第二三曲 ハジメテ映画鑑賞
後日、俺は流石先輩の情報収集を行いながら作曲を同時に並列活動していたわけだが。
「……本気で見るのか? 映画」
「でなきゃ意味ないでしょ?」
「だね。インスピレーションは何事もアウトプットが肝って言うし」
「……否定はしないけどさ」
Blu-rayをセットしながら望月は冷静に突っ込んでくる。
そう、ここはBLACKCATの二階、望月の部屋だ。
土日で集まった俺とカミヤは、床に各々自由に座っている。もちろん望月もだ。
女の子らしくないロックな雰囲気のある室内に望月は設定をしている。
床には青いペンギンのカーペットが敷かれており、テーブルには菓子類が並んでいた。
チョコレート、コーラなどなどetc……コイツが好きで食べているものばかり、という感じでなく一般的な友達が食べそうなジャンルの菓子やジュース類、だという印象だ。
「まぁ、正直助かる。俺んちは音楽関連は基本演歌以外厳禁だからさ」
「そ、映画鑑賞はとても有意義だって覚えるべきね。想像力が豊かにさせる手段の一つだもの」
……なんか自分の部屋だからって堂々とし過ぎじゃないか、コイツ。
コイツが始めた物語だろうに……俺は候補見つけただけで、実際にバンドメンバーの一人を確保したのは確かに望月の方だ。けど、なんか気に喰わない。
「……なんか、いいよね。こういうの」
「ん? どしたよカミヤ」
「だって、友達とこうやって映画を見て映画鑑賞するって……憧れだったから」
「? そういうもんか? 俺元々ボッチだったからよくわかんないわ。一人の方が気楽だったし……」
「……そっか」
「でも、意外と嫌ではないかもな。こういうのも」
「……バン君」
「ダサ」
「ぐさっと来る一言言わないでくんない!? というか、なんでダサいんだよ!?」
「自分の胸に聞いてみれば?」
「あんだとぉ!? お前もそういう言い方しかできない女だよな!? 大人になった時ぜってー後悔するぞ!?」
「興味ない」
「……ほら、二人とも。映画始めるよ?」
映画が始まると盤理は隣で菓子類は食さず、じっと無言で映像を見つめる。
菓子類を食べながら映像作品を見るのはよくないと、どこかのテレビ番組で言っていたからだ。
ボヘミアン・ラプソディ。
ブライアン・シンガー監督を務めている2018年の伝記映画だ。
日本映画とか、ドラマとか見たことがある俺で感じたのは日本の決まった人間ばかりが出て来ると思っていたら、その人物に合わせた俳優が当てられているように見える。
映画のエンドロールが流れ最後まで見終えると望月はリモコンで止める。
「……すごいな、海外って」
「私は海外映画好きだけど、最近の海外映画は好きじゃないわ」
「なんでだ?」
「ポリコレ意識し過ぎて、物語の色んな人間の自由性を殺してるから。色んな人間がいるから多様性と言う単語があるんであって、自分が抱いた激情の世界を晒して訴えられないのは……ロックじゃない」
「……お前、そこまで饒舌なキャラだったか?」
「アンタにわかりやすく言語抽出しただけでしょ。本当に馬鹿ね」
「ばっ……!!」
コーラを口にする望月は盤理には本音を口にしているのは目に見えてわかった。
いいや、世の中に感じている不満を歌で表現し言語化するシンガーを目指していないなら、たった一番でも俺の本音をかたどってくれたと錯覚なんて起こすことも無かったはずだ。
「人間って馬鹿な生き物なの。アンタも、私も。言葉にしないとそれ以上の理解も趣味趣向も区別をしようとせずに混同した理解を正当化しようとする生き物なのが人類ってカテゴリーされた存在でしょ」
「……難しいよね。人間って」
