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17年間実力を隠してスローライフを謳歌してたが、うっかり王女様を助けてから勝手に成り上がり人生が始まった  作者: 田中 又雄


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魔法学校

 魔法学校「アカデミア・ルミナス」の正門をくぐった瞬間、俺は静かに息を飲んだ。


 広大な敷地に広がる白い石造りの校舎群は、まるで巨大な城塞のようだった。


 中央の塔は空を突くほど高く、塔の頂上には巨大な魔力結晶が淡く輝いている。


 周囲の庭園には、様々な属性の魔法で育てられた花々が咲き乱れ、風が吹くたびに微かな魔力の残響が空気を震わせた。


 生徒たちは制服姿で忙しく行き交い、空中を浮遊する者、掌に炎を灯して練習する者、氷の結晶を操る者など、至る所で魔法の気配が満ちていた。


 世界でも有数の魔法学校。

国家魔法師を何人も輩出し、火・水・風・土・光・闇、属性だけでなくその他の各分野で特出した才能が毎年数人現れる場所。


 質の高さは世界的にも注目を集め、国外の王族や貴族が子息を預けるほどだった。


 そんな場所に、教師の経験もない17歳の男爵家三男が、いきなり派遣された。


 俺は校門をくぐり、職員室へと向かった。


 職員室の扉を開けた瞬間、部屋の空気が一瞬で冷たくなった。


 数十人の教師と職員の視線が、俺に集中した。


 誰もが一瞬、手を止め、冷ややかな目で俺を値踏みする。


 17歳の若造が、国王直々の命令で臨時教師として送り込まれたからだ。


 しかも、男爵家の三男で、過去に俺はこの学校を受験して不合格になった記録がある。


 高給取りで、優秀な人間しかなれない教師の座に、コネ一つで入ってきた少年。

——そんな目で見られているのは、はっきりとわかった。


 誰かが小さく舌打ちする音が聞こえた。

別の教師が、書類を乱暴に閉じて立ち上がる。

部屋全体が、無言の拒絶に満ちていた。


 俺は表情を変えず、軽く頭を下げた。

すると、奥から年配の女性職員が近づいてきた。


「リグゼ様ですね。校長がお呼びです。すぐに校長室へ」


 彼女の声も、事務的で明らかに冷たかった。

校長室の扉を開けると、そこにいたのは、この国で3人しかいない元特級魔法師の一人——ガルド=エレノア校長だった。


 白髪を後ろでまとめ、深い青いローブをまとった初老の男は、机の向こうで静かに俺を見つめていた。


 世界的にその名を知らない者はいないほどの魔術師。


 第一線を退いた今も、魔法界の伝説として語り継がれている男。


 校長はゆっくりと口を開いた。


「ようこそ、アカデミア・ルミナスへ。 国王様の命令であなたを臨時教師として招いたわけですが……正直、私はあなたには教師は務まらないと思っています」


 ストレートな言葉だった。

俺は静かに頷いた。


 校長はため息をつき、椅子に深く腰を下ろした。


「あなたはまだ17歳。最上級生はあなたより年上です。しかも、過去にこの学校を受験して不合格になった記録がある。きっとすぐにその事実もこの学校で広まるでしょう…。この学校は歴史も長く、優秀な魔法師を毎年輩出しており、文化も伝統もある。そんな学校に、コネ一つで教師として入ってくるなんて、前代未聞です。生徒たちも、教師たちも、到底受け入れられるわけがない。だから、私は君に一つ条件を突きつけたい」


 校長の目が、鋭く光った。


「この学校で一番優秀な生徒と、模擬戦をやってもらいたい。勝つことは不可能でしょうが、せいぜい教師としての実力程度は見せてもらいたい。もし、それで実力が達していないと思った場合には自主的にこの学校を辞めていただきたい。もちろん、嫌だというなら魔法で強制してもいいのですがね」


 俺は内心で小さく笑った。


 近く、戦争が迫っている。

実力を隠し切ることは、恐らくもう難しい。

だからこそ、ここらで自分の力を少し見せるのも悪くない。


 しかも、その舞台が模擬戦なら、絶好の機会だ。


 校長は俺の表情を観察しながら、続けた。


「構いません」

「…そうですか。相手の名前は、シュナ=ハイゼンブルグ。 現在5年生。聞いたことはありますか?別名『冷酷無比な氷の女王』。 たとえ赤子であろうとも容赦なく叩き潰すと噂の、強いがヤバい女だ。彼女と試合をしていただきたい」


 その名前は俺も知っていた。

次代の特級魔法師と呼ばれ、氷魔法の才能は国内でトップクラス。


 容赦のない性格で、対戦相手を完膚なきまでに叩き潰すことで有名だった。


 校長は、俺が怖気付くのを待っているように見えた。


 しかし、俺はあえて微笑んで答えた。


「ぜひ、お願いします」


 校長の目が、わずかに見開かれた。

俺は心の中で静かに決意した。


 ここで、少しだけ本気を見せよう。

 戦争が近づいている今、隠し続けるのは限界だ。


 そして、この模擬戦は、そのための最高の舞台になる。


 職員室に戻ると、教師たちの冷ややかな視線が再び俺に集中した。


 しかし、俺は気にせず、校長から告げられた模擬戦の日程を頭に刻んだ。


 これから、この魔法学校で教師として過ごす日々が始まる。


 そして、その先に待つ戦争の影——

すべてを、俺は静かに受け止めていた。


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