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17年間実力を隠してスローライフを謳歌してたが、うっかり王女様を助けてから勝手に成り上がり人生が始まった  作者: 田中 又雄


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悪魔を宿した落ちこぼれ

 魔法学校「アカデミア・ルミナス」の3年実践魔術クラスは、朝の光が差し込む広々とした実習室だった。


 天井の高い部屋の壁には、さまざまな属性の魔法陣が描かれた練習用結界が張られ、床は魔力耐性の高い特殊石材でできている。


 生徒たちは制服姿で席に着き、ざわめきながら俺の姿を値踏みするように見ていた。


 俺は教壇の前に立ち、軽く息を吐いた。


 今日から、各学年の実践魔術のサポート教師として授業に参加することになった。


 教室の空気は明らかに冷ややかだった。

悪目立ちしちゃったんもんなーと思いながら、この教科の担任であるハイゼルド先生から紹介される。


「それと…すでに知っている人も多いが、今日から彼に私のサポートとして授業に参加してもらう」


 俺は静かに頭を下げ、挨拶を始めた。


「皆さん、初めまして。リグゼ=ブルームです。 本日から、皆さんの実践魔術のサポート教師として授業に参加します。改めてよろしくお願いします」


 教室に一瞬の静寂が落ちた後、すぐにざわめきが広がった。


「あれが噂の?」

「八百長だろ、八百長」

「お前見てねーのかよ。あれは八百長では片付けられないから」

「てか、補佐とは言え17歳で教師とか、前代未聞だろ…」


 生徒たちの反応は、驚きと疑念と好奇心が混じっていた。


 その中でも、特に目立っていたのは、後ろの席に座る一人の不良っぽい少年だった。


 彼は腕を組み、俺を睨みつけていた。


 名前はユーリという、学年の中ではそれなりに腕が立つらしい不良生徒らしい。


 ユーリは大声で言った。


「おい、あんた。あの模擬戦、やらせだったんだろ? あのシュナ様がただの男爵家の落ちこぼれに負けるわけがない。シュナ様に勝ったという名目があれば17歳で教師なんていう例外を認めざるを得ないもんな。国王のコネで入ってきただけのくせして、教師面してんじゃねーよ」


 教室が一瞬、静まり返った。

俺は静かに彼を見据え、ゆっくりと言った。


「あれはやらせではないよ。もし信じられないなら……実戦で証明しようか?」


 ユーリはにやりと笑い、俺の前にメンチを切ってくる。


「上等だ。今すぐ模擬戦やろうぜ。お前の実力、俺が暴いてやるよ」


 俺は軽く頷いた。


「いいでしょう。ただし、僕は基礎魔法と体術のみでやるから、君は全力で来なさい」というと、更に青筋を立てる。


「それを言い訳にするつもりじゃねーだろな?」

「ないない。いい教材になってくれることを祈るよ」


 ハイゼルド先生は止めるかと思ったが、どうやら彼には相当手を焼いていたのか、先生が教室の隅に簡易結界を張り、即席の模擬戦が始まることとなった。


「…二度と魔法が使えない体にしてやる」

「それじゃあ始めようか」


 ユーリは自信満々に突進してきた。

事前に知っていたが、彼の得意とするのは火属性の魔法。


 火魔法を掌に纏い、俺に向かって拳を振り下ろす。


 俺は基礎中の基礎の風魔法で軽く体を滑らせ、彼の攻撃をかわす。

通常、火魔法と風魔法では圧倒的に火魔法が有利である。


 しかし、彼の攻撃は空を切るばかりであった。


「くっそ!なんであたんねーんだよ!」

「みんな、いい教材になると思うからよく見てて?魔法戦と言えど、一定のレベルに達していない魔法に関しては魔法力で劣っていても、基礎体術+基礎魔法だけでこんな簡単に捌けるんだ」と、彼の攻撃を受け流しながら、いなし続ける。


