲に巡らせる。

 庭園の中央。噴水の周囲に、人影がいくつか見えた。


 ……生徒?

いや、違う。


 まるで——“固定されている”かのように、その場に立ち尽くしている。


「……おい、シュナ」

「……はい」


 短く返事。

いつの間にか、さっきよりも距離が近い。


「……あれ、どう思う」

「……不自然です」


 即答だった。


「魔力の流れが……歪んでいます。誰かが、干渉している」


 その言葉と同時に——


 ビキッ。


 空間に、ひび割れるような音が走った。


「——っ!?」


 次の瞬間。


 庭園の景色が、歪んだ。


 空が揺らぎ、花々の色が滲み、視界全体が水面のように波打つ。


『結界か!?いや……違うな』

「……空間干渉系か」


 舌打ちする。


 そして——


「——見つけた」


 声。

背後から。

振り返るよりも早く、シュナが動いた。


 ガキィン!!


 鋭い音。

氷の壁が瞬時に展開され、その直後——黒い刃のような魔力が叩きつけられる。


 衝撃で、氷が砕け散った。


「……敵です」


 シュナの声が、わずかに低くなる。

その先にいたのは——黒いローブを纏った数人の人影。


 顔は見えない。

だが、その纏う魔力は明らかに異質だった。


 濁っている。

人間のそれとは思えないほどに。


「……何者だ」


 そのうちの一人が、こちらを見て呟いた。


「報告通り……妙な魔力を持っているな」

『はっ、面白ぇ。来たじゃねぇか奴らが』

「……外?」


 ラプラスの言葉に一瞬だけ引っかかるが、今はそれどころじゃない。


 敵が、一歩踏み出す。

その瞬間、空間がさらに歪む。


 足元の地面が、ぐにゃりと沈み込むような感覚。


「……ちっ、やりにくいな」

「……師匠」


 隣に、シュナが並ぶ。

完全に——戦闘態勢。


 氷のように冷たい瞳が、敵を射抜いている。


「……やれますか」

「誰に聞いてんだ」


 軽く息を吐く。

体の奥で、魔力が静かに唸る。


「むしろ——ちょうどいい」


 この学園で、教師としてやるべきこと。

それが、今はっきりした。


「テメェの力を使わせてもらうぞ、ラプラス」


『ははっ、言うじゃねぇかクソ先生』


 敵の一人が、手を上げる。

瞬間、空間が裂けた。

黒い裂け目から、歪んだ魔力が溢れ出す。


 それはまるで——“何か”を呼び出そうとしているような。


「……召喚系か」

「……違います」


 シュナが、静かに首を振る。


「……もっと、嫌な感じです」


 次の瞬間。

裂け目の中から、“腕”が伸びた。

人のものではない。


 黒く歪み、異様に長い指を持つそれが、地面を掴む。


 ぞわり、と背筋が粟立つ。


「……なるほどな」


 口の端が、わずかに上がる。


「……いいじゃねぇか」


 久しぶりだ。

“ちゃんとした敵”ってやつは。


 俺は一歩、前に出る。

風が巻き起こり、周囲の空気が震えた。


「シュナ」

「……はい」


 一瞬の沈黙。

そして、彼女は小さく頷いた。


「じゃあ見せてやるよ」


 魔力を解放する。

風と雷が、空間を塗り替える。


「——本気ってやつを」


 その瞬間。

戦いが、始まった。

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