↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は魔王を笑わせるために、勇者を育てる  作者: 浦賀やまみち
第一章 眠れる魔王

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/12

第03話 サウザンドという男




「ふぅ~~……。酒は飲んでも飲まれるなってね」



 月明かりが照らす酒場からの帰り道。

 俺はほろ酔い気分で、路地裏を歩いていた。



「……んっ」




 だが、俺の感覚が何かを捉えた。


 酔いで鈍っていた思考を、能力で無理やり引き戻す。

 ぼやけていた視界が鮮明になり、酒の熱が身体から抜けていく。



「今夜は、三日月ですよーっと」



 それでも、気づいていないふりをする。

 俺は何事もなかったように、そのまま歩き続けた。


 あと五歩。


 建物と建物の隙間にある細い路地。

 そこにいる。


 俺は、両手をあえてポケットの中に入れる。

 剣術でいうところの『居合抜き』の応用だ。


 武器を持たず、相手に初動を悟らせない。

 奇襲の一手として、これほど便利なものはない。



(さあ、どうぞ)



 そう心の中で呟き、あと一歩まで近づいた瞬間。



「サウザンド様」



 闇の中から、聞き覚えのある声が響いた。



「私です」

「……何だよ。お前かよ」



 魔王直属の軍団に所属する、その一人。

 姿を見せていなくても、俺には誰だか分かっていた。


 サウザンドというのは、俺の魔王軍での通り名だ。


 本当の名前を知っているのは、魔王である彼女だけ。

 いくつもの偽名を使っているうちに、いつしか俺を示す通り名になっていた。



「お願いします。殺気を抑えてください」

「おっ……。すまん、すまん」



 言われて初めて、自分から漏れていた気配に気づく。

 慌てて、それを消した。



「……で、何?」

「宰相様の裁可が下りました。

 数日中、この国の北から侵攻を開始します」

「そうか」



 それだけ答えて、俺は夜空を見上げた。

 気づけば、シガーケースを探り、煙草をくわえていた。



「どうぞ」



 闇の中から、白くて細い手が伸びる。



「おう」



 その指先に灯った小さな炎で、俺は煙草に火をつけた。

 三日月へ向かって、煙を吐き出す。



「分かっていると思うが、ほどほどになって言っとけよ。

 あまり壊したら、魔王様が楽しめなくなるからな」



 俺は、路地裏の真ん中で足を止めている。

 傍から見れば、不自然な光景だろう。



「承知しております。

 いつも通り、愚か者は間引いて頂いて構いません」



 俺は近くの壁にもたれかかった。

 酔って休んでいる男にしか見えないだろう。



「どうせ、そういうやつらを選んでくるんだろ?」



 俺は、酔っぱらいらしく愚痴をこぼした。



「宰相に言っておけ。俺を便利に使うなって」

「そ、それは……。」



 一瞬、影の動きが止まる。



「わ、私の口からは……」



 その動揺を見て、俺は思わず苦笑した。


 彼女は、優秀な隠密だ。

 だが、昔から変わらないその生真面目さを、俺は嫌いではない。



「じゃあ、貸し一つだ。そう伝えておけ」

「承知しました。……では!」



 闇の中から、彼女の気配が消える。


 最後の一吸い。

 煙を細く長く吐き出す。



「まあ……。もういくつも溜まっているけどな」



 腰の高さまで左足を持ち上げる。

 煙草の先を踵側の靴底へ押し当て、残った火を消した。


 吸い殻入れへ収め、寄りかかっていた壁から身を起こす。



「飲み直すか」



 俺は、今来た道を戻ることにした。




 ******




「俺はやる! やるったらやるぞ!」



 王都を発って、四日目。

 アレンの鼻息は、いまだに荒かった。


 この四日間で、何度『落ち着け』と言ったか分からない。

 それでも、まだ言いたくなる。



「少しは落ち着け。

 まだ三日はあるんだ。着く前に疲れるだけだぞ」



 北の国境に、魔王軍の襲来あり。

 その報が届くと、国王はその日のうちに軍を動かした。


 あの国王、てっきり商売だけが得意な王だと思っていたが、決断力もあったらしい。

 この国は、強くなるだろう。


 そして、アレンが勇者として成長してくれれば言うことはない。

 魔王である彼女は、きっと喜んでくれるだろう。



「でも、師匠も何ていうか……。

 珍しく、やる気を出してますよね?」



 アレンの指摘に、俺は思わず足を止めた。



「んっ!? ……そうか?」



 自分では、いつも通りのつもりだった。

 だが、アレンから見れば違うらしい。



「だって、煙草を全然吸ってないじゃないですか?」

「お前な。今は行軍中だぞ。俺だって、それくらいわきまえているさ」



 呆れながら答える。

 煙草を控えるくらい、状況を見れば当然の判断だ。



「普段、息をするみたいに煙草を吸ってる師匠が……。」



 アレンは、本気で信じられないものを見るような顔をしていた。



「あーーっ! お前のせいで、吸いたくなってきた!」



 俺は頭を乱暴にかいた。

 せっかく忘れていたものを、思い出してしまった。


 すぐさまシガーケースを探り、煙草を取り出してくわえる。



「もういい、吸うぞ! 騎士団長が文句を言ってきたら、お前が説明しろ!」



 震える人差し指の先に火を灯す。

 紫煙を吸い込むと、たちまち気分が落ち着いた。


 爽快だ。

 これで隣にいるのが、魔王である彼女だったなら、もっと幸せだった。



「はい、任せてください!」



 しかし、今隣にいるのは、アレンである。

 俺は深いため息と共に、煙を吐き出した。


 本当に任せて大丈夫だろうか。

 昨日のように、騎士団長から延々と嫌味を聞かされるのは御免こうむる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。