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俺は魔王を笑わせるために、勇者を育てる  作者: 浦賀やまみち
第二章 女子高生の勇者

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12/12

第12話 選ぶのは、お前




「……んっ?」



 コウガを下した後、雑魚を相手にするのが面倒になった。

 煙草を吸いながら、東門へ向かう。


 道中、襲ってくるモンスターを適当に斬り伏せていると、遠くから大きな歓声が聞こえてきた。



「上手くやったか……。

 まあ、そうじゃないと困るけどな」



 思わず、小さな笑みがこぼれた。


 すぐにモンスターたちが圧倒的な有利を捨てて、逃走を始めた。

 それは、誰かの輝きが人々の勇気となった証だ。


 リンは試練を突破したのだ。


 ならば、これ以上の戦いは無駄でしかない。

 雑魚だとしても、いずれ魔王軍を支える者たちだからな。



「さて」



 大地を蹴って、空高く舞う。

 剣を振りかぶり、街中に響く声で叫ぶ。



「死にたくないやつは、伏せろ!」



 そして、投擲する。


 狙いは逃げるモンスターではない。

 それを追撃しようとする人間たちの間へ。



「爆砕烈破剣!」



 大地を抉り、巨大な爆発が巻き起こる。


 技名は適当だ。

 俺の奥義ということにして、それっぽく名付けただけである。




 ******




「うぅっ……。頭、痛い。気持ち悪い」



 一夜明け、リンは二日酔いだった。


 昨夜は、街を救ったリンを称え、街は朝までどんちゃん騒ぎ。

 俺はさっさと寝たけど、リンはそうでなかったらしい。


 変なところまで優等生である必要はない。



「お前、酒が弱いんだから、断れよ」

「だ、だってぇ~~……。」



 俺がため息をつくと、リンは机に突っ伏したまま泣き言を漏らした。


 水を少し飲んでは、すぐにトイレへ駆け込む。

 そんなことを、起きてから何度も繰り返していた。



「酒は、楽しむものだ。

 無茶をするものでも、逃げるためのものでもない」

「はいぃ~……。」



 俺は、リンの前に置かれた朝食を見る。

 一口も手を付けていない。


 せっかく宿屋の親父が朝早くから張り切って作ってくれた特別なメニューだ。

 朝っぱらからステーキはどうかと思うが、無駄になるのは忍びない。



「特別だぞ」

「……えっ?」



 俺は人差し指をリンへ向ける。

 のそりと、リンが半眼のだらしない顔を上げた。



「キュア・ディジーズ」



 淡い緑色の光が、リンを優しく包む。


 すぐにリンの目がぱちりと開いた。

 姿勢を正し、自分の両手を茫然と眺める。



「わっ!? すごい! 一瞬で……。」

「まあ、そういう魔法だからな」



 驚くリンを横目に、俺は肩をすくめた。


 高位の治癒魔法ではある。

 だが、この程度なら大した負担でもない。



「先生! 魔法も教えてください!」

「お前、才能ないから無駄」



 即答すると、リンの表情が固まった。

 きらきら輝いていた目が、あっという間に曇る。



「そ、そんなぁ~……。」

「全てを手に入れる必要はない。

 足りない部分は、借りればいいんだよ」



 俺はそう言って、窓の外を見る。

 天気がいい。


 しばらく黙ってから、リンへ視線を戻す。



「それより、お前はどうする?」

「……どうするとは?」



 ステーキを切り分けていたリンが、不思議そうに首を傾げる。



「この街に残るか、出るかだ」

「えっ!?」



 その瞬間、リンの顔から笑顔が消えた。


 俺は、シガーケースから煙草を取り出そうとして止める。

 代わりに、食後のコーヒーを一口啜った。


 本音は、煙草を吸いたい。

 でも、他人がいる食事の席で吸うほど、無粋ではない。



「俺は今日中に出発するつもりだ」

「ど、どどど、どうしてっ!?」



 リンが椅子を鳴らして立ち上がる。

 テーブルに手をつき、身を乗り出した。



「これから、ここで必要になるのは復興の力だ。

 俺は大工でもなければ、石工でもないし、行政官でもない。

 稼げない以上、他の街へ行く。当然のことだろ?」

「うっ……。」



 しかし、すぐに勢いは消えた。

 言葉に詰まり、視線を伏す。



「だが、それはお前も一緒だ」


「街を救った英雄だからといって、何かを背負わなければならないわけじゃない」


「それでも、残るというなら止めない。決めるのは、お前自身だ」



 宿屋のざわめきも止まっていた。

 そんな中、横から小さな声が聞こえた。



「……お姉ちゃん、どこか行っちゃうの?」



 宿屋のちびっ娘だった。

 幼い瞳で、不安そうにリンを見上げている。



「あうっ……。」



 リンは返す言葉を失った。

 口を開いたまま、完全に動きを止める。



「まっ、昼には出発する。それまでに決めろ」



 俺はそう言って、椅子から立ち上がった。


 煙草が吸いたい。




 ******




「俺に付き合う必要はないんだぞ?」

「いえ、決めたことです」



 隣を歩くリンは、前を真っ直ぐに見ていた。

 というか、街を発って以来、背後で遠ざかってゆく街を、頑なに振り返ろうとしていなかった。



「今は、まだ役立たずでも、居場所ってのは自分で作るものだ。

 街に戻れば、歓迎してくれるぞ」



 俺は苦笑しながら、リンの決意を揺さぶってみる。



「うーー……。先生のいじわる」



 リンは恨めしそうに俺を見た。


 どうやら、今更帰るのは格好がつかない、という理由ではないらしい。

 俺は青空を見上げ、煙草の煙をゆっくり吐き出す。



「久しぶりに、一人で旅ができると思ったんだがな」

「やっぱり! やっぱり、そうだったんだ!」

「だって、お前。いびき、うるさいし」

「酷い! 先生の馬鹿!」



 リンの叫び声が、そよ風に揺れる草原に響いた。


 まあ、元気になったなら何よりだ。







 ――第一部、完。


 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。



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