「だから、ロックはすごいの。どれだけ壁があろうがなかろうが、一度聞けば胸が震える……自分の感情を包み隠さずに月に向かって吠える、それがロックの魅力だって私は思う」
「……月に、ねぇ」
……詩的な例えだ。
カミヤが隣で小さく笑みを零す横で俺はコーラを飲む。
……まぁ、あの歌詞で感情の言語化を多少できる奴じゃなきゃ焼死体とかああいう言い回しが出てこないわな。コイツ不器用なのに自分が必要であれば自分の内面を言語化できるのは羨ましいとすら思える。
……それがもっと俺にできていたなら、母さんは俺の夢を応援してくれていたかもしれないと思えったら少しだけ羨ましくなる。嫉妬心に染まり切らないように盤理はコーラを半分まで飲んだ。
ポテチと食べる望月をじっと見つめる。
「……何?」
望月は無表情でこっちをじっと見つめて来る。
……望月は基本的に必要であれば探ることはしても、普段から相手の話を根掘り葉掘りは掘らないんだよな。だからカミヤとかも、たぶん外見気にしてるとこあるみたいだし。
お互いに気を使い過ぎる状況下に置かないようにしてる、っていったら望月を褒めすぎな気もする……俺的には望月を恋愛的目線よりも偶像崇拝? 的って言うか、クリエイターとかアーティストととかの尊敬よりは若干私情が入ってるのは自覚してる。
……あの時に、諦めさせてくれてたなら永遠の憧憬的存在のままだったんだけどな。
「なんでもない」
「そ」
「……じゃあ、感想会とか、しない?」
「マジ? 今からか?」
「だって、そのためにさっちゃんの部屋で映画見たわけだし……ロック好きな仲間同士で盛り上がる話題とか、憧れだったから」
「……そうね」
菓子を食べながら感想会を始まった。
「じゃあまず、俺の感想。主人公? のフレディって人は自分の名前変えたり、普通なら惰性で自分の名前変えないとかするのにさ……大変な人生だったんだろうなーって見て思った」
「ありきたりな小学三年生レベルの返答」
「いやっ、だって俺英語得意じゃないし!」
「英語は得意不得意あるけど、現代文と古文を完全理解できるのかと同じ意味よね」
「だよなだよな!?」
「……見直したけど、やっぱりボヘミアン・ラプソディはとってもいい映画だよね。俳優さんの演技とか、素敵だなって思う」
「あ、そうそう! 実際のバンドの曲をフルで使うとか、あんまり日本映画とかはないよな? 漫画の実写でもアニメで使用された音源とか使わないとかあったりするし」
「まぁ、それには同意見。リスペクトを感じられる作品は、誰だって高評価するのと同じでしょ……でもバンはもう少し英語を学習すべき。次の映画は日本語字幕で聞いてもらうから」
「はぁ!? マジ!?」
「……さっちゃんスパルタだねぇ」
「当然」
「はぁ!? でも俺んちでは音楽系の映画は見れないからな!? ここで見るなら問題ないと思うけど……海外映画とか、今回初めてみたから勝手わからんし」
「……じゃあ海外映画は今回初めて見たの?」
「ん? あぁ、まあそうなるわな……父さん死んでからは母さんに海外映画は全面的禁止されたから」
「……どうして? 友達と一緒に見る付き添いで、とかも言えたはずじゃない?」
「いや、俺友達いないって母さん知ってるし……下手な嘘ついても俺の場合バレるだけだし」
カミヤに盤理に首を傾げて言うのに、乾いた笑みを盤理は返す。
俺、昔から嘘が下手なんだよな。つこうと思っても結局相手に都合がいいような嘘しか言えないし。
「まぁ、初めて会った時のあれを上手く誤魔化せれなかったからこうなってなかったわけだしね」
「うぐ……っ、反論できん」
「アンタには都合が悪いと思っていようが、関係ない。私はアンタの音楽に惚れただけ」
「……望月」
……望月は照れもせず至極当然と言いたげに言い放った。
