表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17年間実力を隠してスローライフを謳歌してたが、うっかり王女様を助けてから勝手に成り上がり人生が始まった  作者: 田中 又雄


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/19

そして誰も

 俺は分身魔法でルワードの盗賊たちに化け、ラルフ様を捕らえ振りをしてブルーム男爵の城へ向かった。


 夜の闇が深く、森の木々が風にざわめく中、俺は魔力で簡素な馬車を召喚した。


 馬車は古びた木製で、車輪が土道を転がる音が静かな夜に響く。


 ラルフ様はフードを深く被り、馬車の隅に座っていた。


「…こんなことにつき合わせてしまってすみません」

「いえ、私は命を救ってもらった身ですから。好きにしてもらってもいいんですよ?」


 彼女の青い髪が時折フードの隙間から覗き、月光に淡く輝く。


 2日間の逃亡生活で疲弊しているのだろう。

手が微かに震え、膝を抱える姿が、普段の王女らしい気品とは対照的に、ただの少女のように見えた。


 ここは幼い頃から過ごした場所で、裏庭の花畑や、館の石壁の感触まで鮮明に思い出せる。


 だが、今はそんな懐かしさなどない。

まさか、親父が黒幕とは信じたくないが…。


 もし本当なら、どうする?

馬車の中で、ラルフが小さな声で尋ねてきた。


「リグゼ様……本当に大丈夫ですか?」


 俺は苦笑し、変装した顔で答えた。


「大丈夫です。あの家にとっての自分の価値なんて知れてますから」

「…そう…なんですね」


 彼女は頷き、目を伏せた。

馬車の揺れが続き、遠くに城のシルエットが見えてきた。


 古びた石造りの館は、夜の闇に溶け込み、窓から漏れる灯りがわずかに温かみを添えていた。


 城に到着したのは、深夜だった。

門番の使用人は俺の変装した顔を確認する。


「…ども」

「…どうぞー」と、眠そうに目をこすりながら、門を開けた。


 これでうちの家の誰かなのは確定したな。

いや…父の許可なく門番にまで…というのは考えられないな。


 俺は俺と分身の4人でラルフ様を囲み、執務室へ直行した。


 廊下の絨毯が足音を吸収し、壁に掛かった古い肖像画が俺たちを睨むように見下ろす。


 父、ガルド=ブルームは、机に座って酒を飲んでいた。


 重厚なオークの机の上にワインの瓶が転がり、厳つい髭の顔が赤らんでいる。


 俺たちを見て、目が輝いた。

期待と貪欲さが混じった、醜い輝きだった。


「待っていたぞ、ルワードの者たちよ! 王女を無事に届けてくれたな。これで隣国との密約が成立する。報酬は約束通り、そこに置いてある」


 そこにはおそらくそれなりの金貨が入った袋が置かれていた。


 ラルフ様が小さく息を飲むのがわかった。

案の定、黒幕は父だった。


 隣国——おそらくクラム王国と敵対する大国——にラルフ様を売って、金を得る算段か。

王女様は脅しの道具としてだけでなく、情報も得られるだろうしな。


 ブルーム家は確かに没落家族であった。

最近は領地の税収が減り、長男の無駄遣い、次男の軍人道のための装備など…、この代で少なくても元の地位くらいには戻りたかったのだろう。


 だからこそ、王女を誘拐して売り捌くなんてことに手を出したのだろう。


「ふふ……本当によくやった。ラルフ様の価値は相当に高い。三女で婚約者なし、魔眼持ちで、情報も…体に聞けばいくらでも吐くだろう。奴らに渡せば、うちの家は安泰だ」と、父は気持ち悪い笑みを浮かべ、ラルフ様に近づいた。


