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俺は魔王を笑わせるために、勇者を育てる  作者: 浦賀やまみち
第二章 女子高生の勇者

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第11話 勇者の品格




「ゴブウウウウッ!」

「はい、おつかれ」



 街のシンボルになっている噴水。

 その前に立つ。


 左手には煙草。

 右手には剣。


 迫り来るモンスターを、片手間に斬り伏せる。



「コボルッ!」

「おう、また来世でがんばれ」



 リンは激戦の東門へ向かった。

 俺の役目は、この大通りの中心を守ることだ。


 逃げ惑う者たちが集まる西門へ、モンスターを一匹たりとも向かわせない。

 それで、リンは目の前の敵だけを見て戦える。



「オーオオオオクッ!」

「踏み込みが浅い。もう半歩だ。……次」



 勇者とは、ただ強いだけでは駄目だ。


 リンより強い者なら、いくらでもいる。

 永い時の中で、そんなやつは飽きるほど見てきた。



「ゴブゴブゥ~~ッ!」

「勝てそうにないから、通り抜けようってか?」

「ゴブッフッ!?」

「剣が届かなくても、斬撃は飛ぶもんなんだぞ」



 勇者とは、その名が示す通り、勇気ある者。

 勇者とは、その気高き心で弱き者たちを奮い立たせ、勇気を与える者。


 世界が、その輝きを認めたとき、勇者は勇者となる。

 それに呼応し、魔王もまた目を覚ます。



「ほら、どうした? さっきまでの威勢はどこに行った?

 考えるな。どうせ答えは変わらない」



 世界に仕組まれた因果など、俺には興味がない。

 俺にとって重要なのは、魔王である彼女が笑っていないと、世界が色褪せて見えることだけだ。



「いいね。それでこそ、モンスターだ。

 問題は、どいつも雑魚ばかりってことだ」



 彼女は、基本的に温厚だ。

 めんどくさがり屋でもある。


 彼女が目覚めると、魔王軍はおろか、世界中のモンスターが活気づく。

 人間たちを皆殺しにする、と騒ぎ出す。


 彼女は止めもしない。

 かといって、積極的に命じることもない。



「宰相のやつ……。

 前回が失敗だったからって、今度は加減しすぎだ」



 しかし、彼女曰く、魔王には一つの呪縛が仕込まれているらしい。


 発作的に湧き上がる、強烈な破壊衝動。

 その衝動に飲まれた彼女は、残虐性を増し、大きな破壊を巻き起こす。



「東門のあの指揮官っぽいオーガ、大丈夫だろうな?

 リンの糧になるくらいの相手ならいいんだけど……。」



 そして、人間が追い込まれれば追い込まれるほど、世界は勇者へ力を与える。

 最終的には、魔王すら凌駕し、世界に平和が戻る。


 破壊。

 再生。

 維持。


 世界は、そのワルツを永遠に踊り続ける。


 偶然とは思えない。

 誰かが、この世界をそうなるように作っている。



「つまらない仕事と思っていましたが……。

 こんな地で、壁を見つけられるなんて、僥倖です」

「おっ!?」

「どうか、お相手願いたい」



 だが、そこはどうでもいい。


 勇者は育てるが、彼女は滅ぼさせない。

 俺の目的は、それだけだ。




 ******




「名前は?」



 煙草の火を、左手の中で揉み消す。

 吸い殻を足元に落とし、女を見据えた。



「コウガと申します。

 東方の生まれゆえ、この地では耳慣れぬ名でしょうが、妖狐と呼ばれる種にございます」



 金色の髪を高く結い上げたポニーテール。

 薄紫の着物に、赤い羽織。


 腰には一振りの刀。


 一言で言うなら、『侍』だ。

 正確には、この世界では『サムラーイ』と呼ばれている。



「俺は、ノープ・メルツ。

 今は、そう名乗っている」

「……今は?」

「その先を知りたいなら、勝ち取ってみせろ」

「ふふっ、面白いですね」



 失敗したかもしれない。

 俺が東門へ行き、リンにはここでコウガをぶつけるべきだった。


 この辺りでは滅多にいない刀使い同士の戦い。

 きっと大きな糧になったはずだ。



「では、参ります!」

「いつでも」



 コウガは刀を鞘に納める。

 静かに腰を落とし、息を細くした。


 そして、ぴたりと動きを止める。

 なるほど、『居合い抜き』か。


 実力差を理解したうえで、たった一太刀に全てを懸ける。

 嫌いじゃない。


 その気迫に圧され、周囲の雑魚どもまで動きを止める。



「しっ!」



 裂帛の気合とともに、コウガが一足飛び。

 刀が閃いた。


 次の瞬間。



「なっ!?」



 俺は、首を狙った刃を、左手の指先で挟んだ。



「悪くない一撃だった。

 だが、素直すぎるな」



 言い終える頃には、コウガの背後へ回っていた。



「これほどとは……。ひゃあっ!?」

「一本、二本、三本。まだ若いな」



 もふもふの尻尾の根元を掴み、その本数を数える。

 妖狐は年を重ねるごとに、尻尾が増えるらしい。


 もう逝ってしまった友人は、八本の尻尾を持ち、四百歳だった。

 なら、三本なら百五十歳前後か。



「お前は、もっと強くなれる。

 どうだ、俺の部下にならないか?

 ……って、どうした?」

「はわわわわっ……。」



 気づけば、コウガは膝を落としていた。

 頬を紅潮させ、全身を小刻みに震わせている。



「サウザンド様」

「ん?」



 風に乗って、深いため息が聞こえた。

 近くに潜んでいるネフェリアだ。



「獣人にとって、尻尾の付け根はとても敏感な場所です」

「あっ……。」

「今、思い出しましたね?」

「……そうだった」



 再び、深いため息が聞こえた。

 俺は思わず、確認するようにもう一度尻尾を握る。


 カラン、と刀が地面に落ちる音がした。





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