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恋したっていいじゃない③

「次! 注文は!?」

 

 カウンターでは、歴戦の闘士のような傷を負った料理人たちが、フライパンや大鍋を片手に荒ぶっていた。

 ランチタイムの忙しさは鬼気迫るものがある。


「何食べようかなあ」

 対照的に、のんびりとメニューを選ぶサシミ。

 完全にイラついているシェフが恐ろしく、レンカは彼を急かす。


「わ──わたしパスタで! サシミさんは?」

「じゃあぼくもそれにしようかな」

「生もあるよ!」

 

 料理人は続けて勧めて来た。

 生麺か乾燥麺か選べということだろうか。


「ええと、生パスタお願いします」

「あ、ぼくはサワークリームとマツの実のトッピングも」

「あァ?」

 料理人が目に見えて不機嫌になるのがわかり、レンカはハラハラした。


「マツの実なんかねえよ」

「じゃあ鬼グルミで」

「ねえよ、自分で獲って来い!」

「じゃあ……」

「サ、サシミさん、あっちで待ってましょ!」

 

 レンカはたまらずサシミをテーブルへ引っ張って行った。

 とりあえず無事注文がすみ、胸をなで下ろす。

 これ以上料理人を怒らせると、自分たちが材料にされそうだ。

 

 厨房では、彼らは高く燃え上がる炎を扱ったり、材料である魚に噛まれたりと、傷だらけなのもうなずけるワイルドな調理をくり広げている。

 

 ビーコンを手に食事を待つ間、レンカはサシミをまじまじと見た。


 砂漠の民族らしい、陽に灼けた肌に金色の瞳。

 髪色はオアシス村で会ったときと同じ砂色だが、短髪でなくくせのある長髪を後ろで束ねている。

 どう見てもランスヘッドバイパーを追い払ってくれた彼とは違うのだが。


「ぼくの顔に何かついてる?」

「砂がついてます」

 サシミは照れながら、無精ヒゲのように砂がまぶされた顔をおしぼりで拭いた。

 いつも彼は砂だらけだ。


「あのーオアシス村、ほんとに行ったことありません?」

「うん、ないなあ」

 あまり興味もなさそうだ。


 サシミはそのうち、おしぼりで首や耳、躰まで拭き始めた。

 完全に仕事帰りの飲み屋のサラリーマンのようで、

(わたしのこと、まったく意識してない証拠だわね)

 レンカはくやしさでプルプルと手をにぎった。

 

 プライドにかけて、なんとか思い出してもらわないと気がすまない。

 なにしろ自分はヒロインなのだ。

 ここでまた助けてもらったことも、イベント発生のフラグに違いない。


(わたしは攻略の鬼なんだから!)


「ちょっと失礼」

 レンカは席を立ってレストルームへ走った。

 ポーチを出し、急いで化粧直しをする。

 くちびるはいつもよりグロス増し増しだ。

 

 すましてもどって来たレンカを、今度はサシミがまじまじと見た。

(うふふ、わたしのキラキラのくちびる見てる見てる)

 サシミが顔を近づけて来る。

(釣れた!)胸中ガッツポーズを取るが、彼は声をひそめ、そっとナプキンをレンカへわたした。


「つまみ食いした? 油ついてる」

「あ、はい……」

(だめだ、このひとはもっとダイレクトに行かなくては)

 

 テーブルをはさんで、レンカはもう一度サシミを見つめた。

 彼はどんな女性が好みなのか。

 どんなタイプだろうと演じてみせる。  


(さあ、攻略開始よ!)

 

 まずは儚げ女子、控えめ上目遣い!

「わたしのこと……ほんとに憶えていないんですか?」

 

 王道ツンデレ、強気に目を逸らし!

「べ、別にあんたのこと憶えてたわけじゃないんだから」

 

 流行りのメンヘラ、瞳孔開いて!

「憶えてないんだ? あなたを殺してわたしも死ぬ!」

 

 理系女子は眼鏡をずらす!

「一度脳の検査したほうがいいわね」

(あれ、これはツンデレだっけ?)

 

 もう何が何やら分からなくなってきたころ、サシミが手を叩いてよろこんだ。

「きみっておもしろいなー」

「はは……よかったです。楽しんでくれて何より……」

 

 どうやらコントだと思われたようだ。

 力が抜けたと同時に、料理ができあがった合図のビーコンが鳴る。

 サシミがふたりぶんの皿を運んで来てくれた。


(あれ?)

 トッピングに、クラッシュしたピスタチオが散らばっている。

 厨房の彼らが、マツの実や鬼グルミの代わりに乗せてくれたに違いない。


「彼らはプロだからね、オーダーは極力応えてくれるんだよ」

 サシミはほくほくと皿の匂いを嗅ぐ。

 あの強面の料理人が、自分のぶんまでトッピングしている図を想像すると微笑ましかった。

 

 レンカが手をあわせると、サシミはすでに満足げに咀嚼していた。

 自分も早速カトラリーを取り麺をまぜる。

「いただきまー……きゃああ!」


 だが食事をすることなく、レンカは絶叫をあげて椅子ごと後ろへひっくり返った。

 不思議そうにレンカを見るサシミ。

 ほかのスレイヤーたちも、何事かとわらわら集まって来る。


「パっ、パスタが動いて……!」

「そりゃ、こいつら散策するもの」

(散策するボロネーゼってそういう意味!?)

「い、いやああぁ!」

 

 レンカは反射的に起き上がると、そのまま駆け出した。

 厨房から出て来た料理長が、ミートに絡まって蠢く()()()の皿を見下ろし、訝しげにつぶやく。


「注文、()って言ったよなあ?」



(もーいや! 完全にルートを間違えた)

 レンカはロビーを、早足でずんずんと突っ切っていた。

 

 取引も何も知ったことではない。

 正式な契約も発生していないし、なんなら自分でウィルスの存在を明らかにすれば、少女の事件は証明できるはずだ。

 

 スピネルの言う通り、『デザート無双2』は習慣や文化、まったく世界が違った。

(こんな場所で生活していけるわけがないんだ)


〝帰る? or 続ける?〟

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