暗殺と策略
ルビルが逮捕されてから、王宮の空気は重く淀んだままだった。
城内ではルビルの事件が連日話題に上り、誰もが不安げな顔をしていた。
しかし、本当の嵐は城下町に吹き荒れていた。
市場の朝市では、いつもの活気が少しずつ失われていた。
パン屋の店主が、声を潜めて客に囁く。
「聞いたか? メイド長のルビルが、王様に呪いをかけていたらしいぞ……10年も前から、毎日少しずつ……」
果物屋のおばさんが、首を振りながら声を大きくする。
「孤児上がりの分際でなんて恐ろしい!王殺しの血筋だわ!
子供たちがとある路地裏で家に向かって石を投げていた。
そして、「裏切り者の親!」「王殺しの家族!」という落書きが、ルビルの実家である古い木造の家の壁にびっしりと書かれていた。
ルビルの両親——父親は元鍛冶職人で今は引退し、母親は近所の洗濯仕事をしていた——は、すでに店を畳まれ、食料を買うこともできなくなっていた。
夜になると石が窓に投げ込まれ、母親はガラスが割れた部屋で震えながら毛布にくるまっていた。
父親は「もうここにいられない……」と何度も呟き、母親を抱きしめていた。
俺とラルフ様は城下町に出向きながらその様子を見守っていた。
表向きには行動を起こしていなかったが、可能な限りその動向を見守っていた。
そんな日々が、二週間続いた。
牢屋では、俺とラルフ様がルビルと何度も面会した。
最初の一週間は、ルビルはただ鉄格子を見つめたまま沈黙を守っていた。
何を聞いても答えず、何も話すことなかった。
二週目に入ってからも、「理由はもう話したはずです。真犯人なんていません」とだけ繰り返す。
ラルフ様が何度も食事を運び、声をかけても、ルビルは目を伏せたままだった。
そして、逮捕からちょうど二週間目の夜。
ルビルは、初めて自ら口を開いた。
鉄格子の向こうで、彼女は静かに言った。
「……両親を助けてくれれば…話します。一時的に城で匿い、その後に他国へ逃がしてください。それが私の条件です」
その言葉を聞いた瞬間、俺たちは即座に作戦を立て始めた。
ラルフ様の部屋で、地図を広げて何時間も話し合った。
「抜け道はここ……夜中の三時頃が一番人目につかない」
「透明化と分身を同時に使って、両親を安全室へ運ぶ」
「数日後、他国行きの馬車を手配して送り出す」
俺はルートを何度も確認し、ラルフ様は「両親を説得するのは私に任せて」と決意を固めた。
作戦決行は、翌日の深夜。
王宮の裏門から出た俺とラルフ様は、透明化の魔法をかけながらルビルの実家へ向かった。
古い木造の家は、灯りが完全に消えていた。
しかし——
家の中に、複数の魔力反応があった。
顔を黒い仮面で隠した魔法師が五人。
一人は母親の首に短剣を突きつけ、もう一人は父親の胸に杖を向けていた。
低く抑えた声が聞こえた。
「こいつらを殺せ。証拠をすべて消す」
その瞬間、俺は封印を一気に解除した。
風の刃が夜の闇を切り裂く。
数秒で三人を斬り捨てた。
血飛沫が壁に飛び散り、床が赤く染まる。
しかし——
隠れていた他の魔法師が、ラルフ様の背後に現れた。
「王女を殺せ!」と、生き残りの2人が叫ぶ、
そして、短剣が振り下ろされる。
その瞬間、俺は全ての力を使い、ラルフ様の背後に立った男を殺した。
しかし、その隙をついて生き残りの魔法師がルビルの父親と母親の胸を同時に刺し貫いた。
「…しまった!!」
完全に隙をつかれた。
そのまま両親の体が、ゆっくりとくずれる。
視覚強化、聴覚強化、魔力感知を極限まで高め、時間さえ遅く感じる領域へ突入。
逃げようとする2人を風の神速で魔法師の首をはねて、同時に炎の矢でもう1人の魔法師の心臓を焼き貫いた。
二人の体が灰になるまで、ほんの二秒もかからなかった。
そのままラルフ様を抱き寄せながら周りを警戒する。
だが——
しかし、ルビルの両親は、すでに息絶えていた。
母親はまだ目を開けたまま、父親は短剣を握ったまま倒れていた。
「…くそっ…!!」
治癒の魔法をかけるが完全に死んでいるため、治癒の魔法は永遠に不発する。
「治れっ!!治れ!!」
この世界に来て初めて本気でやって失敗した。
…そう…最初からラルフ様を抱えながら戦っていれば…いや、力を抑えるなんてことをしていなければ…。
血の臭いが部屋に充満する中、俺たちはしばらく後悔の淵に立たされた。
ルビルとの交渉材料を失ったとかそういうことに嘆いているわけではない。
罪なき人間を救えなかったのが悔しくてたまらなかった。
それから、亡骸を魔法で丁寧に包み、城へ連れ帰った。
帰り道、ラルフ様と言葉を交わすことはなかった。
ご遺体を安全な場所に移してから、ルビルこの事実を伝えるべく、2人で向かっていた。
なんて言葉をかけようかと、何度も考えながら…いつの間にかたどり着いていた。
しかし——
牢屋に着いた瞬間、異変に気づいた。
ルビルが、鉄格子の中で倒れていた。
首に深い切り傷。
血だまりが広がり、すでに体は冷たくなっていた。
誰かに殺されていた。
その時、牢屋の奥からゆっくりと足音が近づいてきた。
赤髪を優雅に揺らし、冷たい微笑みを浮かべたミリアが立っていた。
「ふふ……残念ね。ルビルったら、自殺しちゃうなんて…」
彼女の瞳には、一切の動揺がなかった。
ただ、すべてを計算し尽くした勝利者の笑みだけがあった。
王宮の闇は、まだ深く、静かに蠢いていた。




