第二〇曲 ライブハウス ダーティロックへ
「はー……野上をバンドにいれるのとベース担当を探さなくちゃかぁ」
望月たちと別れ段々期限も過ぎて行ってしまう気がしてならない今日この頃。
望月とカミヤも探すと言ってくれてはいるが、ベース担当で思い当たる人間なんて誰もいない。
「……野上以上にいいキーボードはいないと思うんだよなぁ」
ベースのことも考えなきゃだけど、野上に関しては根気よくいかなくちゃか?
けど、今すぐ会いに行くのは少し控えるべきなのもわかってはいるが……っ。
「……望月からもらったこれ、使ってみるか」
それはライブハウスのチケット。
東京ではあまり知られていない小さな場所で、名前はダーティロックというライブハウスだ。
なんか、すっごくカッコいい響きだが……今はベース担当を探すためにも一度行くべきだ。
「よし……!!」
盤理はさっそく、新宿方面へと向かった。新宿駅から降りて、右の方向だったはず。
確か、徒歩5分でつくって望月が言ってたな。
「えっと……こっちかな」
新宿はあまり来ることが多くないため、スマホのマップで調べながら目的地に向かう。
東京の東京駅周辺は政治の町と呼ばれ、新宿駅方面は文化の町と言われたら納得はするだろう。
多彩な色が溶け込み、膨らみ、混ざり合っている。
まるで色相の全ての色がふんだんに扱われた区と評しても相違ない。
……というのが、望月やカミヤの意見でもある。俺も初めて来たばかりで色々な街並みを眺めるが、まるでこの新宿は眉目秀麗な貴婦人のような区だと感じた。
俺が住んでいる場所よりも淑やかな落ち着きを感じられて、ちょっと居心地が悪い。
……望月感がある区って感じなんだよな。悪口ではないし、俺の中での意味も罵倒的な意味じゃない。
「……ここか?」
白壁の上に赤い看板にダーティロックの名前を発見する。
マップの地図ではここってなってるし、間違いないだろう。
ダーティロックというライブハウスは下に降りていくスタイルの階段がある。
横には壁一面に色々な広告らしいポスターや、グラフィティアートと呼ばれる落書きなんかもある。
完全に下りれば、赤と黒のハーリキンチェックな床が広がっている。
「……あら、お客さん?」
短く刈り上げた白髪赤いメッシュが入った紫の瞳を持つ女性がそこにいた。
首にはベルト風のチョーカー、洒落た白い文字のロゴが入った黒シャツと、ホットパンツに赤いスニーカーを履いている。スポーティにも見えて、ロックにも見える彼女の格好はおそらく望月が言っていたオーナーなのだろうか。
「えっと、知り合いにここを勧められて」
「そうか、好きに見てってくれ。あたしはここのオーナーの噺家だ」
「は、はぁ」
「ステージはあっちだ」
「は、はいっ」
下手にバンドメンバーを探しに来たと言ったら追い出されると思って、俺は表面上の理由を口にする。
中は意外に広く、通った道にバーみたいなところがあるのを確認しながら案内される。
「ここが……!!」
初のライブハウスに感動を禁じ得ない。
感動に身を震わせていると、他の客だと思われる人たちが中にいた。
よく見れば、女性客が多い気がするが……?
