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俺は魔王を笑わせるために、勇者を育てる  作者: 浦賀やまみち
第二章 女子高生の勇者

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第07話 新たな勇者候補




「はぁーーー……。」



 朝の賑わいが過ぎた、冒険者ギルドのロビー。


 ソファーの背もたれに左腕を預け、首を仰向ける。

 ゆっくりと煙を天井へ吐き出した。


 好みの味ではない。

 それでも、煙草は煙草だ。



「ノープさん!」

「うん?」



 呼び声に応え、ソファーへ深く預けていた身体を起こす。


 ノープ・メルツ。


 今は、そう名乗っている。

 意味も、由来もない。



「もう、とっくにお昼前ですよ! 今日もサボる気ですか!」



 馴染みのギルド嬢がお冠だった。

 胸を張り、腰へ両手を当てて俺を睨んでいる。



「いや、先週働いたしさ。今週は休みでいいかなって」



 そう言うと、ギルド嬢は呆れたように大きくため息をついた。


 正直に言おう。

 最近の俺は、とにかくやる気が出ない。


 なにせ、世界を東へ西へと渡り歩いて、八年。

 これといった勇者候補が見つからない。



「そんなだから、その歳になっても金ランク止まりなんですよ!」

「ははっ、こいつは手厳しいな」



 冒険者をやっているのは、都合がいいからに過ぎない。


 冒険者ギルドとは、突き詰めれば何でも屋だ。

 常に人手不足で、名前さえ名乗れば一員として迎えられる。


 銅から始まるランクを上げ、銀を経て金に到達すれば、正式な身分証も手に入る。

 流れ者には、これほど便利な肩書きもない。


 つまり、その先を目指す理由がない。


 むしろ、先へ進むほど目立つ。

 それは俺にとって都合が悪い。



「大体、ここは喫煙所じゃないって、何度も言ってるじゃないですか!」



 だが、周りから見れば、ただの駄目なおっさんらしい。

 少し悲しい。


 この街は、それほど大きくない。

 二年前、この街を訪れた頃は、おっさんの俺でも『期待の新人』なんて呼ばれたものだ。


 それが今では、ギルド嬢に怒鳴られてばかりである。



「いや、でもさ……。

 宿で吸ってると、部屋がヤニ臭くなるって追い出されるんだ。

 酒場はまだ開いてないし、外で吸えば奥様方の視線が痛くってね」



 それに、この街は喫煙者には厳しい。

 みんな、隠れるように吸っている。


 先々代の領主が煙草嫌いで、撲滅運動なんてアホなことをやったらしい。

 今ではその政策もなくなったが、影響は残り続けている。



「当然ですよ! なんですか、この吸い殻の量は!」

「新しい銘柄を見つけてさ。

 ほら、ちょっと甘い香りがするだろ?」

「……あっ、ほんとだ」

「失敗したよな。俺、苦みのある葉が好きなんだ」

「知りませんよ!」


 嫌煙のことさえなければ、この街は居心地がいい。

 近隣領主同士が友好的で、大きな争いは起きない。


 この街へ来た頃は、まだマフィアもいた。

 俺に難癖をつけてきたので潰した。


 それでも懲りずに新しいのが来る。

 モグラ叩きみたいなものだ。


 そして、税金が安い。

 税金が安いということは、その分だけ煙草が買えるということだ。


 あと三年くらいは、この街に腰を据えるつもりでいる。



「ははっ、違いない」

「まったく、もーーーっ!」



 ギルド嬢は唇を尖らせながら、テーブルの灰皿を手に取る。

 そのまま立ち去ろうとした彼女を、俺は呼び止めた。



「いやいや、何か用があったんじゃないのか?

 片付けてくれるのは嬉しいけどさ」

「そうでした! 暇そうなノープさんに、ギルドから依頼です!」



 どうやら、怒ることに夢中で本来の用件を忘れていたらしい。




 ******




「なるほど……。漂流者か」

「やっぱり、そうなんですか?」



 ギルドからの依頼は、新人冒険者のサポートだった。

 面談の前に、まずは遠目から新人の姿を見せられた。



「昔、見たことがある。似たような服を着ていた」

「……どうします? 断ってもいいんですよ?」



 この世界では、あり得ない素材を使った服。


 胸元の赤いリボン。

 紺のブレザー。

 チェック柄のスカート。

 

 左肩にかかったスクールバッグと、右腕に抱えた竹刀袋。


 間違いない。

 俺がいた時代の日本の女子高生だ。



「いや、受けよう」

「えっ!? いいんですか?」

「ああ、面白いじゃないか」



 俺は、久々に大きな期待ができる勇者候補との出会いに、思わず口元を緩めた。




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