第一一曲 初めての交渉失敗
「……困ったな」
盤理は非常に困っていた。
まず、俺は野上をバンドメンバー候補に個人的に考えている。
けど、クラシック命って感じの奴がロックが好きかどうかよくわからなかったので望月には報告じまいでいる。いきなり声をかけるなんて言う陽キャテクニックを持たない俺には、野上に話しかけるために何か話題作りをするべきだと思い、彼を観察する日々が続いた。
俺は屋上の塔屋の上で昼ご飯を食べていた。
屋上の床に、野上は弁当箱を持ってやってきていたのである。
「…………」
まず、野上を観察して知ったのは、生真面目な優等生キャラ、ということだ。
しかも風紀委員の委員長で、学校では友人と呼ぶような人物は特別作らず、ピアノに熱意を全力でかけているタイプだというのがよくわかった。そして、つまらないことかもしれないが、身長が低いことを気にしているのか牛乳パックを屋上で飲んでいるのを度々見かけている。
誰にもわからないようにしているんだろうけど、最初はびっくりしたよ俺。
……俺と似たタイプ、というイメージがあるけど、雰囲気怖いんだよなぁ。
盤理は、野上に声をかけようか迷っていた。
「……何か用ですか」
え? と声に出さず、俺は野上の言葉を耳で拾う。
空耳の可能性もあるし、とりあえず黙っておくか。
「何か、僕に用があるのか聞いてるんです、貴方でしょう? 駒板盤理」
「あ、あはは……バレてたんだ」
盤理はサラダサンドを片手に持ちながら、塔屋から降りて野上の前に姿を現す。
本当はもう少し自分の思っている彼への二度目の会話は、もっとスマートに話そうと思ってたんだけど……バレバレだったようだ。
「ずっと鬱陶しい視線が嫌だったんですが、なんでじろじろ見てきてたんですか」
「……えっと、野上はバンドとか興味ある?」
「ないです、僕はロックなんて叫べばいいだけみたいなアーティストたちの曲なんかに興味ないので」
カチン、と頭に来たがぐっと堪える。
ロックのことを知らないヤツにとってはそういう受け取り方をする奴も、いる、よな。
「い、いやー! それどっちかというとデスメタルとかじゃね? ロックもただシャウトばっかりする曲とかじゃないしいいよー? ロックー」
「そうですか」
バッサリと切り捨て、箸で玉子焼きを食べる野上にすっごくへこむ。
い、いや……クラシック好きがこういうタイプばっかりではないと思うから、偏見は持つな俺よ。
「ロックって結構カッコいいものとか色々あるよ?」
「繊細なピアノの旋律に勝る物なんて何もありません、僕には……ピアノさえあればいい」
最後の野上の言葉が、何か抱えているのか、一瞬死んだ目をした気がした。
……なんで、そんなにクラシックに、いいやピアノに拘ってるんだろう?
もしかして、変な地雷踏んでないか?
自分の地雷を踏まれるものほど嫌な物はないもんな。
「じゃ、じゃあさ、一曲俺の好きなロックの洋楽があるんだけど、聞いてみてよ」
「なんで僕は聞かなくちゃいけないんですか、嫌です」
「で、でも……奏には聞いてみてほしくてさ」
「っ、不愉快です!! 僕を名前で呼ばないでください!!」
食べ途中のお弁当を野上は片付けると、屋上の階段の方へ歩き出す。
う、うわあ、地雷間違って踏んだみたいだ。
「僕は、自分の名前が嫌いなんです。今度もし呼んだら、許しませんから」
バタンと、野上は去った。
俺は頭を軽く掻いた。
「……名前にコンプレックスあり、か」
望月に野上の歌を作ってもらういい材料になったと思えば、いいか。
けど、ちょっと反省はしないとな。
盤理はチャイムの音が聞こえて、慌ててサンドイッチを口に突っ込んで教室に戻って行った。




