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17年間実力を隠してスローライフを謳歌してたが、うっかり王女様を助けてから勝手に成り上がり人生が始まった  作者: 田中 又雄


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エルザの日常

 金髪が乱れ、ネグレジェの肩紐がわずかにずれている。

彼女の瞳に、初めて本気の恐怖と動揺が浮かんでいた。


「……リグゼ……」


 声が震えていた。

エルザ様はベッドから降り、俺の胸に近づいてきた。

震える指が俺の服を強く掴む。


 頰が赤く染まり、目が潤んでいる。


 しかし、すぐに我に返ったのか。彼女はすぐに顔を背け、体から離れる。

そして、いつものお嬢様口調になる。


「ふん……勘違いしないでくださいませ…。あなたは私の護衛なわけで…これは…当然のことをしただけ…。私のような者が、ただの護衛ごときに感謝するなんて……」と、相変わらず頬を赤くしながらそんなことを言う。


 そう言いながらも、彼女の指は俺の服の袖を離さないし、震えはまだ止まっていない。


 エルザ様は唇を噛み、視線を逸らしていた。


「…そんなことより、こいつらのことを調べないと…って、もうほぼ灰になっちゃったけど」


 ラルフ様の方には分身を透明化して置いているが、動きはない。

ということは…エルザ様だけを狙った…?

なんだかよくわかんねーな…。と、頭を掻いていると、ベッドに倒れ込むエルザ様。


「きょ、今日は特別に…//私のベッドに入って良くてよ…?//け、けど、私の体に指一本…いえ…まぁ…あなたも男性ですし?ラルフとはそういうことはしていないのでしょうから…その…まぁ…少しくらいなら触れてもいいですけども…//」と、添い寝を提案してくる。


「…既婚者の王女様に手を出す護衛なんていないと思いますが。ベッドの側にはいるのでご安心を」

「なぁっ!?//…こ、この私がそばにいなさいといってるんですから、それに従いなさい!!」

「はぁ…じゃあ、俺の聖剣という名の息子が暴走しても王女様が慰めてくださいね」

「…聖剣?息子…?」と、本当に不思議そうな顔で見てくる。


 この時代の王女に伝わるわけもないか。


「とりあえず、近くにはおりますので、安心で眠ってください」

「…わかった…わ…」


 俺は仕方なくベッドの端に腰を下ろし、部屋の出入り口と窓を警戒し続けた。

すると、俺の手を掴むと「…昔はよく…こうしてお父様と寝てたから…//その…手だけでも貸しなさい」と、言われる。


「はい、お好きに使ってください」



 ◇


 翌朝、エルザ様と共にとりあえずラルズ様に夜に起こったことの説明と、ことの顛末を伝えた。


「…そう。そんなことが…」と、少し頭を悩ませる。


「…それで?なんでお姉様と手を繋いでいるんですか?」と、睨むようにそう言われた。


「い、いやぁ…これは…」

「わ、私の護衛ですし…昨日あんなことがあったばかりだから…//」と、髪をいじらながらそう言っていた。


「…そうですか…」と、見えない角度で足を踏まれた。


 それから、その後は国王やミリア様にも昨晩のことを伝えた上で、エルザ様の護衛として本格的に支えることとなった。


 朝の執務室で、彼女はいつものように彼女の横柄な声が響いていた。


 執事が紅茶の温度を少し間違えただけで、エルザ様は冷たい視線を投げかけた。


「これ、少し冷めてるじゃない。はやく作り直して」

「はっ!し、失礼しました」

「あなたのような下賤な者が、私の時間を無駄にするなんて許されませんわよ」


 それからメイドが頼まれていた書類を少し遅れて持ってきたときも、同じだった。


「…遅いわ。何をやらせてもあなたはダメな。あまりにも無能だと、家族もろともこの国では生きていけないと思いなさい。次は許しませんわよ」

「は、はい!失礼しました!」


 しかし、俺が部屋の隅に立ちながら、そんな姿を眺めていると、チラッとこちらを見る。


 それから2人きりになると、指を使って俺を呼びつける。


「…どうされました?」

「…肩を…揉みなさい//」

「…え?はぁ…」と、仕方なく肩を揉む。


「痛い痛い痛い!!何してんの!?力加減を考えなさい!!」

「え?…ラルフ様にはいつもこのくらいでやっているので…」

「…あの子の肩を揉んでるの?」

「まぁ、たまに。肩が凝りやすいらしいので」というと、自分の胸に目をやるエルザ様。


「私も…それなりには凝るのよ」

「…さようでございますか。では、加減しながらやるので、ちょうど良いところを教えてください」と、肩揉みもをされるのであった。


 昼食になると、他国の貴族と情報交換を兼ねた食事会が行われた。


 相変わらずの上から目線で、向こうに対しても鼻で笑うような態度で接していたが、俺をちらっと見ると、少しだけ態度が柔和した気がした。


 第一王女の仕事は基本的には城の中のみだが、それでもかなり慌ただしいものだった。

まぁ、王位継承の件もあるため慌ただしいのは当たり前か。


 そうして夜になると彼女はまた「…怖いですわ。今夜も……そばにいてくださいますか?」と言ってきた。


「護衛ですからもちろん」

「…そう…//…ありがとう…//」


 それからポツリと小さく呟いた。


「…自由に誰かを好きになれる人生だったら…良かったのに」

「…今からでもいいのでは?王位継承から降りて終えば自由になれるでしょう」

「…王位継承から降りるつもりはないわ」と、鋭い目でそう言われた。


 王宮の日常は、表面上は変わらないまま。

裏では、ミリアとの綱引きと、エルザの心の揺れが、静かに続いていた。

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