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美少女のプロ①

 レンカが自分のゲームへもどろうとしたとき、アンバーがいく人かの女の子たちをともなって、歩いて来るのが見えた。


「レンカ? お前、何やってるんだ? それにその髪は」

「ア、アンバ~!」

 たった半日会わなかった仲間に郷愁が込み上げ、レンカはアンバーに泣きついた。


 ロビーのカフェで、レンカは少女たちとアンバーに『デザート無双2』でのいきさつを手短に話した。それでも依然ウィルスの件だけは省いてある。


「ワームなんて食べるの?」

「モンスターヤバいね!」

 少女たちはパフェをつつきながら、レンカの報告におおいに盛り上がった。

 制服姿の子が多いのは『ラブコンチェルト』のキャラクターだろう。

 

 悪い子たちではなさそうだが、レンカには失礼ながら、あまり賢そうには見えなかった。

 だが、初めて得られた共感とまともな食べものに心は弾む。

 

 ようやく人心地がついた中見回すと、ひとり世界観の異なる女性がいた。

 纏っているのはアーマービキニ、腰に巻いたベルトには多目的な装具と大槍。

 

 言わずもがな『デザート無双2』の女性スレイヤーだ。

 自分やここのキャラクターとは頭身が違う、迫力美女である。

 いつの間に顔見知りになったのか。

 

 アンバーの手の早さに呆れていると、彼女はレンカに気づき話しかけてきた。

「○△×◇@△?」

 

 当然、レンカには言葉がわからない。

 クエストでも数人受付けたが、どうやら彼女も異民族のN P Cノンプレイヤーキャラクターのようだ。


「あなたが新しい受付ですか? だってさ」

「アンバー、違う種族の言葉を話せるの?」

 レンカは驚いてアンバーを見る。

 彼は台本すら読み間違えていたのに。


「そりゃあ勉強したからね。プラットホームすべての女の子と仲よくなりたいし?」

 ヘラヘラと頭をかきながら、互いへ紹介する。

「彼女はシャルキヤ。こう見えて戦闘民族で凄腕のスレイヤーなんだよ」

 

 流暢な言葉遣いを聞いているとサハラの苦言が思い出された。

(受付は、すべての客と対話するスキルが必須なのだ)

 

 やや耳が痛いレンカに、アンバーはご機嫌でしゃべる。

「RPGの女の子とも会ったが、例の女王は復活したらしいぞ」

「しらたきの女王が?」


(でも、それなら誰からLPを分けてもらったんだろう?)

 複雑な心持ちだったが、少なくとも『エピックオブドラグーン』は存続の危機は回避したようだ。


「で、相談はなんだったか?」

 アンバーがコーヒーカップをおいたとき、カフェの入り口が大きくざわついた。


「あれは……」

 黄色い奇声をあげる少女たちの人垣を、見覚えのある(あか)い髪の長身がかき分けてやって来る。


「スピネルさまよ!」

「ちょっと通してくれないか」

「スピネルさま、わたしを殺して!」「ハートをひと突きで!」

「いや、それはゲームの話だから……」


 美少女ゲームの主人公は大抵地味な少年のため、尖ったキャラクターが眩しいのか、スピネルは女の子たちに大人気だ。


「ほーん。スパダリなんてここじゃSSRだもんなァ。で、なんの用? お前」

 嫌味を込めて不機嫌に脚を組み直すアンバーは無視し、スピネルが声を低める。


「それなんだが、またスチルが消えたんだ」

「また!?」

 スピネルの話では、自分のみの静止画だったのですぐに修復でき、幸いにもプレイヤーはいなかったと言う。


「自分のゲームの一大事にサブイベントをやってる場合じゃないだろう。帰ろうレンカ」

(どうしよう)やにわに躊躇が走る。


 さっきまでは確かに帰るつもりではあった。

 なのに、なんだかすっきりしない。

 

 先に返事をしたのはアンバーだった。

「いや、途中で約束を違えるのはわたしは感心しないな。同じプラットホームに集結した仲間なのだ、助けあわねば」

 一見まともなことを言っているが、女の子たちを横にはべらせ説得力がない。


「レンカは食事の違いに悩んでいるのよ」

 少女たちからもフォローの声があがるが、やはり思慮深さに欠けるのかなんとも端的だ。


「お弁当を持って行けばいいわ」

「モンスターもそのうち倒せるわよ」

「怖いときこそアクションを起こすの」

「わたしたちのバッドのほうがヤバいしね」

 にぎやかな意見の中、これでは話が進まないと思ったとき、


「なんとかなるわ。だってわたしたち、プロのキャラクターなんだもの」

 

 何気ない一言にレンカは顔をあげた。

 スピネルはさっさとやり取りを締めたいように、肩を鳴らす。


「な、だから言ったろ、ほかのゲームなんて」

「……うん、まったく違う世界だった」

 レンカはさし出された手をゆっくりさえぎった。


「だから、もう少しやってみる」

「な?」


「それまで、わたしたちのゲームのことお願い。お昼休み終わるから受付にもどるね」

「お、おい……」

 何か言いたげなスピネルを後に踵を返す。


 賢そうには見えない、など勘違いだった。

 印象だけで勝手に決めつけていたのだ。

 よく知っているはずのアンバーでさえも。


(あの子たちのほうが、よっぽど聡くてプロ根性のすわってる大人だった。厨房の料理人たちだって仕事に誇りを持ってる)

 レンカは『デザート無双2』のゲートへ足早で向かった。



「ずいぶんと長いランチだったな」

 カウンターのサハラは、レンカを険を帯びたまなざしで見下ろした。


「す、すみません……」

「まあいい。殊勝にももどって来たんだ、今回はよしとしよう」

 どうやらトンズラしたものと思われていたらしい。

 だが実際その通りだったので、反論できない。


「仕事がたまっているぞ」

 サハラが顎でしゃくった先には、注文書やらレシートやら、こまごまとした紙類がわんさと積まれている。


 レンカがげんなり嘆息するとサハラは、

「そう思ってヘルプを呼んだ」

 と、奥から手招きをした。

「きみはよく知っていると思うが」

 

 受付の制服を着た藍色の瞳の少年が、ふたりにウィンクのハンドサインを送る。

「獲物はいただき! なーんちゃって」

「カ、カイヤ! サハラさん、彼は……!」

 

 レンカはともかく、『デザート無双2』以外のキャラクターがプレイヤーに見られると、まずいはずだ。

 だがサハラは問題ないというふうにカイヤを見下ろす。


「彼にはプレイヤーのいない時間に働いてもらう。こちらも大型アップデート前の人手不足で困っていたところだ。きみを手伝いたいとやって来てね。天使のような子じゃないか」


(サハラさんは知らないからー!)

 天使は天使でも、悪魔に転じた堕天使だということに。

 

 こめかみをおさえるレンカの肩を、カイヤがニヤリと笑って叩いた。

「よろしく」

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