第一八曲 新曲のためのアウトプット作業
俺と望月、守息は別れ自宅に帰った。
その間にも、新しい曲の作曲をするために色々アウトプットの作業に入っていた。
母さんが部屋に入ることがないのは作曲作業やアウトプット作業も楽だ。
夏のイベントやライブハウスに向けての曲、どういう物がいいかも考えておかないと。
数曲は要るよな……うーん、どうしたものか。
「一人だと、似た雰囲気の曲になりがちなんだよな……どうしたものか」
まず、夏らしい曲も作っておきたいが、それは望月の叫びという分類に当てはまるだろうか。いや、曲の雰囲気が刺されば夏らしい、自分たちの不満とか鬱屈した感情を吐露する系、でいいはず。
とするなら、だ。
盤理はパソコンのテキストでメモを取りながら、作曲する曲のイメージを考える。
望月なら、自分の名前の名前の冴えた夜の歌、って名前から何か連想できる物は。
「月夜……ドビュッシーの月の光系みたいな曲は向いてないよな」
まず、可能性の一つとして月夜をメイン。
他に想像できる物、叫び……訴えたい、吐き出してしまたい、自分の気持ち。
「ありきたり、だよな……」
ファンに刺さるか? そんなの。
ただ自分の不満を、訴える手段の一つは音楽なのはわかってる。
……でも、望月のアレンジしてくれたあの曲は、確かに俺に刺さった。
なら、駄目ってわけじゃない。やり方を少し工夫すれば、あるいは……?
「創作意欲が、どんどん湧いてくる……っ」
キーボードを打つ手に熱が籠る感覚がする。
今まで、こんなことなかった。望月と出会って、俺も変わってきているってことなのか。
自分のために歌う曲より、誰かのために作る曲の方が考えやすくて楽だ。
望月が言っていたんだ。
望月自身の抱えた痛みを、俺に伝わるように言い方を変えているだけなんだって。
なら、伝わるように。誰かに響くように。誰かにとっての何かになれるように。
スマホから、望月用に設定してある曲が流れた。
「……っと、なんだ?」
俺はベランダに出て、望月と通話のボタンをタップしてから耳に当てた。
「どうした? 望月」
『……作曲してるだろうなって思って』
「ああ、大丈夫だ。徹夜は慣れてる」
『社畜みたいなセリフ』
「あ、あはは……あるだろ? 夢中になったら朝になってたりすること」
『否定はしない』
「だろ? ……よかった」
なんだ、望月も好きなことに没頭してたら徹夜とか、しないわけじゃないのか。
……共感できる点なんて、特別ないと思ってたのに。
いや、共感手出来る歌を歌える望月は、もしかしたら世界で本当は一番優しい奴なのかもしれない。
普段の言動は目も当てられないほど、どストレートだけど。
『何が?』
「いいや、お前も普通なところあるんだなって」
『……好きなことがあるなら、普通でしょ』
「普通、普通かー……そっか」
天才と凡人の差を、見せつけられている気がする。
俺の苦悩が解からない、とか、そういうわけでもないかもしれないけど。
普段の言葉が尖ったナイフみたいな鋭利さもある時があるのに。なんでだろ。
望月が嘘をついていると感じないから、より彼女の言葉がずっしりと重く頭に回ってくる。
『? 何?』
「望月って、自由じゃないからあんな歌詞、思いついたんじゃないのか?」
『……否定はしない』
「ははっ、だろ」
少し濁す当たり、言いづらいことなんだろうとわかっていてもどうしても聞きたかった。
『バンも、自由じゃないんでしょ』
「うん、だからお前の歌は俺の胸に響いた。そんなんでも、いいのかな……もっとカッコいい言葉とか言えたらいいのに」
『それは私が考える、もしバンも考えたくなったら一緒に作詞をすればいいだけ。バンは曲を私たちのために作ればいい。お題がある方が作りやすいでしょ』
「まぁ、言えてるかもな」
『貴方の思う、曲を作ればいい。編曲は他の人間に任せてもいいし、自分で全部は抱えなくていい』
「……それも、そうだよな」
……なんだ、望月も優しい言葉をかけれるじゃないか。
今日の月明りの穏やかな銀色が、優しく俺の心を触れているようで、涙が込み上げてきた。
「……で、一番聞きたいことはそれだけか?」
『何、その言い方。失礼』
「短期間でお前に影響されたのかもな」
『自分を影響力がある人間と思ってない、私は……私の復讐を果たしたいだけだから』
「復讐?」
『……なんでもない、おやすみ』
「あ、ちょっと待てって……おいっ!」
ポロンと音が鳴ったのと同時に通話が切られたのだとスマホが告げていた。
「……気になるところで切るなアイツも」
復讐、復讐、か。
音楽の形は人それぞれだろうけど、望月は誰かの復讐するために歌っているなら。
その憎悪は、どこに向かっているんだろう。
友人か、家族か、大人か。いや、人によって本当にそれぞれだよな。
「……なんか、閃きそうなのにな」
望月が言っていた復讐心が、彼女の歌に滲んでいたのなら。
その怒りは、きっと。
「……作曲、するか」
今は、特別考えないようにしよう。
ただ、望月の名前をよくよく分解すると、望んだ月に向かって冴えた夜の中で歌う。
って、なるのか。なんか、オサレ感っていうか、中二病っぽいって言うか……正直、その単語だけ聞くなら、俺もちょっとカッコいいなんて思ってしまう自分もいないわけじゃない。
月、って、案外望月と俺も繋いでいる縁だよな。
「……月、かぁ」
盤理はぼんやりと、夜空に浮かぶ三日月を眺めながら呟いた。