「反撃してこいよ!!」

「こんな安い挑発に乗る必要もない。魔法の総量が上でもこうやって出力が高い魔法を続けていれば当然ガス欠になる」と、少しずつ火魔法が弱まっていることを指摘する。


「舐めんな!!」と、大技の魔法を出そうとした瞬間、大きな隙が生まれたため、一気に間合いを詰めて、彼の腕を掴み、軽く投げ飛ばす。


 ユーリは地面に叩きつけられて、一瞬体が硬直する。


「くそっ!」

「大業も発動前に潰せばなんてことはない」


 彼はすぐに立ち上がり、火の玉を連続で放ってきた。


 俺は風の壁で火の玉を弾き、間合いを詰めて肘打ちを入れる。


 ユーリの体が再び吹き飛び、壁に激突した。


 基礎魔法と体術だけで、相当手加減していた。


 しかし、ユーリはまた立ち上がり、必死に攻撃を続けた。


 見誤っていたな。

相当にタフらしい。


 俺は最後に軽い雷撃を胸に当て、ユーリの体を痙攣させた。


 ユーリは目を回し、そのまま気絶して倒れた。


 教室が静まり返った。

誰もが息を飲んで、俺を見ている。

静かに言った。


「みんなにはこんなことしないから安心して。 あくまで実戦のイメージを伝えるためにやっただけだ」


 生徒たちはまだ呆然としていた。


 あーやっべ。ムカついてやりすぎたかも。

けど、こうすりゃ八百長の噂とかは無くなるだろう。


 それから、その日は組み手をやってもらい、生徒たちの実力を確認するのであった。


 そこで1人の少年に目をつけた。



 ◇数日後


 魔法学校の地下にある賭博場は、薄暗い照明と煙草の煙で満ちていた。


 低い天井に吊るされたランタンが、ぼんやりとテーブルを照らし、カードやサイコロの音が響く。


 酒の匂いと汗の臭いが混じり合い、勝者と敗者の歓声と嘆きが交錯する空間だった。


 壁際の影に隠れるようにして、俺は静かにその様子を観察していた。


 まぁ、そりゃこういう場所もあるよな。

もちろん、彼らは未成年であり、表立って酒を飲むことは許されていないし、校内で賭博をすることなど許されているはずもなかった。


 つまりは治外法権ということだ。

参ったな…。


 魔法学校の教師として派遣されたばかりの俺は、校内の情報を集めるために、こうした場所にも足を運んでみたのだが…。


 顔割れしちゃってるし、見つかると面倒だなと生徒の服装に変えて、更に顔も声を魔法で変えて中に入り、色々と情報収集をしていた。


 レオン=ヴァルハラ。

3年生で落ちこぼれと呼ばれている少年。

瘦せた体躯に、乱れた黒髪。

制服の袖が少し擦り切れ、目元に疲れた影が落ちている。


 彼は大博打に勝ったお金を握りしめて、必死に胸に抱きしめていた。


 周りを囲む男たちが、にやにやと笑いながら迫ってくる。


「おい、金は置いていけよ。『落ちこぼれくん』」


 レオンは顔を青ざめさせながらも、必死に後ずさった。


「…こ、これは…僕の金だ…」


 男の一人が手を伸ばし、彼の腕を掴もうとした瞬間——


「あんたら、何やってんの?」と割り込んだ。

「…誰だお前。なんか文句あんのか?」

「文句というか…何してんすか?これは彼のお金でしょ?脅して奪うとか良くないと思いますけど」

「あ?てめぇ」と、俺の胸ぐらを掴もうとしたその瞬間、「うわ!火事だ!」と後ろで騒ぐ声がする。


 そして、奴らが後ろを振り向いた瞬間、俺は彼を連れてその場から逃げ出したのであった。


 そうして、安全な場所に到着し、俺は変装を解いた。


「…あなたは…先生?」


 俺は軽く頷いた。


「そっ。初めまして、レオン=ヴァルハラくん。君と少し話がしたくてね」

「…なんで助けたんですか? 僕はただの落ちこぼれで…。助ける価値なんてないのに…」


 俺は静かに答えた。


「君の魔力を見たけど、魔力の総量で言えば全然落ちこぼれなんかじゃない。総量だけならあのシュナにも匹敵しているはずなのに、落ちこぼれと呼ばれているのには何か理由があるのかな?」


 レオンは目を丸くした。


「…はい。僕の中には…悪魔がいるんです」

「…悪魔?」

「…はい。これは我が家に代々引き継がれてきた悪魔で…。未来を予測する悪魔…別名:ラプラスの悪魔…と言います」

「ラプラスの悪魔…か」


 前世で聞いたことがある。

確か「全宇宙の全粒子の位置と運動量を把握し、計算できる知性を持つ存在」とか言われていた。


 つまり、全ての運動を予測できる存在がいるならそれはこれから起こるであろう未来を全て予測できる存在、つまり完全な未来を予測できるものであり、それをラプラスの悪魔と名付けた。


「なるほど。制御はできないの?」

「…10代引き継がれて来ましたが、こいつを制御できたのは初代だけです。いつか現れるであろう悪魔を従える存在のために、代々長男にこの悪魔を委ねて来たのですが…。僕は絶対にそんな存在では無いですから…早く…息子を産んでこの悪魔を譲りたいんです」と、そう言われた。


 なるほど…。

この魔力総量で落ちこぼれと言われているのはそういうことか。


 それに校長が言っていた生徒というのも彼で間違いないだろう。


「…よし、じゃあ先生がその悪魔の制御の仕方を教えてあげよう」

「…え?」


 こうして、俺はこの子を次代特級魔法師とするべく、育成を始めるのであった。

 

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