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俺は魔王を笑わせるために、勇者を育てる  作者: 浦賀やまみち
第一章 眠れる魔王

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第04話 お前もまた、勇者だった




「業炎乱舞撃いいいいいいっ!」



 荒れ狂う両刃斧が、暴風のように振り抜かれる。

 斬撃に遅れて炎が走り、爆風が巻き起こった。


 だが、当たれなければどうということはない。

 俺は、剣を肩に担いだまま、身体を左右に揺らして斬撃をかわす。



「はい、おつかれ。

 名前だけは、強かったぞ」



 ついでに煙草をくわえる。

 目の前を横切った炎を利用し、火をつけた。


 堅牢と名高い城塞都市の城門は、完全に破壊された。

 周囲には、焼き焦げた人間とモンスターの躯が数多く横たわっている。


 この場に立っているのは、俺とミノタウロスの二人のみ。



「な、何なのだ! お、お前は何だのだ!

 お、俺様はっ! お、俺様は、魔王軍第六兵団の突撃隊長だぞ!」



 ミノタウロスが、その巨体をぶるぶると震わせる。

 先ほどまで見せていた余裕は、微塵も残っていない。


 お前らはやりすぎたのだ。

 俺が想定していたのは、国境の砦での小競り合いだ。


 だが、こいつらは調子に乗って、三つの街と五つの村を滅ぼした。


 これでは、この国は確実に傾く。

 魔王である彼女の将来の楽しみを減らしたのは、万死に値する。



「んーー……。俺を知らないってことは、その程度ってことだろ?」



 こいつらを派遣した宰相の判断は、間違っていなかったわけだ。

 魔王軍には要らない人材だな。



「貴様っ!?」



 ミノタウロスが怒り狂い、両刃斧を大上段に振り上げた。



「業炎乱舞撃だったな。こんな感じか?」



 俺は、剣を両手で持ち、暴風のように振るう。

 斬撃と同時に炎が走り、連鎖爆風が巻き起こる。



「ぐおおおおおおおおおおっ!?」



 ミノタウロスの巨体が何度も地面を跳ね、天高く舞い上がった。


 やがて、頂点に達すると、くるくると回転しながら落下。

 その巨体は、地面へ深々と突き刺さった。



「……悪くない。

 だが、派手なだけだな。三十点」



 パキーンッ、と音を立て、持っていた剣の刃が砕け散る。

 一応、値が張った剣だったが、しょせんはこんなものか。



「ば、馬鹿な……。

 お、俺様が三十年かけて編み出した技が……。」



 全身を焼かれ、血にまみれながらも、ミノタウロスは再び立ち上がった。

 その不屈さに、評価を少しだけあげてやろう。



「残念だな。俺は、お前よりずっと長く生きている」



 しかし、魔王である彼女の楽しみを損ねた罰は変わらない。

 手刀を水平に振り抜く。



「ぐふふっ! 何だ、それは!」



 ミノタウロスが笑う。

 タフなやつだ。



「……へっ!?」



 一呼吸遅れて、放たれた衝撃波が、ミノタウロスの首を断った。


 笑い声が途切れる。

 巨体は糸が切れたように崩れ落ちた。



「百倍は、な……。」



 煙草を吸い、煙を吐く。

 あまりにも楽に終わらせすぎたかと、少しだけ後悔した。



「さて、俺が用意したこの舞台。

 アレンは乗り越えてくれたかな?」



 この東門での戦いは終わった。

 俺は、夜空を赤く染める西の空を見上げる。




 ******




「うっ……。うううっ……。」



 魔王軍の本命は西門。

 そこは、東門以上の地獄絵図が広がっていた。


 崩れた城壁。

 燃え続ける街並み。

 人間か、モンスターかも判別が難しい躯たち。


 そして、その中心に一人の青年が、剣を支えに立っていた。


 満身創痍。

 自慢のサーコートを赤く染め、足元には己の血でできた血溜まりが広がっている。


 俺は、吸っていた煙草を指先で弾く。

 小さな火が真っ直ぐ飛び、燃え盛る炎の中へ消えた。



「アレン」



 俺たちは、先発隊だ。

 高位回復術を使える神官が到着するのは、早くても明日。


 生き残った兵も、街の者もわずかしかいない。

 誰もが、自分の命を繋ぐので精一杯だ。


 残念だが、アレンはもう助からない。


 大劣勢を覆し、勝利に大きく貢献した。

 まさに、それは勇者としての輝きと呼ぶべきもの。


 しかし、この試練を乗り越えることはできなかった。


 勇者に必要なのは、力だけではない。

 最後は、運もまた実力なのだ。


 魔王である彼女の前に立つまで、幾度となく降りかかる不運を乗り越えなければならないのだから。


 ただ、これほどの男が、ここで終わるとは。

 まだ、先へ進めるものだと思っていた。



「し、師匠、遅いですよ……。

 ……お、遅すぎて、俺が全部やっちゃいました」



 アレンは、俺とは違う方向を見つめていた。

 もう、目は見えていないのだろう。


 俺はアレンの前に立った。



「ああ、良くやった。

 お前が、この国を守ったんだ」

「や、やった……。し、師匠が褒めてくれた」



 嬉しそうに、アレンが笑う。


 その足が震えた。

 ここまで保たせていた気力も、もう限界らしい。



「楽になりたいか?」

「……お、お願いします」



 苦痛に震えていても、澄んだ返事だった。

 迷いも、恐怖もない。


 俺は頷く。



「では、逝け。お前もまた、勇者だった」



 手刀を水平に振り抜いた。




 ******




「あの騎士団の寮の飯、美味かったんだけどな……。」



 俺は、深い闇に包まれた森を歩いていた。

 振り返れば、木々の隙間から、燃え盛る城塞都市の赤が揺らいでいる。


 アレンがいなくなった以上、あの国にいる理由はない。

 また新たな勇者候補を探し、東へ、西へと流れるだけだ。


 だが、その前に魔王である彼女に会いたい。

 一度帰って、寝顔を見ておくか。



「……それと、宰相のやつには一言言っておかないとな」



 シガーケースから一本取り出し、火をつける。

 気のせいか、その味は少しだけ苦かった。




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