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17年間実力を隠してスローライフを謳歌してたが、うっかり王女様を助けてから勝手に成り上がり人生が始まった  作者: 田中 又雄


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犯人と自白

 王宮の朝は、いつもより重く感じられた。


 国王の容態は安定したものの、回復は遅く、侍医団は「もう少し時間がかかる」と繰り返すだけだった。


 俺とラルフ様は、昨夜の結論を胸に、今日こそルビルを追い詰めるつもりで動いていた。


 夕方、ラルフ様がルビルを自室に呼び出した。


 扉が閉まり、俺は透明化を解いてラルフ様の隣に立った。

ルビルは黒髪を耳にかけ、いつもの無表情で頭を下げた。


「ルビル。お呼び立てして悪かったわね。でも、今日はどうしても聞きたいことがあるの」


 ラルフ様は静かに、しかしはっきりと切り出した。


「お父様にかけられていた呪い……あなたがやったんでしょう?」


 ルビルの瞳が一瞬だけ揺れた。

だが、すぐに平静を取り戻し、淡々と答える。


「……何をおっしゃっているのですか、お嬢様。私がそんなことをするはずがありません」

「嘘をつかないで」


 ラルフ様の青い瞳が赤く変わった。

魔眼がルビルの全身を貫く。


「毎朝の紅茶に、あなたの魔力が混じっていた。すでに魔力の調査も終わっているし、目撃者もいる。あなたが魔力を練り込んでいたところを見たという人もね」


 ハッタリだった。

結局、確信を持てるほどの証拠はなかった。

だから、これができる上で最大のハッタリ。


「…知らないです」

「ここで嘘をつくなら、あなたとあなたの家族にも被害が及ぶことになりますよ」


 ルビルは唇を噛んだ。

沈黙が部屋を満たす。


「…わかりました。観念します」


 彼女はゆっくりと膝をついた。

黒いドレスの裾が床に広がる。


「はい。私です。陛下に呪いをかけていたのは私です」


 ラルフ様の息がわずかに乱れた。


「理由は?」


 ルビルは顔を上げ、静かに語り始めた。


「10年前……私の妹が、陛下の命令でとある魔力実験の犠牲になりました。『王国の未来のため』という建前で、魔力を抜き取られ、最後には死にました。その時は理由を教えられませんでした。ただの事故だったの。そして、偶然ここに勤めることとなり、その中である実験についての結果報告書を私は見てしまった。それからはもう止められなかった。陛下は『仕方なかった』と一言だけ言って、私に黙秘とこれからも忠誠を誓うように命じました。それ以来、私は毎朝、陛下の紅茶に呪いを混ぜ続けた。ゆっくり、確実に、心臓と脳を蝕むように。さいごは死んだ妹と同じ末路を辿るように」


 俺達は黙って聞いていた。

前世の映画で見たような、静かな復讐の告白だった。

まぁ、あの男がやったことは決して許されることではない。


 特に俺なんかは何の恩恵も受けてないし、正直死のうが生きようがあまり関係ないと言えばなかった。


 むしろ逆の立場なら俺でも同じことをしていただろうという共感しかなかった。


「でも、バレてしまった」


 ラルフ様の声は低かった。


「そうですね」

「けど…なぜ、私に濡れ衣を着せなかったんですか?その方がよっぽどあなたに勝算があったはず。黙秘を貫いた理由は何ですか?」

「決まってます。…お嬢様は陛下とは違う方でした。民のために街を歩き、子供たちにパンを分け、病気の奥様の看病し続けた。私は……お嬢様こそ次期王座に相応しいと考えていました。

エルザ様もミリア様も、陛下と同じく冷酷です。

お嬢様なら、違う王国を作れるかもしれないと……だから、陛下を弱らせつつ、お嬢様を守るために動いていました」


 ラルフ様は目を伏せた。


「…そうね。私も父には恨みがある。けどね、それでもどんな人間でも、殺していい理由にはならない」


 彼女の声は静かだった。

父思いというより、ただ「人間として許せない」という冷徹な響きがあった。


「私は父を恨んでいるわ。母を苦しめ、私を道具のように扱い、娘を競わせてきた。けど、それで父を殺せば、私は次のあなたに…いや、むしろ姉2人はあなたと同じになるだけ。そして、復讐の連鎖は繰り返させるの」


 ルビルはゆっくりと立ち上がり、両手を差し出した。


「…はい。もう…覚悟は決まってます。どうぞ。お縄を願います。陛下が生き延びてしまった以上、私の復讐は失敗です。この世に悔いはないです」


 ラルフ様は魔眼を解き、静かに頷いた。


「ヴァルド団長を呼ぶわ。あなたを拘束する」


 俺が扉を開けると、すでに廊下で待機していたヴァルドが数名の騎士を連れて入ってきた。


 ルビルは抵抗せず、手を差し出して縄を受け入れた。

連行される間、彼女は一度だけラルフ様を振り返った。


「お嬢様……どうか、気をつけてください。

この城には、まだ……」


 言葉の続きは、扉が閉まる音にかき消された。


 部屋に残された俺とラルフ様。


 ラルフ様はベッドに腰を下ろし、長い青い髪を指で梳いた。


「……終わった、の?」

「一応はね。でも、ルビルが言いかけた言葉が引っかかる」


 俺は窓辺に立ち、夜の王都を見下ろした。


「『この城には、まだ……』か。ルビルは単独犯じゃなかった可能性が高い。誰かに脅されていたか、協力者がいたか……」


 ラルフ様は小さく息を吐いた。


「そうですね」


 彼女は立ち上がり、俺の隣に並んだ。


「リグゼ様。これからも……一緒にいてくれますか?」


 俺は彼女の青い瞳を見返した。


「当たり前だろ。護衛なんだから」


 ラルフ様は小さく微笑んだ。

でも、その笑みにはどこか寂しさが混じっていた。


 ルビルの逮捕で、一つの闇は暴かれた。

だが、王宮の奥には、まだ見えない影が蠢いている。


 夜は深まり、王都の灯りが遠くで揺れていた。

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