死闘の果てに
雷光が爆ぜた。
ラプラスの小さな体が弾かれるように吹き飛び、黒氷の地面に叩きつけられる。
衝突と同時に氷が粉々に砕け、白い霧が爆発的に舞い上がった。
「がっ……!」
初めて、明確なダメージの声。
だが——
「く、くく……なるほど、面白い……!人間っ!!」と、笑う。
ラプラスはゆらりと立ち上がる。
頬の傷から黒い血が一筋流れていたが、その瞳はむしろ愉悦に歪んでいた。
「予測不能、確率の暴走……そう来たか。だが——」
次の瞬間、彼女の周囲の空間が“歪んだ”。
「ならば、その“確率”すら支配すればよい」
空気が軋む。
俺の放った雷が——途中で“消えた”。
「……は?」
「観測した、学習した、補正した。お前の“ランダム”は、もはや未知ではない」
ぞわり、と背筋に悪寒が走る。
こいつ……たった一撃で適応しやがったのか。
「来い」
ラプラスが指を鳴らす。
瞬間——
視界が反転した。
上も下も分からない。
重力が狂い、黒氷の槍が四方八方から同時に襲いかかる。
「チッ!」
反射で風を爆発させる。
だが、今度は“避けた先”にすでに氷が生成されている。
予測されている——!
肩、脇腹、太腿。
連続で貫かれ、血が飛び散る。
「がはっ……!」
「どうした?先ほどまでの威勢は」
その瞬間、黒髪は白髪に変わり彼女の魔力が莫大に上がる。
ラプラスが至近距離に現れる。
——速い。
いや、“そこに来る”と分かっていたからそこにいるのか。
彼女の手が俺の胸に触れた。
「凍れ」
瞬間、心臓を中心に氷が広がる。
「ッッッッ!!」
内側から凍りつく感覚。
魔力の流れが完全に停止しかける。
——やばい。
本能が警鐘を鳴らす。
ここで止まれば終わる。
思考を捨てろ。
予測されない攻撃を…!!
「——ぐああああああああああッ!!」
俺は彼女もろとも自分の胸に、雷を叩き込んだ。
自爆に近い衝撃。
だが、その無茶苦茶なエネルギーが凍結を強引に吹き飛ばす。
「ぐっ!!!自傷か!!合理性の欠片もないな!!」と、血反吐を吐きながら笑う。
「だから効くんだろ……!」
俺は踏み込む。
風と雷を同時に解放——だが、制御はしない。
暴走寸前の魔力を、そのまま振り回す。
右拳に雷を、左腕に風の刃を纏い、一直線に突っ込む。
ラプラスが動く。
——いや、“動こうとした”。
その瞬間、再び自爆覚悟で設置していた地雷が彼女に直撃する。
「っぐ!!!」
彼女の動きが一瞬だけズレる。
その隙。
「当たれぇぇぇぇぇ!!」
拳がめり込む。
雷が炸裂し、ラプラスの体を内側から焼き裂く。
「がっ……!!」
追撃。
蹴り上げる。
空中に浮いた体へ、風刃を叩き込む。
この隙を逃せば…もうチャンスはないかもしれない。
俺の斬撃が乱舞し、黒いドレスが裂け、白い肌に無数の傷が刻まれる。
「くっ……この……!」
ラプラスの瞳が、明確な“怒り”に染まった。
空間が悲鳴を上げる。
「舐めるなよ、人間ッ!!」
領域が暴走する。
黒氷が嵐のように渦巻き、世界そのものが圧縮される。
逃げ場はない。
全方位、完全殺意。
——だが。
「それ、待ってた」
「……なに?」
俺は笑った。
血まみれのまま。
魔力もほとんど残っていない。
だが——
「お前、“見える攻撃”を予測できるだけだろ!!!」
ラプラスの表情が、ほんの一瞬だけ固まる。
「ならさ——」
俺は自ら生み出した不可視の雷魔法を発動させる。
「見えない攻撃は想定してないよな!!」
「——っ!?」
彼女の体が一瞬硬直する。
威力はさほど大したことはない。
別にこの魔法で倒そうとは思っていない。
けど、その硬直時間があれば十分だ。
次の瞬間、俺は最後の魔力を“爆発”させた。
風と雷を、完全無秩序に解放。
制御ゼロの不可視の雷魔法からの無差別に魔法を放つ。
方向も威力も発生位置も——今度は正確に狙い定めながら、人生で初めて魔力が0になるほどの魔法を撃ち放つ。
見えてようが何であろうが体が動かないのであればどうしようもないのだ。
ラプラスの目に涙が浮かぶ。
「ば、馬鹿な——!!この私があぁぁガァ!!」
「終わりだァァァァァァ!!」
光が、世界を飲み込んだ。
——轟音。
——閃光。
——そして、静寂。
氷の世界が、音を立てて崩れていく。
黒が砕け、光に溶ける。
その中心で——
ラプラスは大の字で倒れていた。
「……ありえん……この私が……この私の世界で敗北するなど……」
体はボロボロに砕け、維持すらままならない。
オレンジの瞳が、俺を睨む。
「……バケモノめ」
俺は、ふらつきながらも立っていた。
「悪魔にそんなこと言われる日が来るとはな」
一歩、踏み出す。
「未来が読めるなら…この後のことは分かっているな」
ラプラスの瞳が、わずかに揺れた。
「あぁ…好きにしろ」
そして——
ぱきり、と音を立てて。
世界が壊れると俺の意識も、引き戻される。
「……っは……!」
視界が戻る。
現実の空気。重い体。荒い呼吸。
人生初めての死闘。
自分の全力を出し切っての勝利はただただ…気持ちが良かった。
「……ギリギリ、だったな」
そのまま、俺はその場に崩れ落ちた。