「あ、あの噺家さん……今日はどのバンドが歌うんでしたっけ?」
「ん? あぁ、それは見てからのお楽しみにしな」
「え? で、でも――」
オーナーである噺家さんは去っていくのを見つめていると気が付けば、バンド演奏が始まっていた。
なんだなんだと思って振り返れば、ステージにはバンドらしい人物たちが立っている。
そこには、よく知らないバンドたちが続いた。
明らかに上手いって感じるバンドと、ちょっと下手って感じるバンド、多種多様で、個性があった。
最後のバンドになり迫力のある演奏の中、俺は一番にベースの音に注視した。
「……すごい」
指捌きもそうだが、徹底して自分の音を持っていると感じさせるベースの音だ。
歌っているボーカルも悪くないが、望月ほどは上手くない。なんていうか、カリスマ感がないっていうか……普通のバンド感? というか。一般的によくあるバンドのボーカルっという印象に留まっている。今のバンドの中で一番悪いのはボーカルだ、一番いいのはベース、二番目がギターって感じ。
ドラムはそれほどでもない普通って感じがする。バンド名はどれもちゃんと覚えてない。
大抵バンドから引き入れるなんてありえないことだとわかっているからだ。
バンド名とか詳しく知らないで聞いてるけど、ここまでバンドって差が出るんだな。
「……ありがとうございました!!」
バンドの演奏が終わり、観客は帰り始める時間となった。
「……どうしたもんか」
盤理は口元に手を当てて溜息を吐く。
俺は一番注目したのは最後のバンドだ。
ベースの人のこと、わかればいいんだけどな。
赤毛で、口から覗くギザ歯。金色の瞳……あんな個性的なの、あのバンドで一番尖った見た目だった。
身長も高くて、きっとカミヤよりは低いけど相当だ。
「流石君、すごかったねっ」
「うんうん、わかる!」
「……ちょっといいですか? そのさすがって人、最後のバンドのベースの人だったりします?」
俺は二人組の女性に声をかける。
なけなしのコミュ力が光らせる瞬間、逃すなよ俺。
「え? だ、誰?」
「あーえっと、俺ライブハウス初めてで。最後のベースの人の演奏すごかったなぁって思ってて……バンドメンバー探してるんですけど、あんなに上手い人と一緒にできたらうれしいなって思ったりして」
「「だよねだよね!! そうだよねっ!!」」
「うぇ!? は、はい」
「流石君は今回のバンドメンバーの補欠だったみたいなんだけど、将来立派なベーシストになる男なんだから!!」
「普段ナルシストだけど、嫌な奴じゃないから!!」
「そ、そうなんですか……俺の学校の先輩だったら頼みやすいんですけどね」
な、なんかぐいぐい来るなこの人たち。
ナルシストって嫌な奴だろ大抵。
「君、どこの学校の生徒?」
「あ、えっと希律学校です」
「え!? じゃあオナ高じゃん!! アタシたちもなんだ、君は何年生?」
「あーっと……二年です」
「じゃあ、アタシたちの後輩かぁ。流石っちも三年生なんだよねぇ」
「そうなんですか?」
「うんうん、連絡先交換しない? 私たちの方から連絡することもできるけど」
彼女たちの提案に俺は素直に頷きそうになる。
誘うのに都合がいいとは思うが、ナルシストの人間が知り合いから、っていうのはどうなんだろう。
逆にそういう人間は、自分が惚れました! っていう方がバンドメンバーになるんじゃないのか? 可能性に賭けてみるか。
「……いいえ、二人の連絡先だけもらってもいいですか? 今後相談することがあると思うので」
「え? でも」
「流石先輩の連絡先は自分でもらいます。俺があの人のベースに惚れたんで」
「……いいの?」
「はい」
「そっか、じゃ交換しよっか」
「え!? 千里、いいの!?」
「流石君を応援するって約束したの、忘れたの?」
「あー……じゃあ、いっかっ! しよしよ! 連絡交換っ」
「お願いします」
スマホで二人の女子の連絡先は、名前はフルネームで、オナ高と叫んでテンションが高く会話していた方の少女は埜切美風、後から話しかけてきて落ち着いて話していた方は胎中千里と連絡先の名前にある。
よし、これで流石先輩にバンドメンバーを誘う時に彼女たちに相談しやすくなっただろう。
「ありがとうございます、お二人とも」
「いいよ、えっとバンリ君、でいいんだよね?」
「はい」
「んじゃ、こんごともよろー! バンドメンバー集め、頑張ってねー!」
「応援してるから、無理はし過ぎないでね」
「はい」
スマホで二人の連絡先を交換した盤理は、新たな目標は定まった。
流石という先輩ジーニストを望月のバンドメンバーにすること。
盤理は新たな希望を胸に後日、望月たちと会う約束を取り付けてから寝るのだった。