「……なら今度、俺のおすすめの映画のリストをまたさっちゃんの部屋で見るってのはどう?」
「まぁ、色々な曲に触れて衝撃を大量に受ける方が、いい曲ができる時はあるものね」
「え? ……どーゆうこと?」
盤理は首を傾げるのにカミヤはくすっと笑う。
「……映画観賞しようよってお誘いだよ?」
「…………は?」
盤理は冴夜歌の方へと振り向く。望月はコーラーを目を閉じながら飲んでいる。
……照れ隠しか? いいや、赤くなってないから違うか。
「いい曲に触れれば触れるだけ、いい音楽がひらめくこともあるからってだけ。下手な勘違いしたら首絞めるから」
「勘違い? あ? 以外にお前、やさ……や、やめろぉ!! 首を絞めようとしてくんなぁ!!」
「感想会でしょ? わかってるの? ねぇ、わかってる? 意味理解してるのこの能無し頭は」
「は、はいぃ!! 理解してるから首絞めるな絞めるなアホォ!!」
冴夜歌は盤理の首に両手を回し全力で落としにかかる。
ぎぶぎぶと盤理が手を冴夜歌の手を叩くと彼女は盤理の首から手を離した。
「でも、QUEENもどっかのバンドに影響受けてたりすんの?」
「初期はレッド・ツェッペリンに影響を主に受けていたから、聞き比べてみるのも手ね」
「れっど、つぇぺり? ……ツェペリって、ドラキュラ公の奴?」
「それはブラド三世のことでしょ。しかもツェペリじゃなくて、ヴラド・ツェペシュ……私が言ってるのはレッド・ツェッペリン、ロンドンのロックバンドよ」
「……へぇー」
「本当にアンタって海外の曲に疎いのね」
「……め、面目ない」
ロック好きでも海外ロックが王道! とする人もいるだろうが、日本ロックが好きなロックファンもいると思いたい。何より俺がそうだから! ……すっごく甘えたことを言っているのはわかっている。
動画サイトで隠れて聞いてたのは主にボカロと邦楽の方ばかり聞いていた。
安海に勧められた曲を、聞いて、と言われたからだと説得して邦楽は聞いていたな。
ボカロ曲も一部聞いていたのも、そんな理由でゴリ押ししたからだ。
「……QUEENの曲を聴いて、他の海外のロックバンドの曲を知るのも、いいんじゃないかな。さっちゃんの家にはQUEENの曲は全部あったはずだし、また来た時に他の曲を聞くのも手だと思うよ?」
「いいのか!? 助かる!! 望月、お前が音楽好きでよかったわ!!」
「……っそ」
「ん? どうしたよ、望月。さっきから反応おかしいぞ? 生理か?」
「るっさい、ノンデリ男。そんなんだからバンリPだって私にバレたんでしょ?」
「え? な、なんでそれに繋がるんだよ!?」
「っぷ、ふはっ、あはははははっ」
「「……? カミヤ?」」
爆笑しているカミヤに二人は驚きを隠せない。
「……いや、二人って相性がいいんだねっ」
「はぁ!? どこがだよ!?」
「カミヤ、勘違いはいけない。バンはビジネスパートナー、カミヤはマブ」
「そこは俺もマブにしとけよ!?」
「はぁ? なら夏バンド関係なくバンドメンバーになるって言いなよ」
「それは無理、って……は? 何、気を使ってくれてんのそこは?」
「るっさいキモイ汚物レベルの思考回路マジでやめろ本気でやめろ鳥肌立つから」
「ノンブレス!?」
「あっはっはっはっはっは!」
「……そこまでウケるかぁ?」
「カミヤの笑いの沸点が低いからね」
その日、とても尊い時間を過ごした。
学生らしく、友人同士のやりとり。バンドメンバー探しで集まったメンバーではあるけど。
映画を見て、菓子食べながらだべって。
感想言い合ったりCDの貸し借りしたり。
……きっと、後悔する道を自分から行っているのはわかってる。
でも、この一時が、俺の老後にとっての夢のような時間だったと。
誇れる日であってほしい。