 そして、彼女のフードを乱暴に剥ぎ取り、青い髪を掴もうとした。


「奴らに渡す前に少し遊んでもいいかもな」


 その瞬間、変装を解き、父の右腕を容赦なく切り落とした。


「ぎゃー!!!」と、無様に泣き叫ぶ。


 父は俺の顔を見て目を丸くした。

次に、驚愕が怒りに変わる。

髭が震え、顔が赤黒く染まる。


「リグゼ……!? お前、何を……いや、その変装の魔法…どうやってそんな力を!? ハズレ三男のお前が……! お前は才能がないはずだ!」

「17年、ずっと演じてたんだよ。お前らの期待に応えないように、使えない三男を装っていたんだよ」

「な、なんだとぉ!!」と、父は慌ててもう一つの腕で剣を抜いた。


 そのまま、止血の魔法で応急処置を行う。


 構えているのは古い家宝の剣で、刃が鈍く光る。


 その剣を売ればそれなりの値にはなったろうに。


 そうして、俺は風魔法で作った見えない刃でもう片方の腕を斬り飛ばした。


 血が噴き出し、父は机に凭れかかり、床に崩れ落ちた。


 血の臭いが部屋に広がる。


「ふざ…けるなっ!!こんなことして、ただで済むと思っているのか!!」

「そりゃこっちのセリフだ。何の罪もない王女を攫っといて、今更何言ってんだ。てか、命乞いの一つでもしてみろよ。俺の気が変わるかもしれないぞ」

「誰がっ…!」と言ったので片足を飛ばした。


「ぎゃーー!!わかった!!分かったから!!今までの全てを謝罪する!だから…!」

「何も分かってねーな。ここで俺の気が変わることがないことくらい17年もいて分からないのかよ」と、そのまま首を跳ね飛ばした。


 そして、物音を聞いて、使用人が駆けつける。


「謀反です!リグゼ様が乱心しました!」という声が響き渡る。


 全員を魔法で拘束したのちに、部屋を後にしてすぐに長男の部屋へ移動することにした。


「ラルフ様、ここで少し待っていてくれますか?すぐに戻ってきます」

「かしこまりました…。出来れば着替えをしたいのですが…」

「その奥の部屋にいくつか着替えがあると思います」


 そうして、俺は長男の部屋に向かった。

寝室で書類を広げ、密約の証拠——隣国への手紙や金貨の帳簿——を慌てて隠そうとしていた。


「…何をしている」

「お、俺は何も知らない!何も知らないんだ!」と、言いながら長男は剣を構えたが、俺は雷撃を放った。


 青白い稲妻が部屋を照らし、彼の体を焼き焦がした。


 煙が立ち上り、焦げ臭い臭いが充満した。

長男は苦悶の表情で倒れ、動かなくなった。


 そして次に、次男の部屋。

武器庫に隣接した部屋で、彼は剣を磨いていた。

軍人らしい筋肉質の体躯が、俺を見て構える。


「父に兄貴を…。 お前、狂ったか? 王女を売れば、金が入る。この家も安泰だ。何が不満だ!」


 次男は突進してきた。

剣が空を切る音が響くが、俺は氷の槍を召喚。


 鋭い氷が彼の胸を貫き、血が凍りつくように広がった。


 次男は膝をつき、目を瞠って倒れた。

血の池が床に広がる。


 17年間の偽りの生活が、こんな終わり方か。これでスローライフの夢は、完全に崩壊した。俺は今、犯罪者と成り果てた。


 いや、まだごまかしが効く可能性もあるか。


 そして、現場にいくつかの奪った証拠品を残して、「ルワードの盗賊が家族を皆殺しにした」ように見せかけることにした。


 唯一の生き残りの俺は他国へ亡命でもしたことにするか。

これで、ブルーム家は滅亡。

俺は、生き残った者として追われる身になる。


 館の外へ出ると、夜風が冷たく頰を撫でた。星空が広がり、静かな領地が、まるで別世界のように感じた。


 そして、ラルフ様を迎えに玄関に行く。

彼女はそこで待って俺の姿を見て駆け寄ってきた。


 青い髪が風に揺れ、大きな胸が安堵に上下する。


「リグゼ様……ご無事で……」

「…はい、無事です。さて、これからどうしましょうか」

「…なら…私の護衛として、我が国に来てはいかがでしょう?」

「…ご冗談を。没落男爵家の三男が護衛なんて、誰も認めませんよ」

「…認めさせていけばいいのです。だから、私のこの手を取ってください」


 ラルフ様はゆっくりと手を差し伸べた。

柔らかく、確かな温もり。

魔眼が赤く輝き、俺の本心を見透かしているようだ。


「リグゼ様……あなたは私の恩人です。私が、居場所を作ります。だから、クラム王国に来てください。私の側近として……いえ、もっと近くで。あなたがいなければ、私は今ここにいません。一緒に、新しい人生を始めましょう。私は…あなたが欲しいです」


 彼女の言葉に、俺の胸が熱くなった。

スローライフは諦めざるを得ないが、この手なら……悪くないかも。


 俺はその手をとった。

こうして、俺の成り上がりは本格的に始まった。


 星空の下、馬車が再び動き出す音が、静かな夜に溶けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