↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は魔王を笑わせるために、勇者を育てる  作者: 浦賀やまみち
第二章 女子高生の勇者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/12

第09話 荒野に置いてけぼり




「ほら」

「わっ!?」



 朝一番、鞘付きの刀を放る。

 リンは慌てて受け取ろうとする。


 しかし、手の中で滑らせ、一度は落としかけた。



「わわっ!?」



 慌てて掴み直す。

 リンは刀を見つめ、それから俺に怪訝そうな目を向けた。



「やるよ」

「えっ!?」

「剣より、そっちのがいいだろ?」



 剣と刀は、似ているようで違う。

 リンが積み重ねてきたものを活かすなら、刀のほうがいい。


 だが、この世界では、剣と刀を比べれば剣のほうが圧倒的に主流だ。

 刀は遠く東の限られた地でしか使われていない。


 この辺りまで流通してくることは、ほとんどない。



「それは、はい……。

 でも、いいんですか?」

「出世払いでいい」



 だから、部下に東の果てまで探しに行ってもらった。

 かなり値段を請求されたが、先行投資だ。




 ******




「よし、目隠しを取っていいぞ」

「はい」



 リンはゆっくりと布を外した。

 辺りを見渡し、しばらく固まっていた。



「……どこ?」

「大陸の西のほうだな」

「……西?」



 当然だろう。

 街の近くは、草原と麦畑、それに森が広がる穏やかな場所だった。


 だが、ここには小さなオアシスがあるだけ。

 見渡す限りの荒野だ。



「あの街から、ずっと遠いところだ。

 魔法で、転移した」

「先生って、魔法が使えたんですか?」



 リンは驚いたように俺を見る。

 その胸元には、先ほど渡したばかりの刀が強く抱えられていた。



「お前、毎日見てただろ。

 ほら、これだよ、これ」



 俺はいつものように、人差し指の先に小さな火を灯してみせる。

 そのまま、煙草に火をつけた。



「全然、違いますよ!」



 即座に返ってきた言葉に、思わず苦笑する。


 まあ、気持ちは分からなくもない。

 リンにとっては、ライターの代わりでしかないのだから。



「これ、一週間分の食料な」



 ドスッ、と音を立て、背中の荷物を地面へ置く。

 久しぶりに軽くなった肩を、ゆっくり回した。



「えっ!?」



 リンが目を丸くする。



「一人で生き延びてみせろ」

「えっ!? ちょ、ちょっと待ってください!」



 慌てた声が、荒野に響く。

 俺は大地を軽く蹴り、そのまま宙に浮いた。



「また一週間後にくるから、がんばれ」

「せ、先生えええええっ!?」



 さらに高度をあげる。

 俺が使える転移魔法は、少しばかり使い勝手が悪い。


 遮蔽物があると、そこで止まる。

 だから、空高くまで飛ばなければならない。


 ついでに、疲れる。



「あっ、言い忘れた」

「えっ!?」



 俺は上昇を止め、下を見下ろした。



「どっちに向かっても、街までは十日は歩くから」

「……はい?」



 リンの表情が固まった。

 面白い顔だった。



「まあ、死ぬなよ」

「お、おにいいいいいいっ!」



 荒野に、リンの叫び声が響き渡った。




 ******




「ふーーー……。」



 リンがいるオアシスから遠く離れた岩山の中腹。

 テントを張り終え、一息つきながら煙草に火をつける。


 すでに陽は沈んでいる。

 焚き火のそばに置いた岩を椅子代わりにして腰を下ろした。



「さて」



 目を閉じ、能力を解放する。

 意識が、どこまでも広がっていく。


 すぐに、リンを捉えた。



「……また泣いてるのか」



 さすがに音までは拾えない。

 だが、リンが膝を抱え、項垂れて座り込んでいるのは分かった。


 テントは張っている。

 焚き火もある。

 夕飯も済ませたらしい。


 リンがこの世界に来て、三か月。

 及第点をやろう。



「お前は、邪魔だ」



 足元の石を拾って放る。


 石は、リンへ向かおうとしていたサイクロプスの頭部を粉砕した。

 首無しになったサイクロプスが、荒野に倒れ伏す。


 少し遅れて、地を穿つような轟音が届く。

 驚いたリンが飛び起き、辺りをキョロキョロと見渡している。



「くっくっくっ……。」



 俺は肩を震わせた。



「お優しいのですね」



 背後からかかった声に、振り返ることなく応える。



「まあ、今のあいつじゃ、まず勝てない相手だからな」

「……今度の勇者候補は、女ですか」

「言い方に棘があるな」



 ただ、今夜は様子が妙だ。

 振り返ると、女は明らかに不機嫌そうな顔をしていた。


 長い銀髪。

 褐色の肌。


 ダークエルフの彼女の名前は、ネフェリア。

 俺直属の隠密部隊、その筆頭を務める女だ。



「あの女の刀、探すのに苦労しました」

「おう、ありがとう」

「苦労しました」

「……ちゃんと聞こえてるぞ」

「褒美があってもよくありませんか?」

「……渡しただろ?」



 どうしたのだろうか。

 やけにしつこい。


 普段のネフェリアはクールで、誰よりも自分に厳しい女だ。



「月が綺麗ですね」

「おう。雲一つ、ないしな」



 急に夜空を見上げたネフェリアに、首を傾げる。


 俺もネフェリアも暗視能力を持っている。

 月が出ていようが、出ていまいが関係ない。


 ネフェリアは眉を寄せ、じっと俺を睨んだ。

 やがて、深くため息をついた。



「ずいぶんご無沙汰です。お情けをいただけませんか?」

「あーーー……。そういう気分じゃないんだが」



 ようやく理解した。

 ただ、千年以上も生きていると、この手の機微には疎くなる。


 もっとも、ネフェリアも六百歳を超えているのだが。



「苦労しました」

「……分かった、分かったよ」



 俺が愛しているのは、魔王である彼女一人だけ。


 しかし、彼女は長い眠りが必要だ。

 その間、俺の男としての欲求を満たせないことが、彼女には不満というより、不安らしい。


 そこで、彼女は公認の相手を何人か用意している。

 ネフェリアも、その一人だ。


 そんな気遣いは必要ないのに。



「あとでな」

「やった!」



 俺は、いつの間にか手を止めていた煙草を深く吸い込む。

 ゆっくりと夜空へ煙を吐き出した。


 まったく、賑やかな夜だ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。