第二二曲 情報交換
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「……それで、逃げてきちゃったんだ」
「ダサ」
「るっさいわ望月!!お前みたいに強い心は持ってないの俺は!!」
BLACKCATにて盤理は二人を呼び出し会議を行っていた。
俺はフライドポテトとコーラ。
冴夜歌は呆れた視線を向けながらアイスコーヒーを飲む。
カミヤに関してはたっぷりメープルシロップがかかったホットケーキを食べている。
女子か? っと突っ込むのはやめておくと、カミヤは小さく頷く。
「……気持ちはわかるよ。ギャルの子たちがいる空間に立ってられないよね……緊張するもん」
「カミヤ……っ、お前だけだよ! 俺の気持ち分かってくれるのぉ!!」
「単純に女子の免疫力が低いだけでしょバンが」
「るっせぇ!! で、俺はベース担当は宇出流石先輩がいいと思うわけだよっ」
「……なんで?」
的確な罵倒を盤理にする冴夜歌の隣でホットケーキを食べながら守息は言う。
「ライブのベースの音、すっごく俺好みだったんだ。なんでも流石様って呼ばれてるらしい」
「……流石様? すごいあだ名だね」
「名前が流石って書くの?」
「おう、読み方はりゅうせきらしいぜ?」
「……それで流石様なんだねぇ」
「うでりゅうせき……ちょっと待って。もしかして、この人?」
望月はスマホをタップして俺たちにとある写真を見せる。そこに映ってたのは俺が見た流石ご本人だ。
記事もいくつか書かれてあり、新星高校生ベーシスト、宇出流石……といった記事が並んでいる。
「え!? あの人こんなスゴい人なの!?」
「みたい、フリーのベーシストとしてネット配信もしてる……どっかの誰かさんより再生数多いみたいだけど、私はアンタの曲の方が好き」
望月は自分のスマホを画面を見ながらきっぱりと言う。
思わず盤理は照れて、しどろもどろになる。
「な、なんだよ急に……」
「別に、ただ言っただけでしょ」
「……さっちゃんは本音以外言いたくない人だもんね、嘘をつくくらいなら黙る人だもん」
「カミヤ望月の解像度本当にそれで合ってるか?」
俺の知る望月は言いたい放題言う感じの性格だと認識してるんだが。
……まぁ、嘘をつく女じゃないのはわかるけど。
「……とにかく、今はそのナルシスト実名男をどうバンドに引き入れるかでしょ?」
「あ、待ってくれ。俺、その流石先輩のファン? の人たちとの連絡先ゲットしたんだ、ダーティレッドで」
「……バン君、がんばったんだね」
「おう、この場で今二人にもう一回色々聞こうと思うんだけど……どうする?」
盤理はスマホを見せて二人に意見を仰ぐ。
冴夜歌は顎に手を当てながら提案する。
「……なら、私の質問はその先輩の過去に関しては知ってるかと、ロックで一番好きな曲ね」
「……じゃあ、ベースの楽器はどこのを使ってる、とかかな」
「まあ、カミヤのは無難だな。望月のは予想してたけど」
「……何か文句ある?」
「いいえ、ありませーん……えーと? 流石先輩の過去とロックで一番好きな曲と使ってる楽器ね」
ひきつった笑みを零す盤理はタップしながらファンの二人に質問を投げかける。
数分も経たずにすぐに返信が返ってきた。
『え!? 大胆だね? バン君。流石君の昔のことは、ちょっとすぐには話せないかな。ほら、もうちょっと段階が必要? っていうか……あんまり知らない相手に自分の過去を話すのは流石君嫌がるだろうから』
「まぁ、そっちは予想してたけど」
「……さっちゃん、ダメだったね」
「ロックの曲次第では、ナルシスト実名男の評価の別れどころね」
「なんでお前偉そうなの? 本当によくないぞ?」
盤理はタップして、「じゃあ、楽器とどのロックの一番曲好きか教えてくれる?」と打つ。
『サスガが使ってる楽器は、WL4-AGED/RSMだよー?』
「……上級者向けのベースだね」
「そうね」
「え? 上級者なの? それ……よくわかんないんだけど」
俺の家が音楽禁止令を出されているのに楽器を買う余裕はない。
だからこそ、作曲アプリでいいな、と思った音で作曲しているので、有名なバンドとか、一部のアニメとかに出てきたことのある型番の楽器しか知らない盤理は二人は自分よりも音楽知識があるようだ。
「色違いでyoutubeに弾いてる動画があるけど……バン君は音だけならもう知ってるだもんね」
「うん、すっげぇいい音だった」
「……すっごいバンドのメンバーだったりしないの?」
「補欠的な感じなんだと……めちゃくちゃ創作意欲湧いてさぁ」
「それで? 好きな曲は?」
「あ、えっと、待った待った……送信、と」
盤理はタップして、「流石先輩の一番好きなロックは?」と尋ねる。
『ロックならぁ、クイーンのDRAGONATTACKって言ってたよー』
「……悪い男、ではないかもしれないわね」
「……さっちゃん、判断が早いかも」
「クイーンって何?」
「知らないの? イギリスの有名なロックバンドよ……アンタ、私の歌を聞いて音楽活動し始めたんでしょ?」
「そ、それはそうだけど……知り合いにロック関係の話できる奴いなかったから、その……」
「……ボッチ? って奴?」
「やめろカミヤぁ! 俺のメンタル抉るな!! 一番そういうデリケートなとこ、ストレートで投げてくる系男子かお前!!」
「……えっと、ごめんね?」
ダン、と力強く盤理は台パンをする。
ホットケーキをもぐもぐしながら食べる外見強面男のはずのカミヤが可愛く見えてくる幻覚はなんだ? 腹立つっ!!
「QUEENのDRAGONATTACKはQUEENの曲の中だったら中の下程度でしょうね」
「なんで中の下? QUEENって結構有名なバンドなんだろ?」
「……ベースがかっこいいから、一部のベージストは好きかも、って意味かな。ネットとかテレビ番組でもあまり定番としては扱われない曲だからそれぐらいって意味だよね? さっちゃん」
「えぇ、QUEENで有名ならkillerqueenとか、映画化もされたボヘミアン・ラプソディの方が定番よね」
「……うん。映画見たけどすごかったよね」
なんか、お互いに頷き合っている。
……俺、聞いたことないんだよなぁQUEENの曲。
ボヘミアン・ラプソディ……はなんとなくyoutubeのCMとかで見た気がするな。
後で聞いてみよう。
「へぇー……あ、でも俺家で見れないわ。音楽関係の奴は録画しようとしたら怒られるから」
「じゃあ、今度アタシの部屋で鑑賞会ね。バンには拒否権ないから」
「はぁ!? マジ!?」
「そうしてもらえると嬉しいな、俺の家だと難しいから」
「えぇ、明日になったら二階に上がって見るわよ」
「は? 二階? ……どこの」
「ここの二階」
「ここ?」
「BLACKCATの二階、アタシの部屋もあるからそこで見るって言ってるの……どんだけ鈍いのアンタ」
「はぁ!?」
盤理は目を伏せながらコーヒーを飲む冴夜歌を見つめる。
……コイツ、この店に住んでたのか。
それにしては苗字が二人と違うし、居候……ってことなのか?
たぶん、下手に聞いたら怒られそうだからそこのラインは踏まないけど。
「で? 他の聞きたいことがあるんじゃないの?」
「あのなぁ……!! まぁ、他に送るなら、好みの食べ物、とか? 仲良くなるなら話題としては悪くないだろ」
「好きなファミレスの食事、今食べてるから」
「……じゃあ、俺は睡眠時間何時まで寝てる? かな」
「安直だなお前ら……ちょっと待って、打つから……よっと」
タップして二人の出した質問を打つと4、5分経ってから困り顔の兎のスタンプが流れて来る。
ごめんね、と書かれてあり、下には返信がある。
『えっと、ちょっと用事あるから、まっ、またこんどねー!』
「……用事があるからまた今度、だってさ」
「じゃあ、また質問は今度ね」
「お、おう」
……なんだ、望月って意外と大人っぽい所もあるんだな。
最初に会った時はもっと強引で、わがままタイプだって思ってたのに。
「なら話は終わりね、二人はとっとと帰りなさい」
「はぁ!? 帰るって、まだ話は、」
「……さっちゃんは今日用事があるんだもんね」
「……えぇ」
望月は腕に手をやりながら小さい声で返す。
……なんか、変な空気が流れてる気がする。
二人しか知らない話、って奴か。まぁ、俺は望月のバンドの補欠? あるいは、本当にバンドメンバーになるわけじゃないんだしいいけど。
「……用事があるならしょうがないけどさ」
「……悪い?」
「いや、ダメって言ってねえじゃん」
「……そ」
アイスコーヒーを飲み終えた望月は席を立つ。
「それじゃあ、今日はここで解散。アタシは部屋に戻るから」
「……うん、さっちゃんまた明日ね」
「えぇ、バンもとっとと家に帰るのよ」
「言われなくても帰りますー! 行こうぜ? カミヤ」
「……うん」
カミヤは大量にさらに並べられていたホットケーキをぺろりと平らげていた。
……お前の腹はブラックホールかい、と突っ込みたくなる衝動を堪え盤理は帰宅することにした。




