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17年間実力を隠してスローライフを謳歌してたが、うっかり王女様を助けてから勝手に成り上がり人生が始まった  作者: 田中 又雄


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13/21

嘘とブラフ

 ヴァルド団長との連携が決まったその夜、王宮は表向きの平穏を装いながらも、内部では静かな緊張が張りつめていた。


 国王の容態はようやく安定し、侍医団が「あと数日で完全に回復するでしょう」とのことだった。


 城下町の噂も「ルビルの自殺」で徐々に収まりつつある。


 しかし、ヴァルドと俺は知っていた——

これは単なる幕引きなどではない。


 ルビルの死は、自殺を装った誰かの手によるもの。

そして、その背後には国内の権力争いだけでは片づかない、もっと大きな影が蠢いている可能性がある。


 深夜二時を回った頃。


 俺たちは王宮の西翼——ミリア様の私室がある区画へ向かった。


 赤い絨毯が敷かれた長い廊下は、夜の静けさに包まれ、壁に掛けられた歴代王の肖像画が松明の灯りにぼんやりと浮かび上がっている。


 足音を殺し、ヴァルドが先頭に立ち、俺は透明化魔法をかけながら彼のすぐ後ろを歩いた。


 ヴァルドは騎士団長の権限で「夜間巡回」を装い、巡回中の衛兵に軽く会釈をしながら進む。


 私室の扉の前で、彼が小さく手を挙げて合図した。


「警備の交代まであと5分。急げ」


 俺は透明化のまま扉に触れ、魔力を細く流し込んだ。


 鍵穴に微かな光が走り、カチッという小さな音とともに錠が外れる。


 ヴァルドが素早く扉を押し開け、二人で中へ滑り込んだ。


 部屋は、昼間に見た時よりもさらに重厚で妖しい雰囲気を帯びていた。


 天井から吊るされた赤いシャンデリアは今は灯りが落とされ、月明かりだけが窓から差し込んでいる。


 大きな天蓋付きベッドの横には、金の装飾が施された机と、壁一面を埋め尽くす書棚。


 空気には甘い香水と、古い紙の埃っぽい匂いが混じり、どこか他国の宮廷を思わせる異国情緒さえ感じられた。


 ヴァルドはすぐに机の引き出しを一つずつ開け始め、俺は書棚の奥を慎重に調べた。


 本の背表紙を一本一本確認しながら、魔力を細い糸のように伸ばして部屋全体の魔力流れを読み取る。


 すると——


 書棚の最上段、飾り棚の裏側に、わずかな魔力の歪みを感じた。


 普通の人間なら絶対に気づかないレベルの、極めて巧妙な隠し棚だった。


 俺は手を伸ばし、棚板の端に魔力を集中させた。


 パチッ、という小さな音がして、隠し引き出しがゆっくりと飛び出した。


 中に入っていたのは、古びた羊皮紙の束と、数枚の封蝋付きの手紙だった。


 ヴァルドが息を飲んだ。


「これは……」


 一番上の羊皮紙を開くと、10年前の日付が記されていた。


『王家魔力実験記録 被験者:孤児少女』


 ページをめくるたびに、詳細な実験内容が並ぶ。


 魔力抽出の過程、被験者の苦痛の記録、そして最終的な「死亡確認」の一行。


 実験の主導者欄には、はっきりと「ミリア=クラム」の署名があった。


 さらに下の頁には、実験資金の出所が記されていた。


「ベルド王国宮廷よりの援助金 総額:黄金五百枚相当」


 ヴァルドの顔が険しくなった。


「ベルド……我が国と国境を接する大国。 表向きは友好国を装いながら、裏では常に王国の勢力を削ごうと画策している国だ。ルビルの妹を犠牲にした実験に、他国の金が流れていたということは……」


 俺はさらに羊皮紙を解析した。


 紙の端に残る微細な魔力痕跡を、極限まで集中して読み取る。


「ベルド王国の宮廷魔術師特有の、独特の残響が混じっています。波長の乱れ方から見て、単なる資金援助ではなく、実験の設計段階からベルド側が関与していた可能性が高い。つまり、ミリア様は国内の権力争いだけではなく、他国の勢力を利用して国王の力を削ぎ、王女を孤立させ、王国全体の基盤を弱体化させようとしていた……」


 ヴァルドは羊皮紙を丁寧に元の位置に戻し、隠し棚を閉めた。


「これで方向性が見えた。ミリア様は単独犯ではない。ベルド王国が背後で糸を引いている……王国の勢力を内側から崩すための、長期的な謀略だ。ルビルの死も、その一部に過ぎないのかもしれない」


 俺は静かに頷いた。


「ルビルの妹を犠牲にした実験が、ベルドの魔力技術向上に利用されていたとしたら……。国王を弱らせることで、王国全体の魔法戦力を低下させ、国境紛争で有利に立とうとしていた可能性があります。ミリア様はその窓口だった……」


 部屋を後にする際、ヴァルドが低く呟いた。


「これ以上、ミリア様を野放しにはできない。私はこれから騎士団の監視網を強化する。 お前はラルフ様の側を離れるな。この城の闇は、国内だけでは終わらない……ベルドの影が、すでにここまで忍び寄っている」


 そうして、部屋を出ようとしたところ、電気がついてそこにはミリアがこちらを見ながら座っていた。


「あらあら、ネズミは1匹だと思っていたけど、まさか2匹…それも大物ね」と、不適な笑みを浮かべた彼女がいたのだった。


 なぜ…透明化している俺たちを…まっすぐ見つめながらそう言っているのか。


「魔眼を持っているのが本当にラルフだけだと信じていたのなら、本当に滑稽ね」と、その瞳でこちらを見つめてきた。


 元々赤い目…だと思っていたが…まさか…常時魔眼を発動していたということか…?


「さて、どうしましょうか?」

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