他国の動向と魔法学校への派遣
とある国の王宮の会議室は、重苦しい空気に満ちていた。
それぞれが威厳と嘲笑と欺瞞と慢心をしながら睨み合っていた。
最悪の空気…であることは間違いなかった。
「それで…?我々を呼び出して何の用ですか?まさか、お茶でもしようなんて話ではないですよね?」
「バーゼル殿。何をそんなに焦っておられるのですか?別に私はお茶をするだけでも構いませんよ?それくらいの余裕はありますから」
「おやおや、シュラルカ殿…それは本当ですか?とある噂を耳にしたのですが…今年は作物が不作とのことで、相当に経済的に余裕がないと。お茶も飲めないほど貧しいからお茶をしたいのでは?」と、国同士のトップが醜く言い争う。
そんな中、ベルド国の王であるガイルが一言言い放つ。
「つまらない言い争いをしに集まってもらったわけではない。私達は同盟関係にあるのだ。その敵意は奴らに向けてもらわねば」
「…」「…」
と、沈黙が流れてから、咳払いしてから話を始める。
「さて、君たちに集まってもらったのは他でもない。我々は近々戦争を仕掛けるつもりである」
◇
大きな円卓の周囲に、国王、ヴァルド騎士団長、ラルフ様、そして俺が座っていた。
窓の外では、夕焼けが王都の塔を赤く染め、遠くの街並みをぼんやりと照らしている。
部屋の中は、燭台の炎が揺れるだけで、誰もが言葉を控えていた。
ヴァルドが、厳しい顔で口を開いた。
彼の声は低く、しかし緊張を孕んでいた。
「先ほど、国境の斥候から緊急の報告が入りました。ベルド王国が、周辺の小国数カ国と秘密協定を結んだようです。目的は……我が国への共同侵攻。すでに国境付近に兵力が集結し始めています。斥候の報告によると、ベルドの主力魔法師団も動いているとのことです」
国王の顔が一瞬、険しくなった。
髭を撫でる手が、わずかに止まる。
ラルフ様が青い瞳を細め、静かに言った。
「ベルドが……本気で動く気なのですね。これまで表向きは友好を装っていたのに……」
ヴァルドは頷き、円卓に広げた地図を指で示した。
「このままでは、数週間以内に戦争が始まる可能性が高い。私は騎士団を総動員し、国境防衛の作戦を立てたいと思います。そこため王位継承の一件は一度中断し、まずは王国全体で戦争に備えるべきです。国境の要塞を強化し、友好国への連絡も急ぎます」
その提案に、国王はゆっくりと頷いた。
「うむ……そうだな。国がなくなっては国王の座など意味もない。まずは国を守ることを優先する。お前らもそれで良いな?」
しかし、その瞬間、部屋の隅に座っていたミリア様が、冷たい声で立ち上がった。
「待ってください、父上。私は反対ですわ。王位継承を中断するなど、愚策に過ぎません。今こそ、三姉妹で明確に王を決め、王国を一つにまとめるべきです。国の方針がバラバラではいざ戦争が始まったら、内部での分裂が致命傷になりかねない。だからこそ早急に王位を決め、強い指導者の下で一致団結するべきです。それこそ王国を守る最善の道です」
ミリア様の赤い瞳は、冷静で、しかし強い意志を宿していた。
もっともらしい理由だったが、誰もがその裏に別の意図を感じ取っていた。
恐らく彼女が王位を継ぐこととなれば、この戦争はあっさりと負けることになるだろう。
だって、彼女はそちら側の人間なのだから。
国王は眉を寄せ、静かに言った。
「ミリア……お前の言うこともわかる。しかし、今は外敵の脅威が目前だ。まずは戦争に備えよ。それが私の王としての最後の命令だ」
ミリア様は扇子を優雅に閉じ、静かに立ち上がった。
「……わかりました。では、私はこの戦争には参加いたしません。ご自由にこの国をお守りください」
そう言い残し、ミリア様は部屋を出て行った。
扉が閉まる音が、会議室に重く響いた。
国王はため息をつき、残った者たちを見回した。
ミリア様が従える戦力はそれなりにある。
それが全て参加しない、もしくは自衛のみとなるといよいよ戦力不足である。
「仕方ない……ミリア抜きで進めるしかないな。ヴァルド、まずは近くの友好国に連携を図り、情報収集を強化を頼む。それから自国の魔法師団を集め、戦争の準備を急ぐ。ヴァルド、お前が指揮を執れ」
ヴァルドは頷き、俺の方を見た。
「リグゼ……お前の力は大きい。この国の最大戦力は恐らく私だけだと思われているはずだ。そこにお前が加われば防衛は十分に可能だ。しかし、それは防衛に回った場合だ。防衛だけだと戦争に勝利しても得られるものはない。反撃するために…一つ提案がある。魔法学校の教官として、派遣されて欲しい。そこで使えそうな学生魔法師をいくつか揃えて即戦力に仕上げてほしい。お前なら、それができる」
俺は静かに頷いた。
「わかりました。ラルフ様とエルザ様の護衛を続けながら、任務を遂行します」
国王が最後に、静かに言った。
「王位継承は……戦争が終わった後に決着をつけよう。今は、この国が生き残ることを優先する」
王宮の日常は、表面上は変わらないまま。
しかし、裏では戦争の影が、急速に近づいていた。
そして、すぐに俺は魔法学校への派遣が決まった。
これから、教師として若手魔法師を鍛えながら、王国を守るための準備を進めることになるのであった。




